今までに一番苦戦した時期は、立ち上げ当初から2、3年間。
立ち上げて3ヶ月でハワイ、オーストラリア、バリに進出し、現地会社を買収し子会社化して運営を続けていったが、立ち上がりからすぐに伸びるはずのネットビジネスで、なかなか伸びない。
原因を考えたところ、お客様目線で取扱い地域数が少ないからではないかと仮説を立てた。
お客様が行きたい世界中の旅行先に対応するため、取り扱い地域も世界中に拡大しようと決意した。
社内の反対もあったが、ニューヨークを皮切りに地域数を増加したところ、取扱いも比例して伸びた。
荒木篤実。
慶應義塾大学経済学部卒業。
日産自動車(本社海外宣伝部)勤務を経て、1991年アラン(株)を設立、ITとマーケティングのコンサルティング事業を開始。
90年代はアップルやIBMといったIT企業や、GM、Ford、Mercedes、Porscheなどの欧米自動車メーカーへのコンサルティングで海外クライアントの日本進出を指南。
2000年代に入り、自社事業としてさまざまな事業を立ち上げる。
2004年に開始したオプショナルツアーのネット販売(ベルトラ)を伸ばし、2018年12月、同社を東証マザーズにIPO(株式公開)へと導く。
現在は同社の筆頭株主であるPaxalan S.à r.l. (ルクセンブルク法人)の100%株式保有オーナー。
オランダのオンライン旅行ベンチャーTiqets日本支店代表も兼務。
もともとはインターネットマーケティングなどIT関連事業を手がけており、その一環で2000年からゴルフ場予約専門サイト「GORA」を運営していた。それを2003年に他社に譲渡した後、今までのノウハウを活用して別の予約サイトを運営しようと思った。色々な候補のなかから、当時日本でまだ誰も運営していなかった、アクティビティ専門の予約サイトの立ち上げを考えた。
とにかく日産に勤めていた時から仕事の虫でした。大きな予算を任されている限りいい加減なことはできない。月に2回は完徹が当たり前でしたが、やりたいからやってるだけ。やらされ感はゼロでしたね。
まずはマーケティングからはじめた。実際にゴールドコーストに行き、海外のオプショナルツアー予約サイトをチェックして、日本から閲覧しやすいインターネットでの情報と現地の情報にどれだけ差があるか比較した。結果、現地では100から150のツアーがあったが、予約サイトではあまり数を扱っておらず、日本の旅行会社では5から10ツアー程度の取り扱いだった。
10歳上の先輩は、とにかく先が読める。目の前の事象に右往左往せず10年先の長期的な世界の動きをいつも見ていました。5歳上の先輩はビジネスの種を見つけてくるのがうまい。種をみつけ、どう動かしたらビジネスになるのか考える。そして僕は前線の突撃隊長です。人がしり込みするようなことをやり抜くことに生きがいを見つけちゃうんですね。
100ツアーあるならば100ツアーを消費者に見せるべきだし、その際はユーザーがわかりやすいよう、おすすめの20から30のツアーをトップページに出すなど見せ方を工夫する。われわれが目利き役になり、責任をもって紹介すれば支持されるのではと考えた。現在でも実際に弊社スタッフが現地に赴き商品を見てきている。
とにかく三度の飯より仕事が好き。ふと気がつけば飯も食ってない、水も飲んでない!ということもあるほどで(笑)。さすがに最近は、自分の健康管理には少し気を配るようにはしていますが。
ユーザーのメインはFIT層で、全体の7割を占めている。ユーザーはリピーターが多く、男女比は半々で、30代がメイン。最近はインターネットで旅行情報を調べることが多い20代の伸びが顕著だ。検索エンジン対策(SEO)などアクセス誘導対策をし、インターネットで検索すると最終的にアランのサイトにたどりつくようさまざまな仕掛けをした効果だと考えられる。
また、適正価格での販売にも努め、商品は現地販売価格と同料金とし、現地通貨で掲載している。パッケージ本体の値段を安く、オプショナルツアーを高値に設定することで利益を得ようと考える旅行会社もある。安売りが悪いわけではないが、こうした利益構造は消費者に不親切だ。弊社の場合、利益はコミッションで得ており、円立てではないので、為替市場に応じて表示価格が変動することはなくお客様にもわかりやすい。もっとも、会員からは日本円表示の要望も出ており、今後は現地通貨表示と円表示の併記も検討していく。
さらに、SITや、弊社を年4回から5回の頻度で利用するようなハードリピーターにも満足してもらえるような商品も充実させていく。弊社には、行程を自分でプランニングし、電車などの現地交通を自分で手配した上で、時間的にぎりぎりだが参加できるか、といった問い合わせや、ツアーについて弊社でも分からないほど細かい部分まで質問をするような、こだわりが強いユーザーも多い。こういう行程のツアーを取り扱ってほしい、という細かな要望をいただくこともあるほどだ。こうしたユーザーの要望に応え、こだわりが強く、特徴の際立った商品も扱っていきたい。
ユーザー目線でみると、何をしたいか・食べたいかなど、現地に行ってから、あるいは当日の天気や自分の気分で決めたい、そう思う人が実は多数派のはずである。そこで、いかにしてこのような直前ニーズに対応するか、ここでオンライン系の旅行会社は競ってきた。が、これからのビジネスはそれでも不十分だと思う。裏で企業同士のシステムがどう結合されているかなどユーザーにはどうでもいいことで、「欲しいものを、欲しい時に、欲しいだけ」提供してくれればそれで十分だからだ。直前だと手配できないから事前に予約してほしい、これはすべてサプライサイド(供給側)の都合である。であれば、在庫があろうがなかろうが、それを常に可能にするにはどうすればいいかと考えて、ビジネススキームを考え直すべきだろう。もちろんそれは簡単ではないので、数々の常識を疑い、あるいは根本からいったん捨ててかからなければ、新規の事業を創造的に立ち上げることなどできない。オンライン企業であろうがなかろうが守りに入った会社は滅ぶのが常、攻撃は最大の防御である。ウーバーやエアビーアンドビーがやったことは、供給者=旅行者というとんでもない仕入れの再定義をしたことにある。が、ここにこそ、これほど大きな市場を短期間でつくりあげたヒントがあった。これらの発想は彼らが旅行業界の人間ではなかったこと、これが幸いしたと思っている。ここに1つ事業成功の大きなヒントがある。成長に外部の視点はとても重要である。
ピンチととるかチャンスととるか、人それぞれであろう。私はもちろんチャンスととりたい。人々の行動様式というのは通常はあまり劇的に変わることは少ないからだ。が、社会が大きく変容している時、それは起こる。いま、まさにそれが起こっている。事件は常に現場で起こるのだ。現場で起こっていることから、その背景、未来を正しく推定し、いまの常識を正す。あるいは捨てる。これをできる人、そして会社だけが正しく生き残り、大きく成長できると信じている。今後、最も大きく変容する産業は恐らく金融業と旅行業であろう。クレジットカードの発明にいずれの産業も関連していることは特に興味深い。しかし、これからは業界分類そのものがナンセンスな時代となる。フィンテックの世界は猛烈なスピードで日々進化している。ビジネス革命家を自認する私は、旅行業のさらなる変革、デジタル化促進で全体の底上げに少しでも貢献できればと思っている。
世の中がグローバル化しているのは事実だ。それはビジネスを仕掛けているわれわれがではなく、マーケット(ユーザー)がである。ジョブスが、そしてスマホが変えてしまったいまの世界は、どこにいっても消費者がしている行動はマーケティング的には大きな差異がなくなった。その意味ではグローバルに考え、は正しい。問題はローカルでどう行動すべきかである。ポイントは、①世界中の組織で同じ目標をシェアできているか、②本社(HQ)の権限が強過ぎないか、③現地スタッフとのコミュニケーションは円滑か、である。まず、最初のポイントは、違う場所にいるチーム同士で同じ目標に向かって動けるかである。これが一番難しい。時差、言語の壁、文化の壁、あらゆる壁が立ちはだかる。仮に同じ目標を持てても成果の評価はより重要である。公正な人事評価は同じ国にいる者同士でも難しいが、海外にチームが点在となるとさらに困難になる。次に本社(HQ)の権力が強すぎる会社、これも伸びない。支店長、支社長といえども、たいがいお飾りだ。日本に進出する外資系企業を見れば容易に察しがつく。結構な大企業でも、本社以外の現地役員に独自権限が付与されている状況はほぼお目にかかったことがない。最後の点は相互コミュニケーションだ。時差の壁を越えるためには世界にオフィスが3拠点以上ある場合、必ず誰か(どこか)が犠牲になる。つまり真夜中に会議に出ないといけない人が出てくるのだ。これを防ごうと世界を2地点同士の3大エリアに分割する案もあるが、私の経験では失敗した。とはいえ、メールだけではさらにうわべだけの会話となってしまい、なかなか真の問題を共有できない。
ソフトウェアと旅行業の未来を考えるとき、大事なポイントがいくつかある。まず第1に、システムとは所詮道具であるということだ。よく「ITの力ってすごいですね」とか「AIですべて解決していくんでしょう」などと聞かれることが多いのだが、ばかばかしいといつも思ってしまう。もし本当にそうであるなら、「人類など存在する意義、ないでしょう」と問い返したくなる。そうなれば映画「マトリックス」の世界そのものである。だから、道具は道具、使い方次第の話であり、魔法のつえではない。第2に、旅行業はいまだサービスの標準化が極めて遅れており、そんな環境でシステム化に過大な期待をするのも、恐怖を抱くのも妄想というしかない。予約というユーザーからしてみたら、旅行のごく一部の断面(瞬間)を見ても、各社いろいろな基準で対応しており、安心などできたものではない。つまり予約をお願いしてもいつ確定するかわからないなど、そんなサービスは自分が逆の立場でその言い訳を聞かされて、なるほどと納得できるのか問いたい。「アクティビティーはあれこれ大変」とか「時差がありまして」とか、ユーザーにとっては本当にうんざりなのだ。客は言い訳など聞きたくないのである。
働き方の違いについて、欧米の会社で働いてみてわかったことがある。残業している人が実際に少ないということだ。が、残業する人も少なからずいる。決して誰からにやらされているわけではない。自分で「いまは残業が必要」と判断し実行している。基本にあるのは、自己管理、効率重視、結果重視の3つの視点。これらは会社から、まして政府に言われて「改革」するようなことではない。どうして日本人はいまだに形式主義に、しかもお上からのお達しに弱いのだろう。どうして自分でものごとの本質を見抜き、判断し、行動しようとしないのか。本当の競争力は個々の人間の経験力、判断力にこそある。福澤諭吉先生もそれに誰より早く気がついた日本人の1人だ。少し掘り下げてみたい。まず自己管理とは、体調(健康)管理、精神面の自己管理が基本であり、ここから仕事のタスク管理、諸々のマネジメント(人、もの、金、時間)となる。仕事とは実にストレスがたまるものであり、うまくコントロールしていかないと自己の心身までだめにしてしまう。効率管理とは限られた人生の時間をどのように割り振るかというもので、長時間やったから、あるいは短時間でごまかしたら偉いわけでもない。どこにどのぐらいの時間を割くか、その覚悟を決める、自己とのそして時間との闘いだ。そして結果重視とは、まさにビジネス界の常識であり、何時間かけようが結果がだめなら、基本アウトである。それが雇用条件だったなら即首になっても文句も言えない。これらのことを総合的にバランスして都度、残業するかしないかを自己決断する。それが「働く」ということだと理解している。
マーケティングでは何が重要になるのだろうか。3つの重要な要素を挙げてみたい。まず、自社で得意客(ロイヤルカスタマー)をどれだけ保有できるか(顧客の維持)。次に、自社で不足する部分は、どこから手に入れるか(提携戦略)。そして、差別化をどこでするか(生き残り)。特定のものは必ずこの店で買うというのがロイヤルカスタマーだ。だが、こういう人も次第に減ってきてはいる。新しい挑戦者がよりいいものを出してくる。そういう兆候を顧客が見てとっているからともいえる。だからこそ、やはりこれはこの店でなくちゃと言わせ続けるブランド力は必須だ。ブランドとはユーザーへの約束である。約束(コミット)なくしてブランドなしである。とはいえ、すべてを自社で用意はできない。ここは苦手という分野は同業者の力を借りるのも一手だ。そして最後にマーケティングで最も困難かつ重要なのが差別化である。真の差別化は難しい。一般的な商品になるほど真似されやすいし、陳腐化も早い。この答えに終わりはない。だからマーケティングは面白い。
人間の行動には3つの要素があるのではないかという結論に至った。それは1に感応力、2に判断力、そして3つ目が実行力だ。まず感応力とは、ものごとの変化を感じてそれに応じる力だ。勘の良さといってもいいかもしれない(勘応力)。この感応力がないことには、いくら優秀な頭脳があってもインプットが十分にない状態なので、実力が発揮されることはない。動物でいう触覚や五感、航空機でいえばレーダーにあたる部分だ。次に判断力。これはインプットされた情報をもとに、現状を分析、将来を予測。違う行動をとった際、その結果いつ何が起こりえるか、そのリスクとリターン(長所短所)の大きさ、震度(マグニチュード)を冷静に判断する力である。人間はいいことはずっと続き、悪いことはすぐ消えてなくなるという願望(妄想)を持つ。この冷静な分析が特に経営者には強く求められる。最後に実行力。これは行動力といってもよい。いくらすばらしい判断ができても、それを実際の行動、つまり実行にうつせなければ元も子もない。宝の持ち腐れである。
経済界回復へ向けたシナリオを考察してみたい。シナリオを3つに分けてみる。早期回復、長期低迷、そして破綻シナリオだ。まず早期回復シナリオの場合。コロナのワクチン開発もしくは治療薬承認により、人々の安心が急速に広がり、旅行業も含め、経済活動が早期に正常化した場合だ。ベストシナリオで大事なのは機を逃さない準備だ。ユーザーがしてほしいと思うことを、してほしいと思うタイミングで捕まえることができなければ、チーズはよそ者に独占されてしまう。その準備を怠ってはならない。挑戦に向いた人材を適正な配分で配置。しっかりとした戦略を練らせ、外部の知恵も借りるべきである。次に長期停滞シナリオ。現在ではこの確率は相当高いとみるべきだろう。海外旅行が年内戻ってこないケースだ。世界中の企業が、すでにこれを見越して国内ユーザーによる国内旅行需要の獲得を血眼になり競い合い始めている。ここで課題になるのがエージェントに頼らずとも簡単にサービスを購入できてしまう国内需要の現実だ。旅行業界が本質的に抱える代理店業という仲介機能に本当に価値があるのか、あるとしたらそれはどの部分か、真摯に再考すべきだろう。最後に破綻シナリオ、日本人がもっとも苦手な分野だ。しかし、それでは本当に破綻に向かいかねない。なぜなら、そういう危機的状況にいままさに業界全体があるからだ。欧米人をよく狩猟民族に、そして日本人を農耕(あるいは草食系)民族に例える人がいる。あながち外れてもいない。が、実際の世の中では災害を含め、あらゆる危機が降りかかる。失敗しない前提での経営では、逆に絶命しかねない。最悪のことを常に考え、それに備えた十分な備蓄、構造改革(リストラクチャー)、あらゆることをタブー視せず敢行できるかどうかが生死を決する。