マルチーズの歴史は古く、紀元前1500年頃、アジアから地中海に浮かぶマルタ島に持ち込まれた犬が祖先とされています。
マルタ島を由来とするマルチーズという犬種名が付けられました。
マルチーズはほかのミニチュアドッグのように選択交配で小さくなったものではなく、最初から小さい犬であったため、世界最古の愛玩犬と呼ばれています。
イソップ寓話にもマルチーズの話が登場しています。
エジプトやギリシャでは、愛するマルチーズのために墓を建て、豪華な金の食器で食事をさせていたなど、世界中の貴族たちから寵愛されていた記録が残っています。
その後、シシリア島を経由してヨーロッパに持ち込まれ、15世紀頃のフランスでは貴婦人の愛玩犬として親しまれ、マルタ島がイギリスの属領となった1813年以降には、ビクトリア女王がマルチーズを飼い始めたことからイギリスの一般市民の間でもマルチーズが飼育されるようになりました。
1830年には絵画「マルタ島のライオン・ドッグ」のモデルにもなっています。
一方、マルタ島に残ったマルチーズたちは、小さな島の中で交配を繰り返されていました。
近親交配となってしまい、性質が固定化されたことにより、特定の遺伝病や疾患にかかりやすくなりました。
そして数が少なくなり、絶滅の危機さえあったそうです。
初期のマルチーズは白以外の色もあったようですが、近親交配を繰り返すうちに、白い毛色で固定されてしまったそうです。
こうして3000年もの長きにわたり愛されてきたマルチーズですが、日本に入ってきたのは1960年頃とされています。
1968年から1984年まで15年にもわたり登録数ランキング1位という人気ぶりでした。
温暖な地中海の島が原産地だけあって、マルチーズには下毛(アンダーコート)がありません。
マルチーズは純白で真っ直ぐな長い被毛におおわれ、体の両側に一様に垂れ下がり、その毛は鼻先から尾の付け根まで続いています。
近年になって作られたミニチュア種の犬と違って、マルチーズのサイズには大きな個体差が少ない傾向があり、オスメス共に2.5kg~3.2kgが理想体重とされています。
地面につくほど長い、純白でシルクのような滑らかな被毛をイメージする人は多いでしょう。
JKCの規定では、繁殖に用いる場合はピュアホワイトが望ましく、淡いタン(茶色)またはレモン色は許されるとされています。
マルチーズは、船員のペットとして紀元前から世界中を旅してきた犬種です。
頭がよく、忠誠心があり、飼い主に褒めてもらうことが大好き。
古くから人間と暮らしてきた犬種だけあって、しつけにあまり苦労しないことで知られています。
性格は明るくておだやか。
一般的に、小型犬は落ち着きのない子が多いと思われていますが、マルチーズは温厚で、ほかの犬と争うようなこともありません。
かつては上流階級の人たちの「抱き犬」として愛玩されていたこともあり、マルチーズは抱っこが大好きな甘えん坊。
陽気で明るい性格ですが、一方で神経質で気の強い面もあり、時に大きな犬に向かっていくなど大胆な行動をすることがあります。
飼い主に対しては愛情深いですが、他人に対してはシャイな振る舞いをすることも多いため、番犬の役割を果たすことができます。
ただし、子犬のうちに箱入りにして育ててしまうと、社会化不足によって少しの刺激でも吠えやすくなってしまうので注意しましょう。
子犬期から、社会勉強のためにも、ほかの人や犬に慣れるためにも、さらにはストレス発散のためにも、毎日の散歩は欠かせません。
マルチーズの飼い方でむずかしい点があるとすれば、純白の美しい被毛をキープすることかもしれません。
長毛ですが、マルチーズはシングルコート。
そのため、換毛期がなく抜け毛が少ないとされています。
ただし、長くて細い被毛はからまりやすく毛玉ができやすいので、毎日のブラッシングが欠かせません。
また、放っておくとどんどん被毛が伸びてしまうので、定期的にカットとトリミングを行いましょう。
ショードッグの場合は、床につくほどに被毛を伸ばした「フルコート」が一般的ですが、家庭で飼育する場合は、短めにカットするとお手入れが楽になります。
顔回りを丸くカットした「テディベアカット」、子犬のような仕上がりの「パピーカット」、全身は短くカットし耳の毛を長めに残した「ボブカット」など、さまざまなスタイルを楽しむことができます。
小型犬なので室内で一緒に遊んであげる程度でも運動量は十分。
長時間の散歩は必要ありませんが、気分転換のために朝夕10分程度の散歩を行い、体力維持とストレス解消に努めてあげたいものです。
眼もとは涙やけを起こして変色することがありますので、こまめにふき取ってあげましょう。
耳は垂れているうえに長毛がかぶさってきますので、通気性が悪く汚れがちで、放っておくと外耳炎を引き起こしてしまいます。
子犬の頃から耳の中を触らせるようにしつけて、耳掃除を嫌がらないようにしたいものです。
マルチーズと旅行をする際は、被毛のもつれを解消するためのブラシ、静電気と切れ毛を防げるブラッシングスプレー、被毛を汚さないための洋服、足先やしっぽが汚れてしまった場合などの部分洗いに便利な、洗い流さないですむシャンプーなどを持参すると便利です。
通称は、「涙やけ」。
そもそも真っ白なコートを持つマルチーズは、涙やけが目立ちやすいので気になるかもしれません。
多少の涙やけは、体質にマッチする良質なフードを食べると軽減したり、こまめに涙や目ヤニを、涙やけにも効果があるケア用スプレーなどをコットンに付けて拭いてあげると改善することもあります。
先天的に鼻涙管が狭いケースや閉塞しているケース、あるいは眼瞼内反症が原因で、流涙症が引き起こされるパターンもあります。
その場合は、目薬による内科治療や外科治療を行うこともあるので、涙やけが気になるようであれば獣医師に相談をしてください。
小型犬全般に発症しやすい、膝蓋骨脱臼。
マルチーズでも、子犬期から発症するケースがめずらしくありません。
遺伝的な要因があると言われていて、簡単に表現すると膝のお皿がはずれる疾患です。
滑る床での生活や、高いところから飛び降りることが多いと発症リスクが高くなります。
生活環境に注意をしつつ、ワクチン接種などのついでに、獣医師に膝の状態をチェックしてもらうようにしてください。
温存療法もありますが、外科手術をするのであれば若齢のうちが理想です。
マルチーズは、僧帽弁閉鎖不全症や動脈管開存症などの心臓病に、他犬種に比べてかかりやすいことが知られています。
子犬のうちから、動物病院を訪れた際は定期的に、聴診をしてもらうなど心がけておきましょう。
垂れ耳の犬種には、外耳炎が発症しやすくなります。
飼い主さんはブラッシングの際に、耳の状態を見るように心がけて、耳垢が増えていたり、臭いがするようであれば早めに獣医師に相談を。
外耳炎の治療開始が遅れると、耳の内部まで炎症が広がり治りにくくなるので、早期に治療できるように努めましょう。
犬の遺伝病には毛色との関係が深く、マルチーズのような全身が白色の犬には網膜や目の異常、聴覚の異常が起きることがあります。
目の周囲の異常として、眼瞼内反症や二重睫毛が見られることがあります。
また、ホワイトシェイカードッグ症という疾患では、寒くもないのに四肢をぶるぶる震わせる様子を見せます。
遺伝病では治癒ができないものが多くありますので、対症療法が中心になるでしょう。
マルチーズに限らず消化器官の小さい小型犬では、ちょっと食欲が落ちると、エネルギー不足による低血糖を引き起こすことがあります。
食事の好き嫌いで、美味しいものやおやつばかりを食べるようになってはいけませんので、子犬の頃からドッグフードに慣れさせておくことが大切です。