ベンチャーキャピタリストは決算書類のどこを見るのか

ベンチャーキャピタリストは決算書類のどこを見るのか




会社の成績表、決算書類。

PL、BS、キャッシュフローなど多くの項目が並べられています。

倒産するのか、成長するのか。

今回はベンチャーキャピタリストの視点として、決算書類における重要なポイントについてお伝えします!

「経理」と「財務」の違い

唐突ですが、経理と財務の違いってご存知でしょうか。

えっ!同じでしょ!

という方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん、同じ意味合いで使っている方もいらっしゃいます。

違いは以下のようになります。

経理

日々の会計取引を記帳し、帳簿にまとめることで損益計算書や貸借対照表などを作成する一連の業務のことです。

具体的には、伝票の起票、会計ソフトへの入力、帳簿の作成、得意先への請求、取引先への支払い、決算書作成、税金の申告などです。

財務

経理のまとめた帳簿や決算書をもとに、会社の資金繰りや予算管理、資金調達(銀行融資)、余裕資金の計画を行うことです。

経理は、会社から出ていくお金や、残るお金を算出します。

財務は、今後の事業活動に必要なお金の計画を立て、足りなければ資金調達をし、余裕資金があればさらなる投資先を検討します。

つまり、経理は過去の活動を元にした「過去」会計、財務は未来を予測する「未来」会計とも言えそうです。

大きな違いは「戦略」の有無かもしれません。

組織の活動結果をただ集計するのが目的なのか、組織のビジョンを実現する目的のために資金というツールをどのように設計していくのか、大きな違いではないでしょうか。

決算書類とは、「過去」の実績を表現したものでしかありません。

財務三表とは?

日本の会計基準では、以下の3つの表を財務三表と言われています。

損益計算書(PL:Profit and Loss statement)

貸借対照表(BS:Balance Sheet)

キャッシュフロー計算書(CF:Cash Flow statement)

今回は中でも最も重視されている、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)について確認したいと思います。

貸借対照表とは?

まず、貸借対照表(BS)です。

BSとは、Balance Sheet(バランスシート)の略です。

BSは、「ある一時点で、持っている財産の状態を、資産・負債、その差額である純資産に分けて表した表」です。

多くの会社の決算期は3月ですよね。

3月決算の会社の場合、3月31日時点での会社の状態を表している表です。

今まで蓄積してきた資産(預金、設備や土地、建物など)や負債(借入金など)の状態を、創業以来積み重ねてきた結果の表となります。

BSは、創業以来のストック(蓄積)してきた資産の結果を表しています。

このBSで見て、優良会社は資産が多く、負債も少ないといった傾向がよく表れています。

一方、倒産する可能性の高い企業では、連続赤字からの累積赤字により、自己資本がマイナスとなってしまっている会社も存在します。

会社運営のすべてを借入金などですべて委ねてしまっている会社もあるのです。

つまり、BSとは、創業からの成績表、とも言える表なんですね。

損益計算書とは?

次に損益計算書(PL)です。

PLとは、Profit and Loss statementの略となり、利益と損失を表した表となります。

PLは、「1年間に得られた収益から、かかった費用を引いて、利益を計算する表」です。

つまり、会社が1年間でどれだけの売上があったのか、そして利益をあげたか(または損失したのか)を表しています。

ポイントは、1年間です。

3月決算の企業の場合、4月1日~翌年3月31日までの1年間、その売上や利益(損失)を表しています。

売上から各種経費などをすべて差し引き、最終的に利益、または損失がどの程度計上したのかを理解することができます。

1年間の会社の成績表、とも言えそうです。

BSとPLの連動

貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)。

実はこの2つの書類、連動しているのです。

1年間の損益計算書の利益、または損失は、貸借対照表に反映されます。

2年連続、または3年連続の赤字を計上した場合、貸借対照表も大きく悪影響を及ぼし、会社存続の危険性をも映し出してきます。

一方、連続の大幅利益を計上できた場合、貸借対照表も大きく改善されます。

その他、財務三表のキャッシュフロー計算書(CF:Cash Flow statement)も連動しています。

相互に影響し合い、複雑に連動し、会社総体を表現できるようになっています。

組織を数値化し、多面的に理解できるような書類が、決算書類とも言えそうです。

ベンチャーキャピタリストは、どの項目を重視するのか

それではようやく本題です。

ベンチャーキャピタリストは、どの項目を重視するのでしょうか。

私の場合、まずは安定性(リスク)部分をチェックします。

自己資本(純資産)

安定性という側面から見ると、まず第一に重要なポイントは「自己資本」(純資産)です。

貸借対照表の右下に当たる部分です。

創業間もないベンチャー企業の場合、自己資本は殆ど資本金ほどしか計上されていないものです。

ただ、創業間もない企業でも、しっかりと収益を計上し、自己資本が増強されている企業もあります。

そして、資本金額。

アーリーステージのベンチャー企業の場合、自己資本は殆ど資本金ですが、大手株主がいた場合、この資本金額も大きいこともあり、一定の安定性を確保できている企業もあります。

なかには、連続赤字で債務超過となっているベンチャー企業も少なくありません。

この場合、出資を受けるか、借入をするか、対処できなければ倒産です。

自己資本を確認することで、どれだけの赤字を計上しても耐えられるのか、企業総体としてのリスクをある程度は把握することが可能となります。

粗利率

製造業、卸販売や小売販売などのモノを扱っている業種は「粗利率」が重要です。

損益計算書、売上高÷売上総利益で算出します。

粗利率は市場における商品競争力を表します。

希少性の高い商品は粗利率が高い傾向にあり、商品競争力も高く、収益力も安定しています。

一方、同業他社も多く扱っている商品は競争が激しく、粗利率は低い傾向にあります。

同業他社が扱っていない、人気のある商品を販売している企業の多くは、粗利率が高い傾向にあります。

つまり、商品やサービスに「価値」がどれだけあるのか、その指標としての数値が「粗利率」と考えます。

以前、売上高100億円の企業が、当期純利益500万円という企業がありました。

どこにでもある商品を、ただひたすら値引きしている会社でした。

なんと、粗利率1%!

売上100億円の規模でも、その価値は500万円なのかもしれません。

当期純利益(額)

一方、モノではなく、サービスを扱っている業種は、多くの場合、粗利率は100%です。

仕入れがない分、売上高=売上総利益となります。

昨今のメディア系IT企業の場合、粗利率100%の企業も少なくありません。

ただし、モノを対価としていない分、サービスを提供する従業員の数が多く必要だったりしますので、その分、人件費が多く計上される傾向にあります。

その場合、やはり重要な指標は「当期純利益」となります。

人件費や地代家賃、金利などの負担をすべて指しい引いた数値がどの程度利益を計上できているのか、重要な指標となります。

当期純利益を計上することは、その分、BSの自己資本に組み込まれますので、自己資本比率も高まりますし、企業体としての安定性を強固にします。

アーリーステージのベンチャー企業においては、創業当初の数年間は赤字を計上するケースは多いので、一概には言い切れません。

ただ、優れた経営者は「創業期の事業」として、まずは利益を計上できる事業で会社を軌道に乗せ、本来の会社設立の目的でもある中長期事業を同時に走らせる、といった「クレバー」な経営者もいます。

創業間もないから赤字でもしょうがない、という安易な姿勢でいる経営者は、今後の事業運営に不安が残る、と言えるのかもしれません。

番外編:売上構成比率の変化

もう一つ、重要な指標が売上構成比率の変化です。

アーリーステージのベンチャー企業の場合、一つの商品、一つのサービスに全リソースを投入し、成長することが望まれます。

しかしながら、大手の既存企業がある市場や受注までに時間がかかる事業もあるものです。

その場合、足元の収益を計上するために、売りやすい商品やサービスを敢えて投入している経営者も見られます。

販売チャネル開拓のため、敢えて安価に設定している商品などもそうです。

受託開発も手掛けながら、本来の自社システム開発を続けるケースも当たります。

事業毎、または単品毎の売上比率の動きも非常に重要です。

アーリーステージから、ミドルステージに代わるそのタイミングは、事業数の増減にも深くかかわっていることが多くあります。

決算書類から見えないもの

私の場合、決算書類から見出すものは、あまり重視しませんでした。

なぜなら、特にアーリーステージのベンチャー企業は、まだ真っ白なキャンパスに近い状態だったからです。

そのキャンパスに、どのような絵を描いていのか、それが経営者の仕事ではないでしょうか。

所詮、決算書類は「過去」の数値です。

大事なのは未来。

その夢に向かっていく姿勢と、考え方。

ベンチャー企業にとって、決算書類から見えないもの、それが一番大切なのかもしれません。