二人でよく行っていたうなぎ屋のご主人に、阿佐ヶ谷に住んでいる姉妹みたいな二人で「阿佐ヶ谷姉妹」と名付けていただいて。こんなふうに名前を貰ったんですけど、二人で何かできることがあればお声掛けくださいねとブログなどに書いていたら、一番最初にお声掛けいただいたのがお笑いライブで、それが始まりでした。
(江里子さん)
もともと私が住んでいたアパートに、仕事帰りに美穂さんが一回寄っていたんです。美穂さんのアパートは同じ阿佐ヶ谷だったんですけど、私のところより駅から倍くらい時間がかかるところにあったんですね。それでウチで一回休憩しているうちに、そのまま寝てしまってウチからバイトに通う、というようなことが週5日くらい起こるようになって。それならいっそ同居したほうが家賃も浮いて良くないですか?と、私から持ちかけたんです。ところがそこからかなり渋られまして……。
(江里子さん)
家に帰ってきて、仕事先でのちょっとしたエピソードをああでもないこうでもないって、ケラケラ笑いながら、しかも寝っ転がりながら話し合えるのは、二人暮らしならではの良さですね。その日あったことをすぐに共有して楽しめる。夜中に二人で、犬の鳴き真似とかカエルの鳴き真似をしてヘラヘラしたり。そういうしょうもないことで笑い合えるのは、同じ感覚で面白いと思える人ならではなので、そこはありがたいと思います。
(江里子さん)
引きこもってたときには、麻婆丼とか買ってきてくれたりね。そういうときはうれしいですけどね。
(美穂さん)
私が買ってきましたっていったら、美穂さんは「うむ」って。仕方ないわよね、”美穂様”だからね! でもちょっと待って! 私、美穂さんのパシリなのかしら!
(江里子さん)
私は一人っ子でパーソナルスペースがないとダメな人間なので、最初は絶対無理だと思ったんですよ。だから姉にふたり暮らしを打診されても1、2年近く態度を保留にしていました。それでも踏み切ったのは、経済問題ですね。家賃を払うのが苦しかったので、最初は仕方なく同居を開始したんですが、これが意外と何とかなりました。
(美穂さん)
私と美穂さんは仕事でも一緒だったので、「あれが面白かったわね」とか、帰ってからすぐその日のことを話せるのが良かったですね。仕事の話以外にも、「どこそこに猫が三匹いた」とか、「今日はスーパーで豆苗が安くて得した」とか。独り身の人間にとって、どうーでもいい話を話したいと思ったときにできるというのは、ものすごく貴重なことなんですよね。
(江里子さん)
見つけたと思ったら、マンション名が「レ◯デンス荻窪」だったりして。阿佐ヶ谷姉妹なのに荻窪って何か後ろめたいよね、と話し合ってお断りしたこともありました。そうこうしていたら本当にたまたま、住んでいた部屋のお隣が空いたんです! こんな奇跡があるんだ!と思いましたね。
(美穂さん)
今のアパートは大家さんもいい人だし、ご近所さんも料理を差し入れてくれたりと人情があるし、そんな環境も気に入っていて離れ難かったので、理想的な結果になりました。ということでこの春から、ふたり暮らしを解消してお隣同士の一人暮らしが始まったんです。家を別々にしたことで私たちの関係性がどう変わっていくかはまだ分かりませんが、今後も二人で協力し合って暮らしていけたらと思っております。
(江里子さん)
私も美穂さんも几帳面なタイプじゃないので。でも、なあなあにしすぎるのも良くないと思います。相手に嗅ぎ取ってもらったり察してもらったりするのって、意外と難しくて。「何で気づかないのっ」とストレスが大きくなる前に、チョコチョコ話し合ったほうがいいと思います。私たちは仕事仲間でもあるので、プライベートで不協和音が出ると仕事に支障が出ますから、そこは考えながら、いい緊張感を持ってやっていたと思います。夫婦や親子となると、なかなかそうはいかないと思うんですけど。
(江里子さん)
私たちはWEBでエッセイの連載を持たせてもらっていたので、お互いの不満をそこで客観的に書いて溜飲を下げているところもありましたよね。家族も不満があったら、日記やSNSに書いて発散するといいかも。……でも何だかんだ、姉には感謝しているんですよ。同居に誘ってくれて。やはり一人でいるとどんどん内にこもっていくので、気軽にコミュニケーションがとれる環境があるというのはありがたいですよね。
(美穂さん)
いつも一人ですから、人といる時間は大切。いいときも悪いときも含め、このくらいの歳になるとその貴重さを痛感しますよね
(江里子さん)
私たちはなんちゃって姉妹ですけど、今のご近所さんは「妹さん、元気?」とか言ってくださって、温かいし。なんちゃって家族はまだ世の中にそんなに多くないですけど、そんなふうにニュートラルに受け入れてくれる環境がもっと増えていくといいですよね。
(江里子さん)
各地に、世田谷姉妹とか保土ヶ谷姉妹といった老人ホームを作っていくとか?
(美穂さん)
お金なんていくらあってもね。独り身の女の老後にとって、健康と話し相手はプライスレスよね。友達とまでいかなくても、ご近所さんと天気の話をするだけでも脳の刺激になると思うし、ずっと今みたいな環境をキープしていきたいですね。
(江里子さん)
作家の山崎ナオコーラさんが最近書かれた『偽姉妹』っていう本がありまして、血の繋がりがある本当の姉妹がいながらも、気が合って感覚が共有できるお友達と「三姉妹」という形式で共同生活を始めるという物語なんですね。その三姉妹は、その中の一人が産んだお子さんを一緒に育てて、そのまま老後まで関係が続くんです。それはすごく羨ましいなと思いました。
(江里子さん)
ゴミを出しにいった時の「暑いですね」「寒いですね」を大事にしています。挨拶ひとつで、ちょっと体調悪そうだったとか、咳き込んでいたとかに気づいて心配したり、労わりあったりっていうのはありますから。こういうちょっとした変化を目の当たりにしたり肌で感じられる生活を送れるのは、幸せなことだと思います。
(江里子さん)
私は30代は”トガリおばさん”だったんですけど、今はほんとに自然と受け入れられてますね。
(美穂さん)
人に何かしてもらうことは、当たり前じゃないから感謝したいのよ
(江里子さん)
皆さんが皆さん“美魔女”じゃないといけないわけでもないし。憧れはあるけど、そういう方ばかりじゃないし。確かに、きらびやかな話は話題になりやすいけど、地味な話ってなかなか出てこないから。
(江里子さん)
人間関係って一番のトラブルの元とも言われているし、ストレスもあると思うんですけれど、やっぱり最終的に助けたり、助けられたりということになってくるのかなって。
(江里子さん)
今が楽しいですね。20代のときは、アルバイトに明け暮れていて、「自分はどうしたいのか?」をハッキリ決めて生きてこなかったものですから。無駄にというか、どうしようかなってモヤモヤしてる時期が結構多かったんです。そのときよりは今はお仕事もできているし、演劇やお笑いも好きだったので、「やってやるぞ!」という感じでなったわけじゃないですけれど、流れ流れてこういう感じで今はお仕事ができてるので、今が一番いいかな、よかったなって思っています。
(美穂さん)
もちろん、若さだったり、素敵でいるための努力を欠かさないということがモチベーションになってる方もいらっしゃいますし、それが憧れになる方もいらっしゃいますけれど、それに対しての「頑張らない自分」がストレスになってしまうよりは、今こうなってしまっている状況を受け入れることのほうが、私たちは合っていたというか、楽だし心地いい感じがして……。こんなおばさんは何の参考にもならないですけれど、とはいえ、心配だったりモヤモヤしたりすることがあっても、その年になってみたらなってみたで意外と楽しいかな、みたいな。「まあまあ、それはそれで受け入れた心地よさもありますよ」って。だから、「安心しておばさんになってくださいね」というところはあるかもしれないですね。
(江里子さん)
男性の場合は「かっこ悪い」という言葉の奥に「照れくさい」というような感覚がある気はしますね。男性社会は――と言ってしまうとよくないかもしれませんが――どうしても上下関係というか、優劣で自分の立ち位置を把握しようとするところがあるから、「俺たちは並列(仲良し)でも大丈夫です」みたいな関係が「かっこ悪い」と思うのかもしれません。でも、今はコンビで仲がいい方たちのほうがみんなから受け入れられてたり、息が長かったりしますよね。私も、そういう方たちのほうが見ていて親近感がわきますし。シティボーイズさんが事務所の大先輩なんですが、今でも必ず打ち上げや会合の席では当たり前のように3人横並びで座ってらっしゃるんですよ。それで自然と掛け合いのように話をされていて、すごくうらやましいというか、憧れですね。そういう形でずっと続けてこられた方は強いのかなと思います。
(江里子さん)
私はもう18歳のときから、近所の八百屋さんに「奥さん」って呼ばれるくらい見た目が老けてたんです。だから結成の段階から、そこの関しては抵抗がなくて、美穂さんよりは「おばさん」を受け入れていました。「30代だからおばさん」「40代だからおばさん」ということではなくて、「見え方がおばさんならおばさん」っていう受け取り方をしています。今も、50代くらいでおきれいにしている方が「同世代、がんばりましょうね!」って言ってくださった後に私たちの実年齢が40代だと知って「えっ……! すごいショック!」って言われるんですよ。おばさんの定義ってすごく難しいんですけど、私は幅広くひっくるめて「おばさん」だと受け止めています。今は美穂さんもおばさんを受け入れてくれてまろみが出てきて、ちょうどよくなったのかもしれません。
(江里子さん)
私たちはおばさんネタを多くやらせてもらってるんですけど、それを見た同世代の方から「自分で『おばさん』って言ってほしくないわ」と言われることもあるんです。「そう言っちゃうと、本当におばさんになっちゃうから」って。いろんな「おばさん」の使い方があって、私もよくわからなくなっちゃうときがあるんですけど、「私おばさんだから」「ババアだから」って言っちゃうと、それが言霊になって自分を老けさせる、っていう話はありますよね。それで若さを保ってご自身を保っていられるのはいいと思うんですけど、抗うことの大変さもあると思います。私達は受け入れたことで楽になっちゃったので、選択肢はいろいろありますけど、そういう生き方もあっていいかな、って。「おじさん」も、「おじさんだ、ゲヘヘ」って言ってる人がよく見えるときも悪く見えるときもあるから難しいですよね……
(江里子さん)
“おばさん”ひとつとっても、昔で言うならば「オバタリアン」のような、怖いおばちゃん、がめついおばちゃんとか、そういうステレオタイプなおばさん像が多かった中で、そうじゃないおばさん像があるということを、自分たちもちょっとやっていけたらと思いますね。自分たちの中にも、いろんなおばさん像があるし、ほかの人にもそれぞれあって、それを観察して、心にとめていって表現して、「そうよねそうよね」って言ってもらったり、おばさんにも、いろんなタイプの人がいるんだってことも広がっていけば、認知されていけばと思いますね……
(江里子さん)
阿佐ヶ谷姉妹。
渡辺江里子と木村美穂の2人コンビ。
コンビ名や似通った容姿から実の姉妹に思われがちだが血縁関係はありません。
渡辺江里子。
役割は姉でツッコミ担当。
1972年生まれ。
栃木県出身(東京都生まれ)。
明治大学文学部卒業。
中学校、高等学校の国語の教員免許を所持。
趣味は演芸鑑賞、トランペット。
林家ペー・林家パー子夫妻は遠縁。
木村美穂。
役割は妹でボケ担当。
1973年生まれ。
神奈川県出身。
洗足学園短期大学(現:洗足こども短期大学)音楽科卒業。
高島屋での勤務経験あり。
趣味は仏像鑑賞、ピアノ。
【コンビ結成】
東京乾電池研究所在籍中に知り合い、1994年に渡辺がプロダクションに所属する。
2007年、阿佐ヶ谷の鰻屋に二人で訪れたときに、姉妹のように似ているので主人から阿佐ヶ谷姉妹の名を授けられ、渡辺がブログに「阿佐ヶ谷姉妹にご要望ありましたら」と書いたところお笑いライブからのオファーが舞い込み、同年10月22日にコンビとしてデビュー。
当初は梅津ノリジの事務所「オフィスプラム」に所属。その後、フリーを経て2012年4月22日よりASH&Dコーポレーション所属。
2008年、『とんねるずのみなさんのおかげでした』のコーナー「博士と助手?細かすぎて伝わらないモノマネ選手権?」の第13回にて由紀さおり・安田祥子姉妹のモノマネを演じ準優勝、第14回、第15回はファイナリスト。
第22回では、得意の歌ネタを封印し、風貌を活かしたスーパーマーケットでの主婦万引きの現場、喫茶店での霊感商法、区役所から派遣された民生委員、駅前での宗教勧誘を披露し優勝。
2018年開催の第2回『女芸人No.1決定戦 THE W』でも、歌ネタをほぼ封印したコントで勝負し優勝。