デビューしてから、自分の名前やイメージが1人歩きして、本来の自分よりどんどん大きくなって、私自分もその虚像を必死で追いかけている感覚がありました。
仕事と全く違う趣味といえば、字を書くことが子どもの頃から好きで、書道の道に進もうと考えた頃もあったんですよ。今も、好きな音楽をかけながら、ペン字を練習しているときが落ち着く時間ですね。
車はペーパーなので(笑)。休日は基本的に家で過ごすことが好きです。お部屋の掃除、片付けをして、整理されたお部屋で過ごすのが気持ち良いですね。見たかったDVDを見たりして過ごします。あ、でもショッピングに行ったり、気になっている映画を観に行くこともあります。ジムに行って、コアトレーニングをすることも好きです。体力勝負のお仕事ですから。
私は、恥ずかしながら若い時は、ひたすら無我夢中にスケジュールだけをこなしていたんです。でも30代半ばぐらいから、作品に対して、もっと能動的に取り組むようになってきました。「役を通して、その作品に込められたメッセージを届けたい」。今はそんな思いを持ってカメラの前に立っています。
【澪つくし】について
忘れられないのは、打ち上げの会場で脚本のジェームス三木さんが「今やっと女優の卵からヒナに孵(かえ)ったところですよ」とおっしゃってくださったこと。その時に、ああ、そういうことなんだと実感することができました。『澪つくし』のかをる役で全国の方に私の名前を知っていただくことができた、俳優としての私の原点となった作品だと思っています。
【大河ドラマ秀吉】について
秀吉の描き方がとても斬新な作品だったと思います。そのうえ竹中直人さんのお芝居が破天荒で、台本に描かれている以上に秀吉が飛び出してくるようで、いつも新鮮な驚きを受けていました。おねも喜怒哀楽がはっきりしていて、感情を素直に出してしまう女性として描かれていました。忘れられないシーンがいくつかあります。秀吉の浮気にヤキモチを焼いたおねが、秀吉の顔を正面から拳固で殴ったら倒れた秀吉が鼻血を出しながら起き上がってきたシーン(笑)。ほかにも、やはり浮気に悩んだおねが酔っ払って信長様(渡哲也)に告げ口をしたり。時代劇で女性が悋気(りんき)を表に出すというのはとても珍しいことでしたが、これこそがおねの魅力だと受け止めて楽しんでチャレンジしていました。竹中直人さんは演じている間にもアイデアがどんどん浮かんでくる方なので、ご一緒している私の役もふくらんでいきました。従来の時代劇に描かれていたお姫様ではなく、のびのびと自然に感情を出すことができて私にとっても転機となった作品です。
【お登勢】について
『澪つくし』以来の久しぶりのジェームス三木作品でしたね。共通点といえばやはりヒロインが一途な女性というところでしょうか。幼くして武家に奉公に出たお登勢ですが、勤皇の志士の津田貢様(葛山信吾)に一目惚れして幕末という時代のうねりに翻弄されながらも身分違いの恋に一途に向き合います。許されない恋というところは『澪つくし』の時と同じで、“ロミオとジュリエット”を思わせる設定でした。お登勢は貧しい農家の娘で田舎から女中奉公に出てきているので、前半は口紅も塗らず、顔色も少し黒っぽく日焼けをしているようなお化粧で素足で駆け回るなど、土の匂いがする素朴さとたくましさを意識して演じていました。後半になると恋をして大人の女性になっていきますが、そこで恋をした貢の許嫁(いいなずけ)が奉公先のお嬢様・志津(森口瑤子)だとわかり、三角関係の中で揺れ動くという切ない展開になりました。
【シングルマザーズ】について
忘れられないシーンの一つが第2話のラスト。夫のDVから逃れて着の身着のまま息子と家を飛び出した直が、浜辺で高畑淳子さん演じるシングルマザー団体の代表・燈子に苦しみや悲しみを打ち明けたシーンで、自然に次々と涙があふれ出てきたことを覚えています。シングルマザーの久美を演じた北斗さんもドラマ初出演とのことでしたが、懐の深いあねご肌の先輩という感じをとても自然に演じられていて素敵でした。この作品からは、人は一人で生きているのではなく、みんながいろんな人に助けられて生きているということ。シングルマザーは社会で肩身を狭くして生きていかなくてはいけないと思いがちだけれど、不完全でもいい、周りの人の助けでやっていける。そんなメッセージを送り届けることができたのではないかと思っています。
【小吉の女房】について
小吉を演じる古田さんとは、以前舞台でご一緒させていただいて以来なので何十年ぶりにご一緒しました。古田さんならではの強烈な小吉が素敵です(笑)。古田さんは、やんちゃな少年がそのまま大人になったような方。それでいて色気もありますし、監督のどんな要求にもすぐに応えられるなど、久しぶりにご一緒してみて見習いたいところばかりでした。息子の麟太郎役は鈴木福くん(第5回~)。私は小学一年生くらいの福くんを想像していたのですが、すっかり大人のお兄さんになっていました(笑)。4人兄弟の長男で幼い弟や妹の面倒をよく見ているそうで、赤ん坊の扱いがとても上手なので現場ではよく助けてもらいました(笑)。今回、この作品に入って感じたことがあります。それは物が豊かでなかった時代は言葉が豊かだったということ。日本語の美しさを感じることができた作品でもありました。
ある日、スーパーで乳製品を手に取ろうとした時に、ふと「これを手にしている自分を見て、周りの人はどう思うのだろう」などと、気にしている自分に気付いたんです。自分の意思より、常に第三者の目を意識して毎日過ごしていたんです。私にとっては大発見でした。それからは、自分の意思を大切に過ごすようになって、ずいぶん楽になりました。
脚本の面白さ、科学と人間の関わりをち密に描いているところだと思います。最初は科学一辺倒だったマリコは、他の登場人物と関わることで、人として成長してきました。一方で、真実に向かって、真っすぐに突き進むという変わらない部分もあります。そんな人間味あふれるマリコというキャラクターが皆さんに愛されているからこそ、「科捜研の女」は長く続いているのだと思います。
初期のころは科学一辺倒でしたが、たくさんの人々と出会うことで広い視野で物事を見るようになり、登場人物を優しく見つめられるよう成長してきたマリコが、人としてさらに成長するんじゃないかなと思います。逆に変わらないのは、真実を突き止めようとするところ。まっすぐな姿勢は変わらないです。
一番にはその時々の時事性を取り入れた脚本の面白さがあります。科学の進歩とともに作品も進化して、ドローンなどを使った撮影方法も取り入れられてきた中で、登場人物の関係性も深まってきて。だからこそ、20年間応援していただける作品になったのかなと思います。関係性ということで言えば、ラボのみんなや府警本部の皆さん、風丘先生(若村麻由美)……登場人物のファミリー感も支持していただいている理由の1つだと思います。
沢口靖子。
1965年生まれ、大阪府堺市西区堀上緑町出身。
堺市立平岡小学校卒業後、中学2年生まで堺市立上野芝中学校(西区)→堺市立赤坂台中学校(南区)、大阪府立泉陽高等学校卒業→奈良教育大学入学辞退。
1984年、第1回「東宝シンデレラ」で3万1653人の中からグランプリに選ばれ、芸能界入り。
この年の映画『刑事物語3 潮騒の詩』で女優デビュー。
このとき映画内の挿入歌「潮騒の詩」も歌い、歌手としてもデビューしている。
映画『ゴジラ』(1984年、東宝)で、第9回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
挿入歌「さよならの恋人」も歌唱。
1985年度上半期に放送されたNHK連続テレビ小説『澪つくし』のヒロインを演じ、人気と知名度を全国的に定着させた。
その後も天然の美貌と笑いを愛する関西人的なノリのギャップを活かし、主演級での出演を中心としてシリアスな役柄から喜劇タッチのコメディーまで、ドラマ、映画、CMなどで型にはまらない役者ぶりを見せ、多方面に活躍を続けている。
1999年10月にスタートしたドラマ『科捜研の女』第1シリーズ(テレビ朝日・東映)に京都府警科学捜査研究所の法医学研究員・榊マリコとして主演した。
同作はシリーズ化され、初期は低迷気味だった視聴率も2005年頃より安定して長寿番組となった。
2019年4月からは初の通年放送となる第19シリーズを放送、2020年10月22日より第20シリーズを放送。
第9回『24時間テレビ』(1986年、日本テレビ系)ではチャリティー活動に取り組み、パーソナリティーを務めた。
クイズ番組初出演は2013年4月29日放映の『ネプリーグSP』(フジテレビ)。
2015年、第23回橋田賞を受賞。
同年、京都府警察のイメージアップに大きく貢献したとして、同本部より感謝状を贈呈された。
同年、第13回クラリーノ美脚大賞・特別賞を受賞。