株式会社自律制御システム研究所代表、太田裕朗:大学の研究室スタート企業を上場させるポイントとは?

株式会社自律制御システム研究所代表、太田裕朗:大学の研究室スタート企業を上場させるポイントとは?

 

大学の研究室スタート企業を上場させるポイントとは?

 

 

 

太田裕朗/株式会社ALBERT

 

 

 

最初は大学の研究室そのままに近い会社でしたから、正直言って未整備のものが多かったです。

たとえば機体製品は一応あるものの、権利関係、ソフトのデバッグ、設計情報の明文化、サプライヤーマネジメントなども未整理。

そのままでは品質や長期供給責任をきちんともって安心して販売できない可能性もありましたので、最初に調達した7億円のうち、そのほとんどを使って、大赤字の中、機体を作り直しました。

その会議には、山本さんは毎週出席していました。

じつは山本さんはオクスフォード大の物理学部物理学科の出身。

私も山本さんも、“いちおう”、頭がベーシックサイエンスでできているから、話がとてもよく合いました。

二人ともドローンについては初学者なのですが、理解を深めていきました。

最初の1年は山本さんが社外取締役で入ってくれて、二人三脚で経営。

社外ですが、山本さんは週に4日は千葉(ACSL本社)に来ていたんじゃないかな。

創業社長は生粋の学者です。

事業サイドから何か提案するときは、こちらも理論をしっかり理解していないと会話になりません。

山本さんは一緒に勉強してくれて、他の大学の研究室に2人で話を聞きに行ってくれたりもしました。

まさにハンズオンでしたね。

もちろん坂本さんも同様にハンズオンでサポートしてくれました。

いくら私にアカデミアとビシネスのバックグラウンドがあると言っても、経営の能力は穴だらけです。

ガバナンスの規程を作るとか、IPOを見据えて証券会社を選ぶとか、完全にド素人のところも多々ありました。

坂本さんも山本さんも引き出しが豊富で、私が自分に足りていないところを相談すると、プロフェッショナルをアレンジしてくれるなどして武器を与えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

太田裕朗(自律制御システム研究所代表)とは?

 

 

太田裕朗。

1976年生まれ。

 

京都大学大学院エネルギー科学研究科博士課程修了後、ローム株式会社における研究職を経て、京都大学大学院航空宇宙工学専攻助教に就任。

 

2008年カリフォルニア大学サンタバーバラ校に移籍、中村修二教授のグループで発光デバイス(LED)等の研究に従事。

2010年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーに参画、会社変革プロジェクト等に従事。

 

2016年7月より、株式会社自律制御システム研究所(ACSL)参画。

2018年12月に東京証券取引所マザーズ上場。

 

ドローン産業分野の企業として初の上場を果たす。

京都大学工学部卒(1999)、同大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了、京都大学博士(2004)。

 

 

 

 

 

 

 

 

太田裕朗(自律制御システム研究所代表)の「コトバ」

 

 

 

私はもともとは学者です。京都大学で博士を取ってから半導体の会社であるロームに入社して青色LEDを研究しました。その後、京大の助手のポストが空いたので、大学に戻って材料やプラズマの先生を1年間やりました。その後、縁あってアメリカの大学で2年間先生をやりました。カルフォルニア大学サンタバーバラ校の中村先生(2014年にノーベル物理学賞を受賞)の青色LEDの研究助手です。シリコンバレーにある中村先生の会社を手伝ったりもしていました。34歳までそんな事をしていましたね。この間、100本ぐらい論文を書きましたよ。大学の教授になろうと思っていましたから。

 

 

 

 

 

 

 

子どもが産まれたタイミングで、日本に戻りました。基本的には、ハイテクとか技術の会社のコンサルが多かったですね。6年間コンサルを経験した後、UTEC(ユーテック)(ベンチャー育成に取り組んでいるベンチャーキャピタル、東京大学エッジキャピタルの通称)上場時点も当社(自律制御システム研究所)の筆頭株主)で当社への投資(2016年3月、増資引き受け)を担当された方とはマッキンゼーの時から知り合いで紹介をいただきCOOとして入社しました。

 

 

 

 

 

 

最初に事業を見たときの印象は、「この会社はドローン業界のAppleになりえる」ということ。Appleが強いのは、iPhoneの設計、部品選定、なによりユーザーインターフェースを決定づけるソフトを握っているハードウエアメーカーからです。ハードは安く作れる競合に負けるおそれがありますが、設計やソフトは簡単に追いつかれません。ソフト開発は長い下積み期間が必要ですが、この会社は大学の10年以上にわたる研究成果としてその蓄積がありました。独自の自律制御技術を持つACSLなら、ドローン業界でまさにオンリーワンの会社になれると思いました。

 

 

 

 

 

 

私が入社してから2年半で上場しました。大学発のベンチャーでしたから、ドローンの技術はあったのですが、研究グループのような印象でした。そこに楽天(4755)とUTECが総額7.2億円のA種優先株として出資をしてくれました。お金を入れるためには経営面のアップグレードが必要ということで、当時、創業者がCEOだったのですが、私がCOOとして事業全体を見るという形でした。一筋縄ではいかない部分もありましたが、そこから1年の間に現在のCFOを呼んだり 、アメリカ人で東京大学の助手であった先生をCTOに迎え入れたり、という事で、IPOを目指せる体制に変えていきました。1年半後にはB種優先株の増資をして、21億円を調達し、そこから1年、目標としていたスケジュールで上場する事ができました。

 

 

 

 

 

 

 

1年後に現在のCFOの早川に入ってもらって、上場準備はすべて早川が進めてくれました。IPOプロセスに加えて危機管理等も担当しています。鷲谷は素晴らしい営業マンなので、事業の側に立ってもらいました。会長の野波は、制御の、メカニカルな理論的な制御理論の先生、理論家です。ただ、画像処理の技術、「SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)」と呼んでいる技術は、CTOのクリス・ラービ博士が研究していた技術です。ジョージアテック(ジョージア工科大学)を出て、ミシガン(ミシガン大学)で修士号を取得し、アメリカでボーイングのエンジニアでしたが、東京大学の博士課程に入り直して、東大の助教をしていました。日本語が堪能な、この分野で一番の画像のプロです。画像とドローンのプロ。恐らく、世界に何人かしかいないと考えています。そんなことで、2016年、2017年に経営体制は大きく変わりました。

 

 

 

 

 

 

 

当時の機体は、大学の研究成果で「MS06」と言う機体でした。6ヶ月かけて、中の部品から、ブランディングも含めて全て、現在の「PF1」にしました。千葉大学時代からの20年のデータもありましたから、我々は「PF1」に必要なソフトウェアを全て自社で開発する事ができました。ですから、国防上等の理由でアメリカや中国の技術を使う事ができなくなったとしても、我々は自律飛行型ドローンを作る事ができます。日本では非常に稀な存在と認識しています。競合企業などは、ドローンを制御する中身のソフトウェアは自社開発ではなく、中国製だったりするところも少なくありません。我々は会長が、20年かけて、この分野に取り組んでおり自社でソフトウェアを持っています。彼は、NASA(米航空宇宙局)でシニア研究員、千葉大学では副学長、産学連携本部長を務めましたが、ドローン研究室の運営にも長い間携わり、自ら起業した方です。

 

 

 

 

 

 

ドローンはセンサーで外からのシグナルや情報を受けて飛んでいます。気圧センサー、ジャイロセンサー、画像情報、超音波、それから、GPSのシグナルも受けています。気圧を感じる気圧センサーは人間の耳ですね、高さを感じるものです。ジャイロセンサーは三半規管のようなものです。更に、我々のドローンには目(カメラとカメラ画像の処理)が付いています。これらをどうやってフュージョンして、ドローンの行動に移すか、っていう事に取り組んでいます。例えば、目の機能であれば、技術の会社は、「目の機能でプラットフォームを作る」等と言った説明する事が多く、半導体メーカーであれば、そのチップを沢山使ってもらう。NVIDIAだって結局AIの脳の部分、GPUを売っているだけです。我々の違うところは、技術をフュージョンして最終製品にしなければならない。それが強みでもあります。

 

 

 

 

 

 

我々も、最後の製品はアナログです。自律飛行に必要な全てのソフトを統合して、最終製品に仕上げます。自律飛行に必要な全てのソフトの統合はアナログ技術です。我々には最終製品があり、それが我々の強みです。技術だけを売っていたら、ライセンス1個の値段はそこまで大きくなりません。覚えておいていただきたい事は、最終製品を作っている事と、自社の技術をアナログで組み合わせて作っている事。そこが「オンリーワン」なんです。

 

 

 

 

 

 

 

「動く」というモーションを、動きながら自分で処理しています。通信したり、外から操縦したり、であれば簡単にできるのですが、自分で考えて飛んでいます。と言う事は人間の代替ができますから、プレミアムがつきます。外から管制する、4G・5Gで制御するとなると、遠隔制御する人間が必要になる。それでは、ただのツールですね。人間を置き換える事ができないから、価格は100万円以下になると思います。でも、我々の製品は人間に代わって自動で点検作業をしますから、しかも室内の非GPS環境でも、です。我々の製品が紹介される場合、GPSがなくても飛べます、画像処理技術があります、大脳があります、となるのですが、我々がアピールしたい事は、必要な技術を全て持っていて、アナログでの処理が必要だからエントリーバリアも高い、という事です。

 

 

 

 

 

 

我々と進めて、ドローンを作り込むと、他社のドローンに簡単に乗り換える事ができません。ノウハウをロボットに落とし込んでいますし、業務フローに入り込んでいますから。継続率はほぼ100%。IPも我々が持っています。例えば、トンネル用は、機体に複数のカメラを搭載して、暗がりですからLEDライトも付けます。LEDライトの光は画像処理のSLAMが見やすい光というのがあるので工夫して選んでいますし、人間の目が暗がりに行くと白黒のレンズに変わるように、暗がりでは暗がりに合うようにコンピューターの目をチューニングします。トンネルに行くと意外と画像として認識できなかったりするため、そこでアナログの合わせ込みが必要になります。

 

 

 

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