JR九州会長、唐池恒二:鉄道好きではない人の気持ちがわかる理由とは?

JR九州会長、唐池恒二:鉄道好きではない人の気持ちがわかる理由とは?

鉄道好きではない人の気持ちがわかる理由とは?

唐池恒二/JR九州会長

 

鉄道ファンには怒られてしまいますが、実は私はそもそも鉄道があまり好きではないのです。
旧国鉄に入ったのも、先に国鉄に就職していた柔道部の先輩に餃子を大量におごってもらったから。
今思えばずいぶん安い契約金でした(笑)。
ただ、だからこそ鉄道好きではない人の気持ちがわかる。
たとえばSLを復活させるにあたり、鉄道ファンからは「昔のままの姿で」と要望が来るわけですが、私は鉄道ファンではないから聞き流してしまう。
むしろ「どうしたら若い女性や親子連れに乗ってもらえるか」を考え、現代風にリニューアルするわけです。

 

 

唐池恒二とは?

 

 

唐池恒二。

「九州旅客鉄道(JR九州)」会長。

大阪出身。

 

京都大学法学部卒業後、日本国有鉄道(のちのJR)に入社。

大学では柔道部に所属。

 

日本国有鉄道九州総局総務部人事課長などを務めたのち、分割民営化に伴い、JR九州へ。

1993年(平成5年)には外食事業部の次長を命じられ、8億もの赤字を重ね収益確保に苦しむ外食事業の立て直しを手がけて、3年で黒字化を果たし同部門の子会社化(ジェイアール九州フードサービス)に先鞭をつける。

 

2000年(平成12年)には再び経営が悪化しつつあったジェイアール九州フードサービスの社長に再就任、同社が展開する炭焼創菜料理店「うまや」の東京進出などといった経営改善策を実行し、当時3年間連続で赤字を計上していた同社の黒字化に貢献。

 

その後JR九州に戻り、2009年(平成21年)6月から2014年(平成26年)6月までJR九州代表取締役社長を務め、豪華列車「ななつ星in九州」の立ち上げに寄与。

2014年(平成26年)6月、同社代表取締役会長に就任。

 

 

厳選!唐池恒二の珠玉名言

 

 

分割民営化当時はまさに逆境でした。ただ、それを全社員が承知していましたから、当社は何とかしなければならないという気持ちでスタートできました。

 

 

国鉄時代、九州に約2万7000人いた社員はJR九州発足時には約1万5000人に減り、鉄道から離れることになった仲間は数千人もいた。つまり私たちは実質的に、倒産と同じ経験をしたのです。その無念さや悔しさ、そして本州3社に追いつくんだという意地に加え、大赤字なのに収益事業がないという事実に対する危機感を原動力にしてきました。

 

 

九州には山手線や東海道新幹線といったドル箱路線はありません。何もない中での、逆境からのスタートだった。だからこそ、新しいことに挑戦するしかなかった。

 

 

昔は百貨店の屋上は楽しいものでした。しかし、時代が経つにつれて効率化の名の下に、屋上に力を入れなくなった。そこで、我々は時代の逆行をした。もっと楽しい屋上にしたいと考え、それまで駅ビルには来なかった若いお母さんと小さな子供が来るようになったのです。

 

 

当社の自慢は、風通しがいいこと。私がお笑い人間だからかもしれませんが、社員は平気でいろんな意見を提案してくる。時々、私は会長ではなく、単なる友だちだと思われているのではないかと思います(笑)。そんなフランクな空気も、上場の推進力になったと思っています。

 

 

鉄道・非鉄道部門で共通している一番の魂は「鉄道だ」「鉄道ではない」ということは関係なく、私たちが目指すべきものとして、「私たちJR九州が地域を元気にするんだ」ということを一番高い概念として掲げているということです。

 

 

JR九州では、ほとんどの社員が鉄道以外の業務に一度は出向します。むしろ、ずっと鉄道事業のままだと「俺、出世コースから外れたんじゃないか?」と不安になるそうです。こんな鉄道会社、他にないですよ。

 

 

「ななつ星」は専用窓口を設けて、コネやツテは一切禁じ、厳正な抽選を行うことを決めました。たとえ当社の経営陣といえども、「口利き」は一切できません。これは私自身も例外ではなく、実際に王貞治さんから電話を頂いたこともあります。さすがに世界の王さんですからむげには断れませんでしたが、一晩考えてから断りました。さすがに「世界の王」と言われる方だけあって、すぐに納得してくださいました。その後も今に至るまで、同様の相談はたくさん頂きますが、「あの王さんにもお断りしたんです」と伝えると、皆さん素直に納得してくださいますね。

 

 

お客様が少しでも心地よくなる、手間を惜しまない姿勢が高い付加価値となり、感動につながる。それこそが、ななつ星ブランドの真髄。

 

 

私はななつ星事業をスタートさせた時に、「世界一を目指そう」というビジョンを、プロジェクトに関わる社員やスタッフに伝えました。夢を語ると、参加するメンバーはまず「何をもって世界一なのか」と考える。そして一人ひとりが考えたことを持ち寄り、皆で話し合うことで、チームとしての価値観が醸成されたり、一体感が生まれたりする。

 

 

鉄道ファンだけをターゲットにしていても限界がある。ファン以外を取り込めば、市場は一気に広がる。

 

 

お客様は手間にお金を払います。それが1990年代、私がジェイアール九州フードサービスの社長在任時に学んだことです。当時、西鹿児島駅(のちの鹿児島中央駅)にあった直営カレー店は非常に売り上げがよかった秘訣は何種類にも及ぶスパイスを調合し、鉄板で炒めるという「手間」にありました。しかし、私が社長を交代した後にコスト削減を優先してレトルトカレーに変更したことから、売り上げが瞬く間に半減した。ちなみにこのお店は、私が社長に再び就任した時に手づくりの味に戻したところ、売り上げを回復させることができました。

 

 

JR九州が上場するメリットは、「いざとなれば政府が助けてくれる」という甘えがなくなること。

 

 

当社の2016年までの5か年計画に、「異端を尊び、挑戦をたたえる」という一文が入っています。私は社員から提案されたこの言葉が好きで、迷わず採用を決めました。正統派も異端もない。誰もが挑戦できる風通しのいい社風が、新しいことを生み出し、進化できる当社の活力にもなっています。

 

 

「荒波が来ても、真正面にぶつかれば転覆しない」。これは嵐の中での操船の心得です。どんなに大きな船でも、波から逃げようと横向きや後ろ向きになったら転覆してしまう。逃げずに真正面から立ち向かう重要性を教えてもらった言葉です。

 

 

組織はお役所的になりがちだからこそ、異端を尊ぶことに意味がある。そして果敢に挑戦した人をほめる。そうすると、放っておいても「みずからつくる」という社風が出来上がる。

 

 

今までの鉄道会社の枠にとらわれず、新しいチャレンジをしていかなければ生き残れない。そんな危機感が、今のJR九州の社風を作った。

 

 



businessカテゴリの最新記事