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【本日のニュース・記事】
コロナ禍だから響く「田中角栄の7金言」元秘書が明かす
日刊ゲンダイ(講談社)2021/01/01
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/283358
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2020年はコロナに直撃された一年だった。
一体、このコロナ禍はいつ終わるのか。
出口が全く見えない。
国が災難に見舞われ、国民が不安を強めている時こそ、リーダーの力量が試される。
もし、田中角栄が生きていたら、国民に何を訴え、何を考え、どんな行動を起こしていたのだろうか――。
角栄の金言を振り返るとともに、秘書を23年間務めた朝賀昭氏に話を聞いた。
「子供が10人いるから羊羹(ようかん)を均等に切るってのは共産主義。自由主義は別だよ。羊羹をチョンチョンと切ってね。一番年少の子にでっかい羊羹をやるんだ」――。
オヤジさんがよく言っていたこの言葉の意味は、明日食うのに困っている人にこそ手を差し伸べるべきだ、ということです。
コロナ禍では、非正規や女性など、弱い立場の人たちほど苦しみ、命を絶つ傾向が強いようです。
「自分だけ置いていかれているんじゃないか」「もう生きていても楽しいことはない」といった絶望感と不安感にさいなまれてしまうのでしょう。
オヤジさんなら、一番困っている人に一番手厚く予算を使うでしょう。
「国難の時は、国はなんぼ借金をしてもいい」っていう発想に立ち、気が遠くなるような借金をしたのではないか。
借金は稼げば返せる。
しかし命は一度失えば人の人生が終わってしまいます。
オヤジさんなら「でっかい羊羹」をいち早く弱い立場の人に配ったはず。
オヤジさんは、学歴もなく、本当に苦労した人でした。
自分が苦労しているから人の痛みがよく分かる。
苦労しない人は、「頭」では人の苦労が分かっても、実体験として湧かない。
困っている人、弱っている人に手を差し伸べるのは、政治家として当たり前ですよね。
いま何より必要なのは、国民へのメッセージです。
オヤジさんだったら「日本中が苦しいんだから、皆、心配しなくていい。焦らないでいこうや。今年と来年はもう休憩をしよう」「金のことは心配しなくていい。国がいっぱい借金するから」「働ける人は働きなさい」――というようなメッセージを送ると思います。
まず、国民の不幸を取り除こうと考えたはずです。
田中角栄の7金言
①「子供が10人いるから羊羹を均等に切るってのは共産主義。自由主義は別だよ。羊羹をチョンチョンと切ってね、一番年少の子に一番でっかい羊羹をやるんだ」
②「我と思わん者は遠慮なく大臣室に来てください。そして、何でも言ってほしい。上司の許可を得る必要はありません。できることはやる。できないことはやらない。しかしすべての責任はこの田中角栄が背負う。以上」
③「選挙で人の悪口を言っても札(票)は増えんぞ。勘違いするなよ。敵をたくさんつくってどうする。槍衾(やりぶすま=大勢の者が槍を隙間なく突き出して構えること)になるぞ」
④「(政治とは)事をなすことだ」「政治家は学者や評論家とは違う。実践するために行動することだよ」「いつまでもあると思うな親と金。ないと思うな運と災難」
⑤「有名大学の学長とか教授などそういう人ばかりに上級叙勲をしている。けしからん。人間の基本をつくるのは、一番教育の難しい小学校の教員にこそあるんだ。そこのいわゆる幼年期の教育を恵まれない環境でやっている先生に、最大の敬意を表して最高の環境をつくってやらなきゃダメだ。そうならなきゃ日本は良くならん」
⑥「一分考えて答えの出ないものは、一生かかっても答えは出はせんよ」
⑦「そこに困った人がいて、何かをしてやろうという気持ちが起きない人間は政治家などになってはいけない」「国民に対して情を持たない者は、政治家になるべきではない。政治家はなりたくてなるものではない。政治家になって何をするかというものを持ってない者は、政治家になるべきじゃないんだ」
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コロナ禍だから響く「田中角栄の7金言」元秘書が明かす
日刊ゲンダイ(講談社)2021/01/01
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/283358
第64代、第65代内閣総理大臣、田中角栄氏。
最終学歴中卒にも拘わらず、内閣総理大臣にまで上り詰めた人。
実家が貧しく大学に行けなかったそうですが、東京大学レベルの学力があったと言われています。
建設会社を創業したのち、国政へ転身。
吉田茂、佐藤栄作、池田勇人などを支え、ついに首相となります。
ただ、日中国交正常化や石油などの資源ルート開拓など米国の反感を買い、米軍事企業ロッキード社との取引に関係する「ロッキード事件」が発生。
政治の表舞台から去っていきました。
田中角栄氏と言えば「気遣いの名人」「官僚の使い方がうまい」などと一般的に言われます。
しかし、本来、田中角栄氏の真骨頂は「構想力」「実行力」ではないかと思っています。
田中角栄氏は、内閣総理大臣に就任する前「日本列島改造論」を発表。
日本の将来あるべき姿を明確に打ち出しています。
都市の人口過密問題や地方の経済問題、貧富の問題解決にもグランドデザインしています。
国内だけではありません。
アジアにおける日本の立ち位置を思考しながら、アメリカやロシアなどとも対等に渡り合っていました。
田中角栄という人、その真骨頂は「構想力」「実行力」ではないでしょうか。
大国アメリカやロシア、中国という難しい立地条件における、日本の立ち位置。
アメリカの意向、ロシアの意向、そして中国の意向。
様々な思惑が渦巻いている、地域とも言えます。
その中で、日本はどのような方向に、どのように導いていくのか。
今、コロナ渦で世界各国は自国ファーストの傾向が顕著になっています。
他国のいいなりになって政策を決めてはならない時期ではないでしょうか。
様々な国の思惑が溢れる政界で、リーダーは、今、何を大事に決断するすべきなのでしょうか。
今、日本のリーダーが求められているのが「構想力」そして「実行力」かもしれません。
最後に、田中角栄氏の所信表明演説・施政方針演説をお伝えいたします。
■第70回国会 参議院 本会議 第2号 昭和47年10月28日(田中角榮所信表明演説)
田中角榮
第七十回国会が開かれるにあたり、当面する内外の諸問題について、所信を述べます。
本年七月国政を担当することになりましてから今日に至るまで、国民の皆さんから寄せられた激励に対し心からお礼を申し上げます。
特に、日中国交正常化のために中国を訪問した際に寄せられました各界各層をあげての御理解に対し、深く感謝申し上げます。
戦後四半世紀を過ぎた今日、わが国には内外ともに多くの困難な課題が山積しております。
しかし、これらの課題は、これまで多くの苦難を乗り越えてきたわれわれ日本人に解決できないはずはありません。
私は、国民各位とともに、国民のすべてが明日に希望をつなぐことができる社会を築くため、熟慮し、断行してまいる覚悟であります。
七〇年代の政治には、強力なリーダーシップが求められております。
新しい時代には新しい政治が必要であります。
政治家は、国民にテーマを示して具体的な目標を明らかにし、期限を示して政策の実現に全力を傾けるべきであります。
私が日中国交正常化に取り組み、また、日本列島改造を提唱したのも、時の流れ、時代の要請を切実に感じたからにほかなりません。
政治は、国民すべてのものであります。
民主政治は、一つ一つの政策がどんなにすぐれていても国民各位の理解と支持がなければ、その政策効果をあげることはできません。
私は、私の提案を国民の皆さんに問いかけるとともに、広く皆さんの意見に耳を傾け、その中から政治の課題をくみ取り、内外の政策を果断に実行してまいります。
今日の国際社会には、随所に不安定な要因のあることは事実でありますが、世界には対決ではなく、話し合いによる緊張緩和を求める動きが始まっております。
このような世界情勢の中で、わが国は、中華人民共和国との国交の正常化を実現をいたしました。
私は、去る九月、中華人民共和国を訪問し、毛澤東主席と会見するとともに、周恩来首相をはじめ中国政府首脳と会談し、国交正常化問題をはじめ日中両国が関心をもつ諸問題について、率直な意見の交換を行ない、九月二十九日共同声明に署名をいたしました。
これにより、長い間の両国間の不正常な状態に終止符が打たれ、両国間に外交関係が樹立をされました。
ここにあらためて国会に御報告をいたします。
多年の懸案であった日中両国間の国交が正常化され、善隣友好関係の基礎ができたのでありますが、日中問題が解決できたのは、時代の流れの中にあって、国民世論の強力な支持があったからであります。
私は、このような国際情勢の変化と過去半世紀に及んだ日中両国の不幸な関係を熟慮した上で、国交正常化を決断したのであります。
この機会に、日中関係の改善と交流の拡大に尽力してこられた各方面の方々に衷心より敬意を表するものであります。
日中両国は、今回の共同声明において主権及び領土保全の相互尊重、内政に対する相互不干渉をはじめとする諸原則の基礎の上に、平和と友好の関係を確立することを内外に明らかにいたしました。
日中国交の正常化によって、わが国の外交は世界的な広がりを持つに至ったのでありますが、このことは、同時にわが国の国際社会における責任が一段と加わり、人類の平和と繁栄にさらに貢献すべき義務を負うに至ったことを意味するものであります。
インドシナ半島においては、平和が到来しようとしており、朝鮮半島においても南北の話し合いが進められております。
このような好ましい事態を一そう発展させるためには、これらの国を取り巻く環境がより安定し、恵まれたものにならなければなりません。
今日の国際社会は、これまでの東西の対立を清算して南北の問題に取り組むべき時期に直面をしております。
すなわち、南北問題の解決なくして、世界の調和ある発展と恒久の平和は約束されません。
先進工業国としてゆるぎない地歩を固めたわが国は、開発途上国、とりわけアジア諸国の経済の発展と民生の安定のために一そう寄与しなければなりません。
私は、さきにハワイにおいてニクソン米国大統領と会談し、日米両国の当面する諸問題について、率直に意見の交換を行ない、相互に理解を深めてまいりました。
日本と米国は、政治、経済、社会文化の各分野において深い関係をもってきたのでありますが、新しい段階に入った日米両国の今後における友好協力関係の維持増進は、日米両国にとどまらずアジア・太平洋全域の安全と繁栄に欠くことのできないものであります。
わが国とソ連は、貿易、経済、文化の各分野で交流を深めておりますが、さらに平和条約を締結して日ソ両国間に安定した友好親善の関係を樹立する必要があります。
このため、私は、日ソ国交樹立以来の懸案である北方領土問題を国民の支持のもとに解決したいと考えております。
最近世界的に緊張緩和の動きが見られるとはいえ、わが国が今後とも平和と安全を維持していくためには、米国との安全保障体制を堅持しつつ、自衛上最小限度の防衛力を整備していくことが必要であります。
このたび、政府が第四次防衛力整備計画を決定しましたのもこのためであります。
われわれは、戦後の荒廃の中からみずからの力によって今日の国力の発展と繁栄を築き上げました。
しかし、こうした繁栄の陰には、公害、過密と過疎、物価高、住宅難など解決を要する数多くの問題が生じております。
一方、所得水準の上昇により国民が求めるものも高度かつ多様化し、特に人間性充実の欲求が高まってきております。
これらの要請にこたえて、経済成長の成果を国民の福祉に役立てていく成長活用の経済政策を確立していくことが肝要であります。
この観点から見て、日本列島の改造は、内政の重要な課題であります。
明治以来百年間のわが国経済の発展をささえてきた都市集中の奔流を大胆に転換し、民族の活力と日本経済のたくましい力を日本列島の全域に展開して国土の均衡ある利用をはかっていかなければなりません。
政府は、工業の全国的再配置と高速交通・情報ネットワークの整備を意欲的に推進するとともに、既存都市の機能の充実と生活環境の整備を進め、あわせて魅力的な地方都市を育成してまいります。
経済と人の流れを変えることにより土地の供給量は大幅に増加されます。
また、全国的な土地利用計画の策定、税制等の活用によって土地問題の解決は一そう促進されるのであります。
公害については、規制の強化、公害防止技術の開発、工業の適正配置、いわゆる工場法の制定など各般の施策を強力に実施することによって、経済成長を続けながら公害を除去していくことが可能であります。
また、公害被害者に対する救済の実効を期するため、損害賠償保障制度の創設を進めてまいります。
物価、特に消費者物価の安定は、国民生活の向上にとって必要不可決の条件であります。
従来から中小企業、サービス業等の低生産性部門の構造改善、生鮮食料品を中心とした流通機構の近代化、輸入の促進、競争条件の整備などの施策が進められてきました。
しかし、なお努力を要する点のあることも事実であります。
今後とも、総合的な物価対策を推進するとともに、消費者の手にする商品の安全性の確保など消費生活上の質的問題についても万全を期してまいります。
豊かな国民生活を実現するために欠くことのできないものは、社会保障の充実であります。
このため、今日までの経済成長の成果を思い切って国民福祉の面に振り向けなければなりません。
特に、わが国は急速に高齢化社会を迎えようとしており、総合的な老人対策が国民的課題となっております。
また、今日の繁栄のために苦難の汗を流してこられた方々に対する手厚い配慮が必要であります。
中でも年金制度については、これを充実して老後生活のささえとなる年金を実現する決意であります。
さらに、寝たきり老人の援護、老人医療制度の充実等をはじめ、高齢者の雇用、定年の延長などを推進してまいります。
以上のほか、心身障害者をはじめ社会的に困難な立場にある人々のため施設等の整備、充実をはかり、難病に悩む人々に対しては原因の究明、治療方法の研究、医療施設の整備など総合的な施策を推進いたします。
なお、国民が十分な余暇を利用することのできる社会を実現するため、週休二日制をはじめ余暇利用の条件の整備につとめてまいります。
農業については、総合農政の推進のもとに農村の環境整備を強力に実施して高生産農業の実現と高福祉農村の建設をはかり、農工一体の実をあげてまいります。
中小企業については、国際化の進展等による環境の変化に適応し得るようにするため、構造改善の推進をはじめとする各般の施策を強化いたします。
本年は、学制が発布されてから百年になります。
先人のたゆみない努力によって世界に比類のない義務教育制度をはじめ、わが国の教育は目ざましい発展を遂げてまいりました。
明治百年という時代の転換期にあたって、教育の占める役割りは重要となってきております。
私は、学校施設の整備充実等をはかるとともに、さきの中央教育審議会の答申を踏まえ、科学技術の振興を含む教育の制度、内容の充実を積極的に推進し、あわせて次代をになう青少年の健全な育成につとめます。
当面する最も緊急な課題は、国際収支対策であります。
昨年末、多国間通貨調整が実現し、さらに、去る五月以降対外経済緊急対策を実施してまいりました。
しかし、わが国の貿易収支は引き続き大幅な黒字を続けております。
国際的地位が急速に向上しつつあるわが国は、世界の経済交流の安定した拡大を維持していく上で大きな責任をもっております。
経済の順調な発展をはかりつつ、両三年の間に経営収支の黒字額を国民総生産の一%以内にとどめるためには、有効な国際収支対策を実施しなければなりません。
政府が去る十月二十日あらためて対外経済政策の推進について当面とるべき施策を決定したのはこのためであります。
すなわち、貿易・資本の自由化をはじめ、関税率の引き下げによる輸入の拡大、開発途上国への経済協力の拡充等を促進していくことであります。
いかなる国も他の国々との調和を欠いた経済政策を追求することは許されません。
わが国のみが対外収支の黒字を累増させていくことは、国際的な理解を得られるものではありません。
国際収支の均衡を回復し、世界各国と協調しながらわが国の繁栄を維持していくためには、日本経済の国際化を推進し、経済構造の改革をはかる必要があります。
また、充実した経済力を積極的に国民福祉の向上に活用していかなければなりません。
当面している国際収支の問題は、わが国が経験したことのないきわめて困難な課題であります。
私は、国民的英知を結集し、国民各位の理解と協力を得ながらこの問題に取り組んでまいります。
政府は、今国会に、公務員給与の改善、公共投資の追加などに必要な補正予算と、緊急に立法措置を要する諸法案を提出いたしました。
公共投資については、道路、下水道、環境衛生施設の警備等のほか、災害復旧事業、社会福祉施設をはじめとする各種施設の整備をあわせ、事業費の規模は一兆円にのぼります。
これらの公共投資は、相対的に立ちおくれている社会資本の整備を一そう促進するものであり、同時に、当面の緊急課題である国際収支の均衡回復に資するものであります。
よろしく御審議をお願いいたします。
戦後四半世紀にわたりわが国は、平和憲法のもとに一貫して平和国家としてのあり方を堅持し、国際社会との協調融和の中で発展の道を求めてまいりました。
私は、外においてはあらゆる国との平和維持に努力し、内にあっては国民福祉の向上に最善を尽くすことを政治の目標としてまいります。
世界の国々からは一そう信頼され、国民の一人一人がこの国に生をうけたことを喜びとする国をつくり上げていくため、全力を傾けてまいります。
あくまでも現実に立脚し、勇気をもって事に当たれば、理想の実現は可能であります。
私は、政治責任を明らかにして「決断と実行」の政治を遂行する決意であります。
以上所信の一端を申し述べましたが、一そうの御協力を切望してやみません。
田中角榮
■第71回国会 参議院 本会議 第2号 昭和48年1月27日(田中角榮施政方針演説)
田中角榮
第七十一回国会の再開にあたり、施政に関し所信を申し述べます。
世界が注目し待望していたベトナム和平は、明日を期して実現することになりました。
これは、長かったベトナム紛争が解決に踏み出したというだけでなく、新しい平和の幕あけであります。
人類が恒久平和と社会正義に基づく繁栄の実現に向かい、新しく進むべき第一日を迎えたものと思います。
第二次大戦後、四半世紀余の歳月が過ぎました。
国際政治は、力による対立の時代を経て、話し合い、協調へと移行してきました。
これは、緊張と混迷の中で多くの経験を積んだ人類の英知の勝利であります。
わが国は、戦後、世界に例のない平和憲法を持ち、国際紛争を武力で解決しない方針を定め、非核三原則を堅持し、平和国家として生きてまいりました。
これは正しい道であったと思います。
今日、大きな経済力を持つに至ったわが国は、国際政治、国際経済の転換期の中で、平和の享受者たるにとどまることなく、新しい平和の創造に進んで参画し、その責務を果たすべきであります。
この際、平和を一そう確実なものとするため、核をはじめとする全般的な国際軍縮に貢献してまいりたいと考えます。
東西問題のあとを受けて大きく浮かび上がってきたのは、南北問題であります。
地球上における富の偏在を改め、南北問題を合理的に解決することなくして、真の平和を確保することはできません。
敗戦ですべてを失ったわが国も、四半世紀前はゼロから出発し、経済の復興に取り組んだのであります。
その後、お互いが汗水を流し、一所懸命に働いたかいあって、IMF十四条国から八条国へのステップを踏み、わが国は、いまや国際社会に大きな影響を及ぼす国に成長したのであります。
南の開発途上国が経済的な自立、社会的な安定を達成できるよう、わが国の経済力と技術の力を提供し、援助することは、わが国に対する世界的な要請であり、国際社会に対するわが国の責務でもあります。
わが国の援助は、量的には、国際的目標である国民総生産の一%をほぼ達成いたしております。
しかし、政府援助の拡大、借款条件の緩和、ひもつきでない援助の推進など、質の面ではOECD加盟諸国の平均水準を下回っております。
援助の質の改善については、国連貿易開発会議において表明した基本方針に従って最善の努力を続け、相手国にほんとうに役立つ援助をしてまいります。
わが国が直面している緊急課題は、ベトナムに実現しつつある平和を確固たるものにするための貢献であります。
戦火に荒らされたインドシナ地域の復興、建設のため、できる限りの努力を尽くすとともに、ようやくできかけた和平を定着させるため、アジア諸国をはじめ太平洋諸国を網羅した国際会議の開催の可能性を検討したいと考えております。
もとより、アジアの国際政治はヨーロッパに比べてはるかに複雑であり、新しい安定の基盤を築くことは容易なことではありません。
戦後の復興とインドシナ半島の平和維持のため、真剣な討議の場が設けられ、よりよい方策が見出されるならば、平和はやがてアジア全体の安定につながっていくのであります。
政府が、長い間の懸案であった中華人民共和国との関係を正常化したのも、アジアの平和と安定に寄与すると考えたからであります。
今後は、互恵平等の精神で両国間の親善友好関係の基盤を一そう固めていかなければなりません。
近く大使を派遣し、多くの実務関係の円滑な処理に当たらせたいと考えております。
同じく隣国であるソ連とは、平和条約の締結が懸案となっておりますが、すでに軌道に乗っております両国の関係は、経済、文化の分野で年々着実な発展を遂げております。
特に、シベリアの開発協力については、日ソ両国にとって長期にわたり有意義なものとなるよう実現に努力したいと思います。
わが国が、政治信条や社会体制を異にする諸国との間に対話を進め、平和な国際社会の建設に積極的に参画していくためには、わが国と同じ自由と民主主義を奉ずる諸国との友好関係の維持が基本であり、実際的であることは言うまでもありません。
その中で、特に日米関係が重要であることは、私が就任以来一貫して強調してきたところであります。
この機会に、わが国の防衛について一言いたします。
わが国が必要最小限の自衛力を保持することは、独立国として平和と安全を確保するための義務であり、責任でもあります。
しかし、自衛力の保持とあわせて、日米安全保障体制を維持しつつ、国際協調のための積極的な外交の展開、物心両面における国民生活の安定と向上、国民すべてが心から愛することのできる国土と社会の建設、これらがしっかりと組み合わされる中に、わが国の平和と安全が保障されることを強調したいのであります。
いまから二十年前、二千八百二十四カ所もあった本土の在日米軍施認区域は、いまや九十カ所に整理統合されました。
加えて、さきに開かれた日米安全保障協議委員会において、本土及び沖縄を通じ十カ所の施設区域の整理統合が合意されたのであります。
これは、本土では関東平野の首都圏、沖縄では県都那覇という国民にとって社会的、経済的に最も重要な地域での整理統合であり、その意義はきわめて大きいと思います。
政府は、わが国の独立と安全のため必要な施設区域は今後とも提供を続けてまいります、同時に、急速な都市化現象などによって引き起こされている基地問題と真剣に取り組み、その整理統合を検討するとともに、基地と周辺住民の間に無用な摩擦が生じないように万全の対策をとっていく考えであります。
わが国は、いま、内外から国際収支の改善対策を迫られております。
資源に乏しく、狭い国土に一億をこす人口をかかえるわが国は、海外から原材料を輸入し、これに付加価値を加え、製品として輸出するという貿易形態をとっております。
貿易の振興を国是としてきたわが国は、自由世界第二位の経済力を持ち、二百億ドルに近い外貨準備を持つようになったのであります。
しかし、わが国がいままでのように大幅な国際収支の黒字を累増させていくことは、国際的な理解を得られないだけではなく、国際社会において最も大切な信頼を失うことにもなります。
このため、昭和四十六年十二月、多国間通貨調整の一環として円平価の切り上げを行ないました。
さらに、輸出の適正化、輸入の拡大、経済協力の拡充、国内景気の振興による輸出の内需への転換などに総力をあげて取り組んでまいりました。
さきの臨時国会で、過大ではないか、との批判を受けながらも六千五百億円の補正予算を編成したのは、このためでありました。
しかし、このような努力にもかかわらず、なお所期の目的を達成しておりません。
輸入は増大しておりますが、輸出もなおかなりの高水準を続けており、昭和四十七年度を通じ、貿易収支の黒字は、八十九億ドルと見込まれておるのであります。
このような状況のもとで、一部に円の再切り上げ論が唱えられております。
しかし、一昨年の平価調整の効果はまだ完全にあらわれておりませんし、円の再切り上げがわが国経済に与える影響を考えれば、切り上げ回避のためあらゆる努力をいたさなければなりません。
貿易立国を国是としているわが国は、自由貿易が阻害されるような事態を避けるため、全力を傾ける必要があります。
現に、国際間には保護主義が台頭しつつあります。
このような事態が進む場合、広い意味では南北問題を解決するための大きな障害ともなりますし、わが国経済の発展を阻害することにもなります。
わが国がガットの場においてケネディ・ラウンドを積極的に推進し、現に新国際ラウンドを提唱しておるのはこのためであります。
国際収支の均衡をはかることは、緊急の課題であります。
このため関税の引き下げ、輸入・資本の自由化を一そう推進しなければなりませんが、国内には自由化に耐えられない分野があることも事実であります。
しかし、政府としては、この大目標を達成するため、国内対策に万全を期しながら自由化を進めていかなければならないと考えるのであります。
わが国は、戦後驚異的な経済成長を遂げ、国民総生産は百兆円に達しようとしております。
昭和三十年の十二倍であります。
一人当たり国民所得も増大し、イギリスの水準に近づいてきました。
社会保障制度も西欧先進国に劣らない制度を持つに至っております。
しかし、その容内はまだ十分とは言えず、これを整備して国民福祉を充実しなければなりません。
すべての問題を同時に解決することはできませんが、新しい長期経済計画のもとにおいて社会保障の位置づけを考えており、計画的に内容の整備をはかってまいります。
昭和四十八年度予算においては、社会保障費二兆一千億円を計上いたしました。
理想には遠いかもしれませんが、最善の努力をいたしました。
すなわち、老齢福祉年金については、当面夫婦一万円に引き上げるとともに、厚生年金及び国民年金についても、いわゆる五万円年金を実現し、あわせて年金額の物価スライド制を導入することといたしたのであります。
また、老人医療の無料化を六十五歳以上の寝たきり老人にまで拡大するほか、心身障害者をはじめ援護を必要とする人々についても、収容施設の整備充実をはじめ血の通った援護の手を差し伸べてまいります。
さらに、難病・奇病について、原因の究明、治療費の公費負担及び医療体制の計画的な整備などの施策を推進いたします。
国民共同の負担としての公費負担については、国民の要望が強くかつ重要なものから一つでも多く実現するため努力していることを御理解願いたいのであります。
社会保障は、国民各層の連帯感にささえられ、経済成長の成果が社会のすべての階層に対して行き渡るものでなければなりません。
私は、引き続いて社会保障の充実に努力してまいります。
また、働く人々がゆとりと潤いのある生活ができるよう、勤務条件の改善をはかるとともに、余暇を活用するための勤労者いこいの村の建設、余暇情報の提供などを行なってまいります。
物価の問題は、先進工業国に共通する現代の悩みであります。
わが国の場合、消費者物価は過去数年来平均五%台の上昇を続けてきましたが、幸い卸売り物価はほぼ横ばいに推移してまいりました。
ところが、昨年来、卸売り物価が高騰し始めております。
羊毛、木材、鉄鋼など一部の商品を中心としたものではありますが、このような現象をそのままにしておくことはできません。
欧米先進国においては、 コスト圧力を生産性の向上によって吸収し得ないような事態が生じておりますが、わが国においてこのようなことが起きることは避けなければなりません。
当面の物価対策としては、まず輸入の積極的な拡大をはかることであります。
昨年、対外経済政策の一環として、関税率の一律引き下げ、輸入割り当てワクの拡大など、輸入増大政策を実施しましたが、今後も、国民生活と密接な関係のあるものを中心として、関税率をさらに引き下げるとともに、輸入の自由化と輸入割り当てワクの拡大を推進いたします。
また、生鮮食品など生活必需物資の価格安定をはかるため、生産対策、流通対策について格段の予算措置を講じました。
独占禁止法の厳正な運用によって、適正な価格形成が行なわれるよう競争条件を整備することも必要であります。
さらに、労働力不足を緊張するため、中高年齢層、婦人などを対象とする職業訓練や職業転換対策など、労働力の流動化を推進いたします。
また、長期的な構造対策として、農業、中小企業、サービス業などの低生産性部門の高能率化及び輸送面における隘路の打開につとめます。
このような物価対策を総合的に推進するため、経済企画庁に物価局を設置することにいたしました。
私は、これだけで物価問題が解決するとは考えません。
物価安定の基本は、経済活動全体が均衡ある姿で安定した成長を続けることであります。
このためには、供給の円滑化をはかるほか、総需要の動向を注視しながら財政の運営に慎重を期するとともに、金融政策の適時適切な組み合わせが必要であります。
外貨の累増などに関連して、企業の手元資金が潤沢となり、土地などに対する投資に向けられたという事実は否定できません。
過剰流動性は吸収されなければなりません。
このため、すでに、預金準備率の引き上げや窓口規制など、金融面の措置もとられつつあります。
物価の安定は、国民が最も求めている政治的課題であり、私は、今後とも必要な施策を果断に実施してまいります。
土地問題は、政治が直面している最大の課題であります。
土地は財産であり、財産権は憲法によって保障されております。
しかし、財産権の内容は、公共の福祉に適合するように法律で定めるものとされ、また、正当な補償のもとでは、私有財産を公共のために用いることができることになっております。
私は、憲法が認める範囲内で、最大限に公益優先の原則を確立し、土地が広く公正に国民に利用されるよう努力いたします。
これが土地政策の基本であります。
全国的な土地利用の混乱をなくし、土地の値上がりによる社会的な不公正を改めるには、長期政策と、緊急に必要な政策があわせて必要であります。
このため、国十の総合的な利用によって土地供給の増加をはかるとともに、全国的な土地利用基本計画を策定し、あわせて土地取引の届け出制、取引の中止勧告、開発行為の規制などを行なってまいります。
都道府県知事が指定する地域については、一定の期間、特に、土地の投機的取引を防止し、開発行為を凍結するため、土地取引の届け出制の拡大、先買い制度の創設、土地所有者から地方公共団体などに対する買い取り請求権の付与などの措置をとってまいります。
公的な用地取得と宅地供給を促進するため、地方公共団体などによる土地の先買いを推進するとともに、住宅公団の機能の充実を行ないます。
また、宅地の供給を促進するため、大規模な宅地開発事業、特に都道府県、市町村などによる事業の推進をはかってまいります。
さらに、休耕田の活用をはかるとともに、農業協同組合などを通ずる土地賃貸方式も早急に導入する考えであります。
政府は、土地に対する投機的な需要を抑制し、土地の供給を促進するため、法人の土地譲渡益について重く課税する一方、特別土地保有税も創設することといたしました。
また、投機的な土地の取引に対する融資を抑制するため、金融機関に対する指導を強力に進める方針であります。
戦後の高度成長と今日の繁栄をささえてきた人口や産業の都市集中の結果、公害問題が深刻になってきました。
生命と健康が何よりも大切であることは言うまでもありません。
その意味で、公害を防除して健康な生活環境と美しい自然環境を確保することは、政治に与えられた現在の至上命題であります。
このため、生産第一から生活優先へ経済政策を転換し、地域の住民や職場で働く人々の生命、健康を害することのない産業と技術を開発していくことが緊急に必要であります。
景気の回復に伴い、産業界には新しい設備投資に向かう動きが見られます。
しかし、これまでのような民間の設備投資主導による経済成長を改め、公害防除のための設備投資、工場が過密都市から地方へ移転するための投資などに重点を置いていくことが必要であります。
このため、金融当局とも協力して適切な指導を行なってまいります。
政府は、全国の自然環境保全の基本方針を樹立し、国土の総合開発の施策との調整をはかりながら自然保護対策を展開してまいります。
また、汚染者負担の原則に立脚しながら汚染物質の減少をはかるため、環境基準をきびしく改め、排出規制における総量規制の導入など規制を強化するとともに、無公害コンビナート技術の開発をはじめ、公害防止技術の開発にも一そう努力したいと考えます。
新しい技術の開発や導入にあたっては、それが人間や自然に弊害を及ぼさないよう、その内容を総合的に把握し、技術の再点検を進めてまいります。
公害被害者に対しては、救済に万全を期するため、新たに公害被害者の損害賠償を保障する制度を創設することとし、成案を得次第今国会に法律案を提出いたします。
さらに、交通事故、危険な商品、労働災害、新しい職業病などに対して、国民の安全を確保するため、必要な施策を講じてまいります。
以上のほか、環境問題をはじめ現代社会における広範な問題に対処して、実効性のある研究開発を助け、育成するため、シンクタンクの機能を持つ特別の機関を官民共同で設立することとしております。
現在、わが国の総人口の三二%に当たる三千三百万人の人々が、国土面積のわずか一%にすぎない地域に集中しております。
しかも、わが国はアメリカのカリフォルニア州よりも狭いのであります。
したがって、こうした過密地域においては、公害、物価、土地不足などの問題が生じ、深刻になるのは必然であります。
特に、過密化している大都市では、都市の改造、再開発を急がなければなりません。
しかし、人口や産業の大都市集中を無制限に放任したままその改造を行なうことは不可能であります。
このような現状を改め、国民が健康で豊かな生活ができるようにするためには、片寄った国土利用を改め、国土全体の均衡のとれた発展をはかり、きれいな空気と水、緑に恵まれた住みよく暮らしよい地域社会を計画的に建設することが必要であります。
私が、人と物と文化の大都市への流れを大胆に転換し、日本列島の改造を提唱してきたゆえんも、ここにあります。
政府は、今後、大都市の再開発、生活環境施設を中心とする社会資本投資の拡大、教育、文化環境の整備などを含めた総合的な施策を強力に進めます。
また、交通・通信ネットワークの整備、工業の全国的な再配置、地方都市及び農村環境の整備などを実施してまいります。
工業の全国的再配置の促進のため、地方へ移転していく工場に対しては、環境保全施設整備のための補助金、移転資金の低利融資、税制上の加速償却などを行なってまいります。
また、工場を受け入れる市町村に対しては、緑地などの整備のために補助金を交付してまいります。
さらに、移転した工場のあと地は、公園などの公共の目的のために有効に活用してまいります。
これらの施策を強力に推進するため、十分な企画調整権限を持った総合的な行政機構として国土総合開発庁、その実施機関として国土総合開発のための公団を創設することにいたしました。
この際、特に申し上げたいのは、国土の総合開発を進めるにあたって、地域住民の意向を尊重するため、地方自治体などの意見を反映した政策を実現したいことであります。
沖縄の振興開発については、沖縄の特性を生かしながら環境の保全を優先させ、新しい時代に即した豊かな地域社会を実現するようつとめます。
このため、昭和五十年に開かれる国際海洋博覧会のための施設の整備をはじめ、沖縄振興開発計画の実施を推進し、沖縄県民の長い歳月にわたる労苦に報いてまいります。
また、高能率農業の育成、生産と生活とを一体とした農村環境の総合的な整備をはじめとする農業の近代化政策を進めるとともに、中小企業については、これまでの施策に加えて、小企業を対象とした無担保、無保証の経営改善資金の融資制度を創設することにより、その近代化をはかってまいります。
国鉄は、国民の足であり、輸送の大動脈であります。
わが国の輸送は、その地形、地勢上の理由からいって、道路、鉄道、内航海運が有機的に一体となって組み合わされてこそ、はじめてその機能を十分に発揮できるのであります。
現在国鉄は、その経営努力にもかかわらず、累積赤字が一兆二千億円に達しております。
国鉄経営の健全性が維持されなければ、国民生活に重大な影響を及ぼすことになります。
国鉄自身の合理化や経営努力だけでは国鉄の再建は不可能であります。
このため、政府は、国鉄に対し思い切った財政援助をすることにいたしました。
国鉄財政再建十カ年計画を策定し、一兆五千億円余の出資を行なうほか、工事費補助、再建債に対する利子補給などを行なうことにしておりますが、これらの国の一般会計による助成は、国民全体の税金によってまかなわれるものであります。
財源にはおのずから限度があります。
社会保障など欠かすことのできない支出の拡充が要請されるとき、国鉄の場合、必要最小限の負担は利用者に求めざるを得ないのであります。
国鉄運賃の改定を提案するのは、このためであります。
医療保険制度も、抜本的な解決をはからなければなりません。
来年度においては、家族医療給付率を五割から六割に引き上げ、家族高額療養費の支給など、給付内容の改善を行なうことといたしております。
同時に、累積赤字二千八百億円に達する政府管掌健康保険に対しては、定率一〇%の国庫補助の導入により八百億円の財政援助を行なうことにいたします。
このように、政府は、できる限りの対策を講ずる一方、保険料率を改定して、被保険者にも応分の負担を求めてその改善をはかってまいります。
教育の振興が重要なことは申すまでもないことであります。
戦後行なわれた教育改革からすでに四半世紀の時を過ごし、その制度は定着しましたが、なお改革を要する問題は数多くあります。
国際人としてだれからも尊敬され、信頼される新しい日本人を育てるための教育制度の確立のために、私たちはたゆみない努力を払うべきであります。
人間形成の基本が小・中学校で定まることを思えば、義務教育を充実し整備することは、何よりも大切な問題であります。
小・中学校の校長が退職後再び町に職を求めなければならないような現状を改めるため、定年の延長について真剣に検討をいたしておるのであります。
今回、これらの教員に対して給与の増額予算を計上いたしましたのは、子供を導く先生によき人材を得て、先生がその情熱を安んじて教育に傾けられるような条件を一日も早くつくりたいと願ったからであります。
この措置は、たとえささやかなものであっても、やがては大きく実を結ぶものと考えております。
大学は学ぶところであります。
世の親たちは、子弟が大学生として広く高い知識を吸収し、よき社会人として世に出ることを期待しております。
しかし、いまだに学園に紛争が絶えないのは遺憾なことであります。
かつてはよい環境の中にあった大学も、急速な都市の過密化によって大都市内の教育環境が破壊されているのも一つの原因であります。
また、管理運営にとっても、過密は大きな支障をもたらしておるのであります。
諸外国の大学に見られるように、山紫水明の立地条件のもとで理想的な教育環境をつくるごとができないはずはありません。
大学の地方分散と新しい大学の設立を考え、新たに調査費を計上したのもこのためであります。私学の振興は重要な課題であり、助成措置の拡大をはかっております。
教育は、次代をになう青少年を育て、民族悠久の生命をはぐくむための最も重要な課題であることを思い、理想的な教育の条件と環境の確立にたゆみない努力を傾ける所存であります。
以上申し述べましたように、本年の重点的な政治目標は、平和外交の推進、国際収支の不均衡の是正、社会保障の充実と生活環境の整備、物価の安定、国土総合開発の推進などであります。
私は、これらの課題を解決するために最善の努力を傾ける決意であります。
もとより新しい政策は、長期的な視野に立ち、国民的な支持と理解を得ながら総合的かつ計画的に実現していかなければなりません。
このため、わが国経済社会の発展の方向と政策体系は、新しい長期経済計画をもって明らかにしてまいります。
現代社会は、大きく深い変化を経験しつつあります。
内に外に変革期の課題は山積をしております。
私は、さきの総選挙を通じて国民の政治に対する期待や不満を痛いほどに感じ取りました。
人間性を回復した平和な新しい日本をつくるには、古い制度や慣行にとらわれることなく、産業や経済のあり方を大胆かつ細心に変えていかなければなりません。
しかも、当面しておる難問を解く処方せんは、わが国の歴史に先例を求めることができません。
他国にその例を見出すことも不可能であります。
新しい時代の創造は、大きな困難と苦痛を伴うものであります。
しかし、私は、あえて困難に挑戦し、議会制民主主義の確固たる基盤に立って、国民のための政治を決断し、実行いたします。
そして、結果については責任をとります。
国民各位も積極的に発言し、ともに日本の将来を切り開く歴史的な事業に参加してほしいのであります。
私たちは、これまでもお互いに多くの障害を乗り越えてきました。
こうした日本人の英知と、日本経済の活力は、いささかも衰えてはいないのであります。
一億をこえる私たち日本人が、ひたすらに平和の道を歩み、物心ともに豊かな社会を建設するため、総力をあげて国内の改革に進むとき、外に平和、内に福祉の新時代のとびらを開くことは、必ずできると確信をいたします。
国民各位の御理解と御支援をお願いいたします。
田中角榮
■第72回国会 参議院 本会議 第1号 昭和48年12月1日(田中角榮施政方針演説)
田中角榮
第七十二回国会が開かれるにあたり、当面緊急を要する請問題について所信の一端を申し述べます。
中東戦争を契機とする石油の生産と供給の制限は、世界各国に対して大きな影響を与えております。
なかんずく、エネルギーの大半を海外の石油に依存しておるわが国産業経済に与える影響は大きく、国民生活の安定向上を妨げることのないよう緊急な施策を必要とする事態を迎えておるのであります。
政府は、この事態に対応するため、十一月十六日、内閣に緊急石油対策推進本部を設置し、石油緊急措置を取りまとめ、率先して石油、電力等の消費節約につとめるとともに、産業に対してもその節減を要請し、強力な行政指導を実施しております。
また、広く一般国民に対しても、不要不急のエネルギー消費に対する自粛を求めておるのであります。
石油消費の抑制により、諸製品が減産を余儀なくされ、その結果、供給不足を招き、物価は必然的に上昇するという推論が一部でなされております。
そして、それがまた物価値上がりの誘因ともなっております。
しかし、生活必需品については、生産段階にも、流通経路にも相当量の在庫が存在しており、一部商品については、すでに在庫の放出を行なってまいりました。
また、総需要の抑制をはかる一方、国民生活の安定に必要な部門については電力等のエネルギーを優先的に供給いたしますので、買い占め、売り惜しみのごとき風潮を生まない限り、需給の安定は十分確保できると考えております。
わが国は、現在、国民総生産の約一〇%を輸出しており、供給力にも余裕があります。
しかも、石油事情について長期的見通しを立て得るまでの暫定期間について、生活必需品の緊急輸入等を行なうのに必要な外貨も十分保有しておるのであります。
しかしながら、たとえどのような事態が生じても、国民経済の混乱を未然に防止し、必要物資の安定的供給を確保するためには、最小限の法的措置が必要であります。
このため、物資の需給、価格の調整等に関する緊急措置を規定した国民生活安定緊急措置法案を今国会に提出いたします。
また、事態の推移に応じて、石油の消費節減及び配分の適正化を機動的かつ効果的に実施できるよう、緊急時における指導、規制措置を定めた石油需給適正化法案も今国会に提出いたします。
これらの運用にあたつては、特に分配や負担の公正を期するとともに、異常な価格の上昇、買いだめ、売り惜しみ等による不当利得を得る者が生じないよう万全を期してまいりたいと考えます。
世界のすべての国にとって、有限な資源を福祉の向上と繁栄のためにいかに有効に開発し、利用するかは、次第に深刻な問題となってきております。
資源を海外に大きく依存しておるわが国の実情にかんがみ、私は、かねてからその安定的供給の確保と供給先の多元化の必要性を痛感し、これまでも資源保有諸国からの供給確保に努力を重ねてまいりました。
私は、内閣を組織して以来、欧米、ソ連各国首脳との会談を通じて、資源の共同開発、安定供給について積極的に話し合いを行なってまいりました。
資源問題は、わが国外交の重要な一つの要素であります。
外交は、もとよりわが国益に立脚すべきものでありますが、同時に、関係国の立場を十分理解する互恵の精神と世界の平和と繁栄に貢献する精神に基づいて行なわなければなりません。
かかる精神を基調として、先般、豪州首脳と資源開発につき会談をいたしました。
また、来春早々の東南アジア諸国訪問にあたっても、これら諸国との長期にわたる友好親善を深め、各国の国づくりに貢献しつつ、資源の共同開発や備蓄を行なうことなどについても、各国首脳と会談し相互の理解を深めたいと考えておるのであります。
中東問題に関して、政府は十一月二十二日にその態度を明らかにいたしましたが、これは、中東の恒久的平和の確保が世界の平和と繁栄にとり重要であるとの基本認識に立って、この平和の実現に寄与しようとの意図に出たものであります。
また、中東諸国との関係を一そう緊密化するため、近く政府の特使を派遣する等、着実な外交努力の積み重ねをはかってまいります。
物価の安定は、当面する最重要課題であります。
比較的安定的に推移してきた卸売り物価は昨年秋以降高騰し、また、消費者物価も本年初めから上昇を続けております。
これは、第一に、ドル不安に端を発した国際物価の値上がり、輸入原材料価格の高騰に加え、ここ二、三年来の世界的な不作により農産品の価格が高騰したこと。
第二に、外貨準備の急増に伴う外国為替資金特別会計の大幅払い超に加え、国際収支の不均衡是正のため、輸出から内需への転換をはかる観点から金融緩和策がとられ、これらの結果として企業に過剰流動性が生じたこと。
第三に、本年度五十兆円をこえる賃金給与所得によって消費購買力が充実し、個人消費が拡大したこと、などの要因が複合して生じたものであります。
その上、今次の原油の供給制限と輸入価格の上昇が、物価問題の解決を一そう困難なものにしようとしております。
政府は、これらの要因を総合的に把握、分析し、有効適切な物価対策に総力を結集いたします。
物価騰貴を抑制するためには、総需要の抑制をはかることが基本であります。
これまで累次にわたる物価安定対策を講じ、財政執行の繰り延べ、金融引き締めの強化等を行なうとともに、民間設備投資及び大規模な民間建築の抑制、消費者信用の調整等の措置を実施してまいりました。
これらの措置は、その効果が末端まで浸透し、物価動向に好影響を与えるまで堅持することはもとより、石油情勢の進展など今後の事態の推移に応じて、さらに強化する考えであります。
来年度予算の編成にあたっても、景気や物価の動向に十分配慮し、慎重に対処してまいります。
また、個人貯蓄の増強をはかるため、利子非課税制度の拡大を含む貯蓄優遇策を実施する考えであります。
総需要の抑制と並んで、個別物資の需給関係の調整もきわめて重要であります。
政府は、需給逼迫の著しい建設資材、品薄となった生活必需物資について、関係業界に緊急増産や出荷指導を実施するなど機動的な調整措置を講じております。
また、生活関連物資の買い占め及び売り惜しみに対する緊急措置に関する法律に基づき、灯油、ガソリン、紙など、国民生活に関係の深い物資を特定物資として指定し、投機的取引の防止につとめておりますが、この際、同法を改正し、特定物資の範囲の拡大、売り渡し命令の創設等規制措置の強化をはかる考えであります。
物価騰貴の最大の弊害は、所得及び資産の不公平な分配をもたらすことであります。
政府は、先般、厚生年金、国民年金等の給付水準の実質価値を維持するため、物価スライド制を導入するとともに、物価動向等を勘案して生活保護の基準及び社会福祉施設に入所している老人、児童等の生活費の引き上げなどの措置を講じました。
今後とも、経済的に弱い立場にある人々のために社会保障給付の改善など、きめこまかい施策を講じてまいります。
土地問題の解決も緊急の課題であります。
政府は、すでに法人の土地譲渡益に対する課税の強化、特別土地保有税の新設、三大都市圏の市街化区域内農地の宅地並み課税の実施等を行なうとともに、土地取得に関する金融の抑制、都市緑地保全法の制定等による土地利用規制の強化など土地問題の解決に鋭意取り組んでおります。
しかしながら、現下の地価上昇の原因は基本的には宅地需給の不均衡にあり、供給の増大なしには、地価の抑制は不可能なのであります。
将来における国土利用の全体的な展望のもとに全国的に土地利用計画を確立し、これに即して公共優先の立場から土地の所有、利用の両面にわたって規制、誘導を強化し、投機と乱開発を排除しつつ、国土の総合的な開発、利用を進めるとき、宅地の確保と地価抑制は可能となるのであります。
国土総合開発法案は、このような観点から提案したものであり、地価凍結を含む土地対策の基本法的性格を有するものであります。
政府は、人事院勧告に基づく公務員給与の改善、生産者米価の引き上げに伴う食糧管理特別会計繰り入れ等、当面財政措置を必要とする諸案件につき、所要の補正予算及び法律案を今国会に提出いたします。
わが国は、これまで、豊富で安価な石油エネルギーを使えるという利点を最大限に生かして、生産の増強と雇用の拡大を達成してまいりました。
しかし、今日の事態は、資源の制約の中で新しい豊かさを追求するといういまだかつて経験したことのない試練に当面しておるのであります。
これは、経済的にも社会的にも、わが国にとって一つの歴史的転換期とも言えるのであります。
この際、創造力と適応力に富む国民の総力を結集して、産業活動においては省資源、省エネルギーへの構造的対応をなし遂げ、国民生活においては生活感覚を転換させて、資源の浪費を排し、「節約は美徳」の価値観を定着させていかなければなりません。
さらに、原子力の開発、水力発電の見直し、石炭その他国内資源の活用、太陽エネルギー、水素エネルギー等の無公害の新エネルギーの開発を推進し、エネルギー源の多様化につとめることが必要であり、かつ、それをなし遂げ得ると信じます。
政府は、全力をあげて国民経済の混乱を未然に防ぎ、国民生活の安定を確保するため、内政、外交のあらゆる面にわたり、冷静な判断と敏速果断な行動をもって対応し、この転換期を乗り切る決意であります。
しかし、いかなる政策も、国民の理解と支持がなければその効果をあげることはできません。
国民各位も、当面する事態を冷静に受けとめ、高次の社会連帯感のもとに一人一人が慎重に対処し、福祉社会の実現という共通の目標に向かって協力されるよう期待してやみません。
田中角榮
■第72回国会 参議院 本会議 第6号 昭和49年1月21日(田中角榮施政方針演説)
田中角榮
戦後三十年、世界はいま新しい転換の時代を迎えております。
わが国は、戦後の廃墟から立ち上がって、復興経済、自立経済、国際経済へと三段飛びの発展をなし遂げ、いまや主要工業国の一員として、国際的にも確固たる地歩を占めるに至りました。
資源と資本に乏しいこの狭い国土に驚異的な高度工業社会を築き上げたのは、わが日本国民の英知と努力のたまものであります。
しかしながら、わが国もまた世界の例外ではなく、先進工業国が直面しているのと同じように、数多くの矛盾と不均衡が尖鋭的にあらわれてきているのであります。
物価、公害、エネルギーの諸問題こそがまさに当面する最大の課題であります。
国民の不安と焦燥の原因がここにあることも、私はすなおに受けとめております。
国民のためにこそある政治は、いまこそ、これらの課題を最優先に解決するため、外に国際的な連帯と協力を、内に国民の理解と支持を得て懸命の努力をしていかなければなりません。
そのために、私は、過去の行きがかりにこだわることなく、反省すべきは率直に反省し、改めるべきは謙虚に改めるなど、思い切った発想の転換と強力な政策を推進してまいります。
物価問題の解決は、当面の政治の最重要課題であります。
このため、政府は、昨年来財政金融政策を通じて総需要の抑制に全力をあげてまいりました。
すなわち、財政面では公共事業の執行の繰り延べ、金融面では累次にわたる公定歩合の引き上げ等、引き締め措置を強化してきたところであります。
また、民間設備投資における新規着工の停止などの措置をとるとともに、個別物資の需給調整のための対策を講じてまいりました。
さらに、昭和四十九年度予算及び財政投融資計画の作成にあたっても、特に需要誘発効果の高い一般会計の公共事業関係費を今年度以下に押えるなど、極力財政規模を圧縮することといたしました。
すでに決定せられた国有鉄道運賃及び米の政府売り渡し価格の値上げの実施時期を半年間延期することといたしましたのも、物価抑制を最優先の課題と考えたからでございます。
その他の公共料金についても、極力抑制する方針であります。
石油の供給制限と輸入価格の大幅引き上げを契機として、物価情勢はきわめて憂慮すべき事態を迎えております。
政府は、正直者が馬鹿をみることのないよう、社会的公正を確保し、経済社会の混乱を未然に防止するため、国民生活安定緊急措置法、石油需給適正化法、生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律の機動的な運用等により、物資の需給調整、価格の適正化、投機的行為の抑制をはかってまいります。
今日の事態は、自由と民主主義にとって大きな試練であります。
政府は、この際、企業が目先の利益にとらわれて便乗値上げや投機的行為に出ないよう強く自制を要請するとともに、かりにこれらの不当な行為等によって過大な利益を得た者に対しては、法の厳正な運用をもって対処いたします。
石油自給度の高い米国においてもきびしいエネルギーの消費抑制措置がとられ、また、ヨーロッパ諸国においても産業用よりも民生用需要の抑制に重点を置いた消費規制が行なわれております。
わが国においては、国民生活への直接的影響をできるだけ避けるため、民生用需要の充足を最優先に考えつつ石油、電力等の節減に取り組んでいるのであります。
生活必需物資については、石油、電力の配分につき特段の配慮を行なってその必要量を確保し、また、正確な情報の迅速な提供につとめてまいります。
当面している事態は、物資の絶対的不足に悩んだ戦中戦後の時代とは本質的に異なり、生産力は飛躍的に拡大しており、流通段階にも相当量の在庫が存在し、生活必需物資の需要には十分にこたえられる態勢にあります。
国民各位も、このような現実を正しく理解し、良識ある行動をもって物価の安定に協力されるよう切に望むものであります。
これから春の賃金改定期を迎えます。
賃金交渉は、労使の自主的な話し合いによって決定されるべきものでありますが、労使がその影響の重大さを十分自覚し、国民経済的視野に立って節度ある態度をとられるよう強く望むものであります。
今後における資源・エネルギーをめぐる国際環境は、量の面でも価格の面でもきびしいものがあります。
政府は、資源供給の安定化に引き続き努力を重ねる一方、石油偏重のエネルギー体系から脱却し、原子力の開発利用の促進をはじめ、水力、石炭など国内資源について新たな視点から開発の可能性を見直し、また、長期的視野に立って太陽エネルギーなど豊富で無公害の新エネルギーの利用技術の研究開発を強力に推進してまいります。
なお、原子力発電の推進にあたりましては、安全性の確保について国民の理解が得られるよう努力を重ねるとともに、発電所の立地が地域住民の福祉向上につながるよう周到かつ強力な施策を講じてまいります。
さらに、資源・エネルギーの回収、再生利用など資源利用の効率化と省資源型産業構造への転換もあわせて進めてまいります。
物価騰貴の最大の弊害は、国民生活の将来への不安を拡大し、所得及び資産の不公平な分配をもたらすことであります。
政府は、緊縮財政を貫く中で福祉優先の政策を徹底することとし、社会保障を中心として福祉向上のための諸施策の推進に思い切った財源の投入をいたしました。
老齢福祉年金を五〇%増額するとともに、厚生年金及び拠出制国民年金についても物価上昇にスライドして給付額を引き上げるほか、恩給等についても給付額の改善をはかることといたしております。
また、生活保護世帯に対する生活扶助基準を大幅に引き上げるほか、寝たきり老人、身体障害者等に対する福祉対策の強化や、社会福祉施設入所者の処遇改善等の措置を講じてまいります。
さらに、医師、看護婦等の医療従事者の養成確保など医療供給体制を整備するとともに、適切かつ公正な医療が行なわれるよう一そう力を注ぐ考えであります。
税制面におきましては、給与所得者を中心とする税負担の軽減、適正化をはかるため、所得税について給与所得控除の抜本的拡充等により初年度一兆四千五百億円にのぼる大幅減税を実施することといたしました。
この結果、いわゆる標準世帯給与所得者の課税最低限は、平年分で現行の百十五万円から百七十万円に引き上げられることになり、年収二百万円で七五%、三百万円で五五%それぞれ所得税負担が軽減されるのであります。
反面、法人税をはじめ、印紙税や自動車関係諸税について増税措置を行ない、国民負担の適正化と税体系の整備合理化を一そう推進することといたしております。
将来にわたって国民生活の安定と充実をはかるためには、財産づくりを進めることが大切であります。
政府は、健全な貯蓄を奨励するため、預貯金金利の引き上げ、利子非課税限度の引き上げを行なうとともに、勤労者財産形成貯蓄に対する優遇措置を強化し、また、事業主の協力が得られるよう勤労者財産形成基金制度を創設することといたしました。
なお、今後、高齢者社会への移行や石油危機に伴う雇用問題に適切に対応するため、現行の失業保険制度を雇用保険制度に改め、総合的な雇用対策を推進することといたしました。
今日の異常事態において、中小企業をめぐる環境はきびしさを増しております。
政府は、特に小規模零細企業の経営圧迫を防ぐため、無担保無保証の小企業経営改善資金貸し付けの資金量の増加、貸し付け限度額の二倍引き上げ、税負担の軽減など、金融、税制面での施策を画期的に拡充するとともに、経営指導事業の抜本的強化をはかってまいります。
食糧の確保も重要な課題であります。
今後の世界の食糧需給の動向は、気象条件の不安定性、人口増加等の諸事情から見てきびしいものとなることが予想せられるのであります。
このため、国民の主要食糧のうち国内生産が適当なものは極力国内でまかない、自給度の維持向上をはかることが必要であります。
このような観点から、農林水産業の生産基盤の整備を進めますとともに、麦、大豆等の生産の奨励、畜産等の大規模生産基地の建設などを積極的に推進いたします。
また、海外に依存せざるを得ない農産物についても、備蓄政策や国際協力の一環としての開発輸入政策などを進め、その安定的な供給を確保してまいります。
住宅の建設を助長するためには、土地問題を早急に解決し、宅地の円滑な供給を確保しなければなりません。
政府は、宅地開発公団を創設するとともに、宅地の大量供給促進のための制度を整備し、大都市地域を中心として大規模宅地開発事業を推進してまいります。
土地問題を根本的に解決するためには、全国的に土地利用計画を確立し、これに即して公共優先の立場から土地の取引、利用にわたる規制、誘導を強化することが急務であります。
土地は、いかなる資源にも増して有限であり、計画的かつ効果的な利用の推進が強く要請されるのであります。
一億をこえる国民が長きにわたって豊かな生活を享受していくためには、たとえ現下のきびしい情勢のもとにあっても、長期的展望に立って国土利用の再編成をはかり、国土の均衡ある発展を進めることをないがしろにすることはできません。
土地問題を解決し、総合的かつ計画的な国土の利用、開発及び保全をはかるため、国土総合開発法案及び関連法案のすみやかな成立を期待いたします。
環境保全対策の推進はいささかもなおざりにすることはできません。
政府は、公害の防除、自然環境の保護について引き続き施策の拡充強化をはかっていくこととしておりますが、特に大気汚染については、いわゆる総量規制の導入をはかる等規制基準を強化してまいります。
沖繩については、県民福祉の向上のため、本土との間に格差の見られる医療体制、社会資本等の整備、充実を積極的に進めてまいります。
また、開催期日を延期することとした沖繩国際海洋博覧会につきましては、その沖繩振興開発上の重要性や国際的意義にかんがみ、これを成功させるよう努力を重ねてまいります。
教育は、民族悠久の生命をはぐくみ、日本文化の伝統をつちかう最も重要な国家的課題であります。
激動と試練の二十世紀をこえて日本民族の歴史を創造するものは、青少年であります。
心身ともにすこやかで、豊かな心情と創造力に富み、広い視野と強い責任感を持った青少年の育成は、国民共通の願いであります。
私は、青少年諸君が、強靱な精神とたくましい身体を養うとともに、公共に奉仕する使命感に燃え、国際人としても信頼されるたくましい日本人として成長することを心から期待いたします。
政府は、新たな決意をもって、教育の刷新、充実のための施策を積極的に進めてまいります。
なかんずく、初等中等教育については、知・徳・体の調和のとれた人間形成の基本の確立を目ざして、教育内容を精選し、児童、生徒が責任を重んじ、みずから考え、みずから能力を切り開いていく態度を修得させるように配慮いたします。
学校教育の成否は結局個々の教師の力にまつところが大きく、その責務は重大であります。
教師に対する社会的信頼の確保こそ、重要な課題であります。
教職によき人材を得て、その情熱を教育に傾け得るようにするため、引き続き教員給与の改善を推進してまいります。
また、高等教育については、大学改革の推進をはかるほか、教育の機会拡大の要請にこたえ、無医大県の解消、新しい構想による高等教育機関の計画的な拡大など多彩な施策を進めてまいります。
さらに、理想的な教育の条件と秩序ある学園環境の確立のために、たゆみない努力を傾ける考えであります。
なお、先般の国連総会において、国連大学本部の日本設置が決定を見たことは、国際社会における日本の役割りを果たす上でまことに意義深いものがあります。
その受け入れに遺憾のないよう万全を期してまいります。
福祉国家の建設にとって、婦人の参加と活躍は、ますます不可欠の要請となりつつあります。
わが国の婦人は、その高い能力をもって、女性固有のものとされている職域はもとより、従来男性の職能分野と見られていた専門的技術的分野にも活発に進出し、多くの実績をあげていることは、心強い限りであります。
今日、看護をはじめ、社会福祉、教育など各種専門分野においても、婦人の進出にさらに大きな期待がかけられております。
他方、女性には、家庭においても、母として、次代をになう児童を直接養育する重大な使命があります。
いまや、婦人の就業やその家庭生活との関係等につき、新たな観点から、さらに抜本的に検討すべきときであります。
政府は、専門技術者の養成、家庭婦人の就業促進とそのための社会的環境条件の整備等につき、真剣に努力を重ねてまいります。
私は、一昨年来の米国、欧亜大陸、東南アジアへの訪問外交を通じ、緊張緩和は、欧州におけると同様アジアにおいても現在の国際秩序を踏まえて、そのワク内で達成されつつあるとの確信を深めたのであります。
わが国は自衛のための必要とされる最小限度内の防衛力を維持するとともに、引き続き日米安全保障体制を堅持してまいります。
政府は、防衛問題に関し、国民の広い理解と支持を得るため一そうの努力を重ねてまいります。
自衛隊の施設及び在日米軍に提供中の施設区域の周辺地域における民生安定諸施策を抜本的に強化するため、新たに法律案を今国会に提出するほか、米軍が使用する施設区域の整理統合についても引き続き真剣に取り組んでまいります。
なお、昭和四十九年度における防衛費については、当面する内外の情勢を十分勘案し、総需要抑制の見地からも、必要最小限の経費計上にとどめました。
現下の国際情勢は一そう多様化の度を加え、世界は、政治的にも経済的にも新しい秩序を模索しつつあり、わが国を取り巻く内外の情勢は、戦後かつてないほどに複雑かつきびしいものとなっております。
このようなときにあって、各国との相互理解と協力の増進はことのほか重要であります。
私が、さきの米、中、西欧及びソ連の訪問に引き続き、このたび、アジア五カ国を歴訪しましたのも、世界的視野に立つわが国外交のあり方、国際社会に向けてわが国が果たすべき責任を見きわめるためでありました。
私は、かねてよりできるだけ早くアジア諸国をたずね、心の通った隣人としての友好を深めることにより、これら諸国のわが国との関係に新しい一ページを開きたいと念願してまいりました。
私は、今回のアジア訪問を通じ、これら諸国との平和と繁栄を分かち合うよき隣人同士の関係をいかにして育成、強化することができるか探究することに可能な限りつとめました。
わが国のアジア諸国との関係や、わが国企業の経済活動に対する不満や批判についてもつぶさに見聞をいたしました。
私は、その中で、各国、各国民にとって相互理解と協力がきわめて大切であるにもかかわらず、それが言うはやすく実行はまことに困難な課題であることを痛感いたしました。
国際協調の意味するところを正確に把握し、これを国の施策と国民一人一人の行動と反映させることは、われわれが考えるほどには容易ではありません。
一億の日本民族は、単一民族として島国の中で人種的対立もなく、宗教や言語の争いもなく、そのエネルギーをひたすら復興と建設に結集することができました。
そのことは、一面で世界各国の中でもきわめて恵まれた点であると考えられますと同時に、他面、国際協調ないし外国との交際においては、いまだ大いに反省し、みずから学ぶ点の多々あるという結果をもたらしております。
敗戦直後の荒廃の中で復興に努力する過程では看過され、ある程度正当化されたかもしれない閉鎖的な国益追求の姿勢は、もはや国際的に通用しないばかりか、災いの種ともなりかねません。
この際、わが国に対する正当な批判にはすなおに耳を傾け、改めるべきところは改め、長期的展望に立つ互恵的な交流関係の維持増進をはからなければなりません。
こうして、日本が自分のものさしだけで判断することなく、アジア諸国のよき友人となり、苦楽を共にしてこそ、はじめてアジアの永続的な平和の確立に貢献できるのであります。
私は、かように人の面について見直しが必要であることを訴えるものでありますが、物の面では、歴訪諸国との首脳会談を通じ、アジア諸国とは相互補完の関係にあることを一そう感得いたしました。
わが国は、アジア諸国の協力を必要とし、アジア諸国もまた、その国づくりのため、わが国の協力に多大の期待を寄せているのであります。
わが国は、アジア諸国の期待にこたえるため、政府開発援助の質的改善を含む援助対策の一そうの転換をはからなければなりません。
具体的には、関係国の一般大衆の福祉向上のため、農業、医療、教育、通信等の分野に対する援助を拡充し、政府借款の条件を緩和し、贈与の対象範囲を拡大してまいります。
その一環として、政府は、国際協力推進のために国務大臣を新たに設けるほか、国際協力事業団を設立し、政府及び民間の協力体制を整えることにいたしました。
東南アジアを訪問して、今次石油危機がわが国や欧州諸国等に深刻な影響を与えている以上に、アジアの開発途上国が直接的な打撃をこうむっており、特にわが国の経済活動の停滞により、甚大な影響を受けている事実を痛感してまいりました。
資源問題の根本的解決は、産出国と消費国との間に互恵互譲の精神に基づく調和ある関係がつくられて、はじめて可能であります。
政府は、産油国と消費国との会合に言及した石油輸出国機構の声明を歓迎するとともに、国際的な解決をはかろうとする試みに参加し、世界経済の拡大と発展のために積極的に貢献してまいりたいと考えております。
政府は、資源確保にあたっては、内にはわが国経済の体質を資源供給の制約という新事態に対応すべく転換しつつ、外に向かっては、その安定供給の確保と供給先の多角化のための努力を鋭意積み重ねてまいりましたが、これらの努力も中東紛争を契機とする新事態に対応し得るほど十分のものではなかったのであります。
わが国は、中東における公正かつ永続的な平和が早期に達成せられることを期待するものであり、そのためできる限りの寄与を行なってまいります。
また、これら諸国との間に、長期的観点からその工業化の努力に対する具体的な経済技術協力のほか、人的、文化的交流等幅広い友好関係を増進するため、最大限の努力を傾ける必要があります。
以上の政策を踏まえ、政府は、さきに中東問題に関する態度を明確にするとともに、三木副総理をはじめ政府、党首脳を中東諸国はじめ関係諸国に派遣したのであります。
資源の共同開発、新エネルギーの研究等に関する国際協力の促進の重要性はますます高まっております。
これらの問題については、昨年の各国首脳との会談においても、すでに積極的、具体的な話し合いを行なった次第であります。
米国とのゆるぎない相互信頼関係は、わが国の多角的外交展開の基礎をなすものであります。
そのため、政府は、米国との貿易収支の著しい不均衡を大幅に改善せしめたのみならず、広く世界経済全体の発展確保のため、拡大均衡を指向する両国間の互恵的な貿易経済関係の増進に格段の努力を傾けております。
欧州との間には伝統的な友好関係が存在しながらも、具体的な協力関係は必ずしも密接であったとは申せません。
昨年の訪欧の結果、広範な分野にわたり、各国との対話は大いに促進強化されましたが、この成果を踏まえ、今後ともわが国外交基盤の一そうの拡大に資してまいります。
ソ連との関係においても、北方領土問題が平和条約の締結によって処理されるべき戦後の未解決の問題であると確認されたことはきわめて意義あることであり、あわせて、これまでの両国関係の着実な発展を一そう増進する素地ができ上がったことは、わが国益に資するゆえんであると考えます。
日中間の国交正常化以来その成果は着実に定着しつつあり、わが国外交の幅広い展開は一そう容易になりました。
政府としては当面する実務諸協定等の締結を促進し、日中関係の一そうの進展とアジアの平和と安定に寄与してまいる考えであります。
私は、わが国を取り巻く国際情勢のきびしさと、わが国が果たすべき責任の重さについては十分な理解をいたしております。
一昨年来の首脳外交により、世界的視野に立つわが国外交を強力に展開する基盤は固まりつつあると確信しております。
私は、今後とも、すでにもたらされている各国首脳の招請にもこたえつつ、多方面との幅広く、奥行きの深い外交努力を積み重ね、平和と繁栄を享受できる住みよい人類社会形成のため、着実な国際的貢献を行なってまいる考えであります。
われわれの前に横たわる数多くの難問は、先人が経験したことのない種類のものであります。
これらの難問を解く処方せんを過去の教科書に見出すことは不可能なのであります。
しかし、戦後の窮乏の中にあって、われわれは、乏しきを分かち合いながら苦しい試練に耐え、復興への道を切り開いてまいりました。
その同じ国民が、当時に比べはるかに物の豊かな今日、たとえそれがいかにきびしくとも、当面する困難を乗り切れないはずはありません。
自分さえよければという気持ちで目先の利益を相争い、相互不信におちいるようなことがあれば、それは国民にとって大きな不幸であります。
このような事態を回避して国民の不安を解消し、難局に対処していくのが政治の責任であります。
いまこそ、政治が本来の意義と機能を取り戻し、その力を余すことなく発揮すべきときであります。
政治は、一政府、一政党のみにかかわるものではありません。
国民一人一人の多様な願望と英知が相寄り、国の命運を決定づける力となるのであります。
政府は、政策目標と個々の政策手段を選択して、これを広く明らかにし、国民の支持と理解を得ながら冷静な判断と俊敏果断な行動をもって対処し、その結果については責任をとってまいります。
転換期を乗り切るためには、大きな困難と苦痛が伴います。
しかし、議会制民主主義の確固たる基盤に立って、政府と国民が相携えて力を尽くすならば、今日の試練を克服して、協調と連帯の新時代を切り開いていくことは必ずできるものと確信いたします。
国民各位の御理解と御協力を心からお願いいたします。
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