「小規模企業白書」ご存知でしょうか。
「中小企業白書」とセットになって発表されている白書です。
そもそも中小企業とは、中堅企業も、小企業も、零細企業もすべて含まれて「中小企業」と呼ばれています。
つまり、社員200人の中堅企業も、社員2~3名の零細企業も、中小企業なんですね。
でも、それでは、課題やニーズは全く異なりますし、データ収集・解析においてもぼやけてしまいます。
ということで、2015年版より、小企業や零細企業を中心とした「小規模企業白書」という新しい白書が発表されているのですね。
今回はお時間のない方や学生、女性の方でもご理解いただけるように、2018年版「小規模企業白書」を個人的視点で要約してみました!
Contents
小規模企業白書とは?
冒頭にもありました通り、『小規模振興基本法(以下、小規模基本法)』を受け、2015年4月、小規模事業者を対象とした『2015年版小規模企業白書』 が創刊されました。
『2015年版小規模企業白書』は、小規模事業者を対象としたはじめての法定白書です。
小規模基本法に基づき、小規模事業者の動向や、国が講じようとする小規模事業者向け施策について国会に報告することとされています。
過去から中小企業基本法に基づく『中小企業白書』が発表されてきましたが、それと並び報告していく白書となります。
小規模事業者には会社と個人事業主が含まれ、中小企業のうち、従業員数が20人以下(商業・サービス業の場合は5人以下)の事業者を「小規模企業」と定義しています。
つまり、この「小規模企業」に焦点を当てた白書が、「小規模企業白書」となります。
参考までに、中小企業の定義はこちらです。
【中小企業の定義】
①製造業・建設業・運輸業 その他の業種:資本金3億円以下、従業員300 人以下
②卸売業:資本金1億円以下、従業員100 人以下
③サービス業:資本金5,000万円以下、従業員100人以下
④小売業:資本金5,000万円以下、従業員50人以下
小規模企業白書の全体の流れ
小規模企業白書は2015年に初めて創刊されました。
2018年版で4年目となります。
まずは目次からみてみましょう。
以下、2015年創刊からの目次です。
ご参照下さい。
2015年版小規模企業白書
第1部 小規模事業者の構造分析
第1章 小規模事業者の実態
第2章 小規模事業者の動向
第3章 小規模事業者の未来
第4章 地域の中の小規模事業者
第2部 小規模事業者の挑戦―未来を拓く―
第1章 需要を見据えた経営の促進
第2章 新陳代謝の促進
第3章 地域経済の活性化に資する事業活動の推進
第4章 地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備
2016年版小規模企業白書
第1部 小規模事業者の動向
第1章 小規模事業者の動向
第2章 小規模事業者の活動実態と取組
第3章 支援者側から見た小規模事業者
第4章 地域の中の小規模事業者
第2部 小規模事業者の未来
第1章 業績傾向の良い小規模事業者の特徴等
第2章 小規模事業者の多様な側面
第3部 小規模事業者のたくましい取組―未来につなげる―
第1章 需要を見据えた経営の促進
第2章 新陳代謝の促進
第3章 地域経済の活性化に資する事業活動の推進
第4章 地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備
2017年版小規模企業白書
第1部 平成28年度(2016年度)の小規模企業の動向
第1章 小規模企業の現状
第2章 中小企業・小規模事業者のライフサイクルと生産性
第3章 中小企業・小規模事業者の雇用環境と人手不足の現状
第2部 小規模事業者のライフサイクル
第1章 起業・創業
第2章 事業の承継
第3章 売上拡大に向けた取組
2018年版小規模企業白書
第1部 平成29年度(2017 年度)の小規模事業者の動向
第1章 小規模事業者の現状
第2章 小規模事業者の構造分析
第3章 小規模事業者の労働生産性分析
第2部 小規模事業者の労働生産性の向上に向けた取組
第1章 小規模事業者の人手不足と業務の見直し
第2章 小規模事業者のIT 利活用による労働生産性の向上
第3章 小規模事業者の設備投資による労働生産性の向上
第4章 小規模事業者の企業間連携及び事業承継による労働生産性の向上
第3部 活躍する小規模事業者の姿
第1章 地域課題に対応しながら成長する小規模事業者
第2章 「新しい働き方」としての小規模事業者
いずれも、同年発表されている中小企業白書とリンクした内容が多くを占めています。
年度ごとの特徴や傾向も中小企業白書と連動しています。
それでは2018年版小規模企業白書について詳細をみてみましょう。
2018年版小規模企業白書 第1部 平成29年度(2017 年度)の小規模事業者の動向
まず第1部。
こちらは例年通り、小規模事業者の現状と分析です。
第1部は、主に経済環境としては徐々に良くなっていいます、という内容です。
中小企業白書とほぼ同じ流れです。
ただ、第1部の第3章では、労働生産性について触れており、第2部に向けた伏線としています。
2018年版小規模企業白書 第2部 小規模事業者の労働生産性の向上に向けた取組
第2部からが本題となります。
最大のキーワードは「労働生産性」です。
2018年版中小企業白書でも最大のキーワードがこの「労働生産性」でした。
第2部は第1章の人手不足で課題提起し、第2章IT利活用、第3章設備投資、第4章の企業間連携及び事業承継で課題解決のヒントとして取り上げています。
中小企業白書と比べて大きな違いは「企業間連携」。
労働生産性の課題解決におけるヒントとして、中小企業白書が「アウトソーシング」での課題解決も掲載していることに対し、小規模企業白書では「企業間連携」として取り上げている点が大きな違いかもしれません。
その他、「IT利活用」と「設備投資」に関しては、中小企業白書でも大きく取り上げられています。
第2部は2018年版小規模企業白書の中心的内容です。
つまり、中小企業庁が最も伝えたい部分です。
それでは第2部、第1章からみてみましょう。
第2部 第1章 小規模事業者の人手不足と業務の見直し
第1章は人手不足について。
特に小規模事業者は人手不足を経営者個人の労働過多となる傾向を取り上げています。
※「第2-1-13図 人手不足への対応」
人手不足への対応として「経営者の労働時間を増やし対応」が 53.9%と最も多くなっています。
なかでも、経営者個人の負担となっているが、バックオフィス業務。
経理や在庫管理、給与管理などの間接業務負担が大きいとしています。
この間接業務をIT利活用で効率化し、「攻めの経営」、つまり売上向上策に時間を割きましょう、という提案しているようです。
このIT利活用が、第2章につながってきます。
第2部 第2章 小規模事業者のIT利活用による労働生産性の向上
第2章は労働生産性向上のために、ITを活用しましょう、という内容に終始します。
なかでもクラウド会計ソフトを導入で労働生産性向上の実現を説いています。
※「第2-2-14図 クラウド会計ソフトの導入により得られた効果」
クラウド会計ソフトを導入 している企業の 78.8%が「経理・会計業務にかかる業務時間の削減」の効果を得られ たと回答しています。
高齢の経営者の場合、殆ど活用がないことから、労働生産性が低いままの状態であり、70歳以上の経営者の場合、半数以上がIT未導入であることを挙げています。
また、間接部門のみならず、「攻めの経営」として、営業や販売部分でも積極的にIT化し、具体的事例としては「インターネットショッピングモールへの出店・出品」など売上向上に結び付ける効果なども記載されています。
第2部 第3章 小規模事業者の設備投資による労働生産性の向上
第3章は中小企業白書同様、設備投資についてです。
設備投資は人手不足解消、生産性アップのためにも重要であるとしています。
※「第2-3-21図 直近3年間の設備投資実績と経常利益額の変化」
積極的に設備投資を実施している事業者の方が、経常利益額が増加している割合が高いとしています。
設備投資の具体的事例では「LED照明導入」や「テーブル・カウンター増設」「機材導入(真空パック機)」「自動ロボット機導入」などが挙げられています。
第2部 第4章 小規模事業者の企業間連携及び事業承継による労働生産性の向上
前述しましたが、2018年版中小企業白書と比べて「アウトソーシング」部分を小規模事業者については「企業間連携」としています。
つまり、他社との連携で、お互いの弱点をカバーし、強みを生かしながら協力していきましょう、ということかもしれません。
具体的事例としては、建設業者と個人デザイナーとの連携や、コンテンツ制作会社とYouTuberへ編集業務の外注や制作技術等を持つ企業との連携などを挙げています。
そして第4章はもう一つ、「事業継承」にも触れています。
高齢化した経営者が多いのは中小企業における大きな課題の一つです。
2018年度版中小企業白書にも取り上げられていました。
若年後継者への事業継承で、IT化や設備投資等、労働生産性の向上が図られる、という内容です。
また、後継者がいない場合、M&Aなどの提案もされています。
特に小規模事業者には「事業引継ぎ支援センター」が具体的対策として取り上げられています。
「事業引継ぎ支援センター」とは、各都道府県に設置された公共機関で、中小企業者等の事業引継ぎや事業承継を円滑に進めるために、助言、情報提供、マッチング支援を行っています。
※「2-4-1②図 事業引継ぎ支援センターの相談企業数と成約件数」
事業引継ぎ支援センターの相談企業数と成約件数は増加しているようです。
後継者が不在の小規模事業の廃業や倒産を防ぐためにも、事業継続の手段の一つとして紹介されています。
戦後、団塊世代が立ち上げた老舗企業の多くが、事業継承する時期となっていることが背景ではないでしょうか。
第3部 活躍する小規模事業者の姿
最後、第3部です。
第3部は、中小企業白書にはない内容で、「小規模企業白書」ならではの内容となっています。
以下2つで構成されています。
・地域課題(第1章)
・フリーランスなどの新しい働き方(第2章)
※「第3-1-1図 第3部概要」
また、第3部の特色としては、具体的事例。
ただひたすら事例紹介を行っており、大半を事例紹介に紙面を費やしています。
中小企業庁は、より具体的な事例が理解されやすいと考えたのかもしれません。
それでは第3部みてみましょう。
第3部 第1章 地域課題に対応しながら成長する小規模事業者
第1章は地域課題に取り組み、地域と密着した経営で成功している事例をピックアップしています。
・地元食材を生かした事例
・古民家を活かした地域活性化事例
・地方風景を活かした各種撮影招致
・買い物難民を支える移動販売業者事例
・シャッター商店街の空き店舗を活用した保育園誘致事例
・地方企業のインターンシップ、採用を促進するNPO法人事例
などです。
その他、看板設置やチラシ広告、ニュースレター、ホームページなど、販促成功事例も複数掲載されています。
第3部 第2章 「新しい働き方」としての小規模事業者
第2章は主にフリーランスなど新しい働き方などの事例です。
・大手企業勤務者による副業・兼業事例
・フリーランス成功事例
・配偶者の転勤を機に起業した事例
・定年退職後のセカンドキャリアとしての起業事例
などです。
第3部は「小規模企業白書」ならではの内容ではないでしょうか。
2018年版中小企業白書ではあまり重視されていない内容です。
2018年版中小企業白書では一貫して「労働生産性」について述べていましたが、過去の中小企業白書では「地域課題」や「新しい働き方」なども積極的に取り上げてきました。
ただ、中小企業でも従業員数百人抱える、いわゆる「大企業に近い、中堅企業」は海外展開を行うなど、グローバルな課題と向き合っている企業も多く存在しています。
一方、主に同族経営、地域密着経営の「小規模事業者」は、「大企業に近い、中堅企業」と比べ、立場や課題、ニーズも大きく異なっています。
「小規模企業白書」は、この後者に焦点を当てた内容、特に第3部がその象徴かもしれません。
2018年版小規模企業白書まとめ
もともと小規模企業白書は中小企業白書と内容はリンクしている傾向が強くあります。
2018年版中小企業のテーマは「労働生産性向上」。
現政権の働き方改革の意向が強く反映されており、同じく2018年版小規模企業白書も「労働生産性」に関する内容が軸でした。
2018年版小規模企業白書における、労働生産性向上における最大のポイントは「IT利活用」「設備投資」そして「企業間連携」です。
例年に比べて大きく異なる部分は、具体的事例の多さではないでしょうか。
2018年版中小企業白書も、例年に比べ事例が多く取り上げられていたことが大きな特徴の一つでした。
データ分析を軸とした例年の内容から、事例紹介を軸とした2018年版。
中小企業白書、そして小規模企業白書、いずれも、より「実践的」な白書となっているのかもしれません。
尚、2018年版「中小企業白書」をまとめた、過去記事があります。
宜しければ、ご覧ください。
↓ ↓ ↓
最後に
小規模事業者とは、20人以下の事業者のことです。
でも。
多くのベンチャー企業は最初1人、または数人でスタートしています。
今を輝く超優良ベンチャー企業も「小規模事業者」だったはずです。
地方発の世界企業も多く存在していますし、個人で立ち上げた企業が世界企業となったケースはいくらでも存在します。
「小規模事業者」がすべての原点。
未来の日本経済を創り上げるのは「小規模事業者」なのかもしれません。
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