■TPPと日米半導体協定
日経クロステック 2011.11.18 大下 淳一 日経エレクトロニクス
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このところ、環太平洋経済連携協定(TPP)に関する報道に触れない日がありません。
ご存じのとおり、TPPは参加国間の関税の撤廃を大きな目標に掲げており、結果として“日本の農業(例えばコメ)を守れるのか”といった議論を呼んでいるわけです。
エレクトロニクス業界に身を置く、ある年代以上の方々は、こうした連日の報道に触れるとき、ある過去の出来事と二重写しになる部分があるのではないでしょうか。
1980年代に産業のコメ、すなわち半導体を巡って沸き起こった“日米半導体摩擦”です。
日米半導体摩擦については既にさまざまなところで多くが述べられていますし、日米間の政治問題に発展した大きな出来事でしたので、ここでご説明する必要はないかもしれません。
一言でいえば、1970年代後半~1980年代前半に日本の半導体産業が急速に力を付けた結果、脅威を抱いた米国との間で生じたさまざまな軋轢(あつれき)と、その結果として日米間で交わされたさまざまな政治的取り決めなどを指しています。
その象徴といえるのが、1986年7月に日米政府が取り交わした「日米半導体協定」です。
趣旨をかいつまんで言えば、“日本の半導体市場を、米国など海外の半導体メーカーに広く開放することを日本が約束する”ということでした。
1980年代といえば、ブラウン管テレビやVTR、CDプレーヤーなどの電子機器で日本が圧倒的に強かった時代。
結果として、日本の半導体市場は世界の半導体市場の40%を占めるほどでした。
しかも、そのうちの90%を日本メーカー製の半導体が占めていた。
米国からみれば、半導体について日本は“鎖国している”と映ったわけです。
米国の産業界が政府と一体になって日本に“開国”を迫った。
その手段が日米半導体協定でした。
日本の半導体産業にとってとりわけ大きな打撃となったのは、「日本市場における外国製半導体のシェアを20%以上に高める」という目標の下で、そのシェアが四半期ごとに調査(モニター)されることになったことです。
この数値目標を達成するために、当時の国内半導体メーカーは、競合である海外の半導体メーカーの製品を顧客の機器メーカーに推奨する、といった屈辱さえ余儀なくされました。
こうした状況が引き金になる形で、1980年代後半に世界シェアの50%を占めていた日本の半導体メーカーの地位は徐々に低下し、1993年には米国に抜かれ、1998年にはDRAMの売上高で韓国に抜かれました。
もちろん、日本の地位低下の理由を日米半導体協定だけに求めることはできませんが、大きな要因となったのは確かです。
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TPPと日米半導体協定
日経クロステック 2011.11.18 大下 淳一 日経エレクトロニクス
https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20111117/201683/
■日米半導体協定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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日米半導体協定(にちべいはんどうたいきょうてい)は、1986年9月2日に半導体に関する日米貿易摩擦を解決する目的で締結された条約である。
第一次日米半導体協定(1986年~1991年)と第二次日米半導体協定(1991年~1996年)の合計10年間にわたって有効であった[1][2]。
正式名称は日本政府と米国政府との間の半導体の貿易に関する取極(英語:Arrangement between the Government of Japan and Government of the United States of America concerning Trade in Semiconductor Products)である。
この協定の締結によって、1981年には世界の半導体市場の70%のシェアを誇っていた日本の半導体産業[3]が1990年代以降に急速に国際競争力を失ったとされている[2][4]。
・概要
日米半導体協定締結の背景としては、1970年代後半から日本の対米半導体輸出が増加する中「日本脅威論」が強まっていた[5]ことに加え、1985年の半導体不況で米国メーカーの事業撤退が相次いだことが挙げられる[6]。
また、1986年の半導体の売上ランキングにおいては世界1位がNEC、2位が東芝、3位が日立製作所であった[7]。
また、米国は貿易赤字を抱える原因を「米国は競争力を持ちながら、日本市場の閉鎖性によって対日輸出が増加しない」ことが原因であるとしており[8]、スーパー301条の発動をなかば「脅し」として使う[9]ことによって、取引を進めていた。
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この協定の発効によって、1992年には日本の半導体市場における外国製のシェアが20%を超え、世界売上ランキングでもNECが失速し、米国のインテルが1位となった。
同時に世界DRAM市場では、韓国のサムスン電子が日本メーカーを抜き、シェア1位となった。
1993年には世界シェアの首位が日本から米国に移った[12]。
その一方で、公正市場価格の制約を受けない韓国が急伸し、1998年には日本と韓国の年間売上高が並ぶこととなった[6]。
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日米半導体協定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%B1%B3%E5%8D%8A%E5%B0%8E%E4%BD%93%E5%8D%94%E5%AE%9A
■TPPという主権喪失~日本の国益を売り渡す「売国」のカラクリ=三橋貴明
まぐまぐニュース 2016年2月7日
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【TPPは「平成の売国」である。そう言わざるを得ない3つの理由】
・TPPのここが「売国」(1)~関税自主権の喪失
TPPは「関税自主権」のみならず、医療、金融、公共調達などのサービス分野に加え、「投資」の自由化までをも含む幅広い「主権喪失」になります。
TPPの批准を防ぐ努力をすると同時に、このまま国会で批准されるとしても、各種の法律で歯止めをかける必要があります。
そのための材料は国会議員に直接、提供し続けていますが、本日のエントリーでは最も分かりやすい「関税」について取り上げます。
TPP暫定合意によると、関税の撤廃については以下の通り協定が締結されることになります。
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いずれの締約国も、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、原産品について、現行の関税を引き上げ、又は新たな関税を採用してはならない。
各締約国は、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、原産品について、附属書二-D(関税に係る約束)の自国の表に従って、漸進的に関税を撤廃する。
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まさに、関税自主権の喪失以外の何ものでもありません。
ちなみに、附属書二-Aは輸出入の「内国民待遇並びに輸入及び輸出の制限」なのですが、そこに日本の「措置」はありません。
カナダやアメリカ、ベトナム、メキシコなどは、様々な「措置」で例外を残しているのですが、日本の場合は全面的に内国民待遇というわけです(内国民待遇とは外国の企業・投資家を自国の企業・投資家と同等「以上」に優遇することを言います)。
附属書二-D(ちなみに、980ページあります)には、農業関連の関税について細かい「表」があり、コメなどについては関税が維持されています。
コメはアメリカとオーストラリア向けに無関税の輸入枠(7.8万トン)を設置し、現行関税は維持。
牛肉は、38.5%の関税を段階的に9%にまで引き下げ、などになります。
・約束を破った安倍総理。日本が重要五品目を守れない理由とは?
とはいえ、関税が維持された重要五品目についても、最終的には「例外なき関税撤廃」ということになりそうです。
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交渉参加国による署名式を四日に控える環太平洋連携協定(TPP)をめぐり、国を相手に違憲訴訟中の弁護士らが協定案の英文を分析し、すべての農産品の関税が長期的に撤廃される恐れがあるとの結果をまとめた。
他の経済協定にある関税撤廃の除外規定が、聖域と位置付けたコメなどの「重要五項目」も含め、ないことを指摘。
聖域確保に関する条文上の担保がなく、将来的に「関税撤廃に進んでいく」と懸念している。
分析したのは「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」の幹事長を務める弁護士の山田正彦元農相、内田聖子・アジア太平洋資料センター事務局長、東山寛北海道大准教授ら十人余りのチーム。
協定案の本文では農産品の関税に関し、参加国に別段の定めがある場合を除き「自国の表に従って、漸進的に関税を撤廃する」(第二・四条の二項)と明記している。
日豪の経済連携協定(EPA)など他の経済協定では、同様の条文で「撤廃または引き下げ」と表現する。
TPPは規定上は引き下げの選択肢を除いている。
それでも関税が維持された日本のコメや牛肉などの重要五項目の扱いは、付属文書の記載が根拠になっている。
だが付属文書でも、TPPと日豪EPAなどの経済協定には違いがある。
日豪EPAなどには「除外規定」が設けられ、コメは関税撤廃の対象外。TPPには除外規定はなく、逆に発効七年後に米、豪などの求めがあれば、日本のすべての関税に関し再協議する規定がある。<後略>出典:全農産品で関税撤廃の恐れ TPP協定案を弁護士ら分析 ? 東京新聞
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東京新聞の記事にもある通り、日豪EPAが、「締約国は、別段の定めがある場合を除くほか、自国の表に従って関税を撤廃し、または引き下げる」と、「または引き下げる」という文言が入っているのに対し、TPPは、「締約国は、別段の定めがある場合を除くほか、漸進的に関税を撤廃する」となっています。
また、関税撤廃の除外規定は、日豪EPAにはあるのですが、TPPにはありませんでした。
しかも、再協議に対する考え方が、日豪EPAは、「合意を先送りした品目」が対象であるのに対し、TPPは七年後に、「一度合意したものを含め全般について再協議」と、なっています。
要するに、一度「関税を残す」と判断された農産・畜産品についても、七年後に再協議し、「関税を撤廃する」を目指すという話です。
しかも、この「七年後の再協議」が義務付けられたのは、我が国だけなのです。
コメや牛肉などの関税は、「七年間の猶予」で残された、という話である可能性が濃厚です。
何しろ、そもそもTPPは「例外なき関税撤廃」であり、条文でも「漸進的に関税を撤廃する」になっているわけでございます。
ちなみに日本の農産物関税について「別段の定め」がないか、探してみたのですが、特にありませんでした。
安倍総理は、TPP暫定合意を受け、聖域五品目の関税維持など自民党の公約に関し、「約束はしっかり守ることができた」などと語っていましたが、現実には「関税撤廃時期の先延ばし」をしたに過ぎないのです。
結局、TPPにより日本は再び関税自主権を喪失し、同時に「関税撤廃」を強いられた。という話になるわけでございます。
ちなみに、高鳥修一副大臣は、2011年5月11日のご自身のブログ「TPPについて(平成の売国) 」において、
『私はTPPについて国家主権の放棄であり、平成の「開国」どころか平成の「売国」だと考えている。政治家の中にもいろんな考えや判断があるけれど、TPP問題は日本を守る断固とした決意のある「保守政治家」か否かのリトマス試験紙みたいなものだ。』
と書いていらっしゃいます。
リトマス試験紙は、高取議員を「日本を守る断固とした決意のある保守政治家」ではないと、判断したようですね。
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日本やアメリカなど12か国が参加したTPP=環太平洋パートナーシップ協定の署名式がニュージーランドで行われました。
各国は、早期発効に向けて議会の承認を求めるなど国内手続きを急ぐことにしています。
TPP=環太平洋パートナーシップ協定の署名式は、日本時間の4日朝、協定文書の取りまとめ役を務めたニュージーランドのオークランドで行われました。
日本の高鳥内閣府副大臣をはじめ閣僚らは、ニュージーランドのキー首相の立ち会いのもと文書に署名し、12人全員の署名が終わると同席した交渉担当者らから拍手と歓声が上がりました。<後略>出典:TPP 12か国が協定署名 各国が国内手続き急ぐ ? NHKニュース
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・TPPのここが「売国」(2)~TPPが発効したとしても、日本の対米輸出が短期で増えることはあり得ない
さて、TPPの関税問題(物品の市場アクセス)に対する他国の姿勢ですが、最も典型的な「工業製品」について書いておきます。
2015年10月20に内閣官房から公開された「TPP関税交渉の結果」によると、工業製品に関する各国の関税「即時」撤廃率は以下の通りとなっています。(単位は%)
・日本 99.1、アメリカ 67.4、カナダ 68.4、ニュージーランド 98.0、オーストラリア 94.2、ブルネイ 96.4、チリ 98.9、マレーシア 77.3、メキシコ 94.6、ペルー 98.2、シンガポール 100、ベトナム 72.1
吃驚する方が多いでしょうが、実は工業製品の関税即時撤廃率が最も低いのが「アメリカ」なのです。
逆に、日本の即時撤廃率はシンガポールに次いで高くなっていますが、我が国はそもそも工業製品についてほとんど関税をかけていません。
即時撤廃率とはいっても、TPP発効後に日本が関税を改めて撤廃する分野は、工業用アルコールや繊維製品など、極一部に限られています。
また、同じく2015年10月に経済産業が公表した「TPP協定における工業製品関税(経済産業省関連分)に関する大筋合意結果」によると、アメリカは日本からの輸入が多い自動車分野において、乗用車(現行2.5%の関税率)は15年目に削減開始、25年目で撤廃。
バス(同2%)は10年目に撤廃。
トラック(同25%)は29年間、関税を維持した上で、30年目に撤廃。キャブシャシ(同4%)は15年目に削減開始、25年目に撤廃となっています。
アメリカが自国の自動車市場について、競合である日本製品から「保護する」姿勢を見せているのは明らかです。
ご存じ、アメリカはUAW(全米自動車労組)が大きな政治力を持っている以上、当然でしょう。
特に、アメリカ政府は利幅が大きいSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)を「なぜか」含むトラックの関税について、可能な限り高く、長期間維持しようとするわけです。
SUVはビッグスリーの命綱であるため、簡単に関税が撤廃されるはずがないと予想していたわけですが、やはりそうなりました。
また、自動車部品については、ギアボックス(同2.5%)などについては即時関税が撤廃されるものの、車体(同2.5~4%)は6年目、タイヤ(同3.4~4%)は10年目。
電気自動車用リチウムイオン電池(同3.4%)については、15年目に撤廃となっています。
日本の対米輸出を財別にみると「自動車」が26%(2014年)を占め、財別シェアでトップです。
そもそも、関税率25%トラックを除き、アメリカの自動車関連の関税率は総じて低いのです。
「低い関税」の撤廃時期が、乗用車は15年目以降、関税率が高いトラックは30年目以降となっていることになります。
TPP参加予定国に対する日本の輸出を国別にみると、約60%がアメリカであり、圧倒的なシェアを占めています。
TPPが発効したとしても、日本の対米輸出が短期で増えるなどということはあり得ません。
逆に、我が国は医療、金融、公共調達、知的財産権等の構造改革を強制され、聖域だったはずの農産品についても、七年後に「関税撤廃へ向けた再協議」という話になってしまったわけです。
一体全体、何のための「TPP」なのですか。
我が国の各種安全保障の弱体化と引き換えに、アメリカを中心(日本も含みます)とするグローバル投資家、グローバル企業の「利益を最大化する」こと以外に、何か目的があるとでも言うのでしょうか。
日本にとって、最大のメリットは(無理矢理探すと)、アメリカのトラック(SUV含む)の関税撤廃ですが、30年後のことです。
それまで、25%の関税はガッチリと維持されます。
30年後には、日本の構造改革は完了していることでしょう。
今後、TPP「批准」に向けた国会議論が本格化するのでしょうが、この手の具体論に基づき、議論が交わされることを切に願います。
次に、最も深刻な「投資」について書きます。
毎日新聞は「日本も甘利明前TPP担当相の辞任により、今後の国会審議は波乱含み」などと書いていますが、そうではないでしょ。
「中身」について議論し、揉めましょうよ。
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環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加12カ国は4日、ニュージーランドのオークランドで協定文に署名した。
これにより、関税引き下げやルールの統一化などの合意内容が確定し、今後は発効に向けた各国の国内手続きが焦点となる。
ただ、米国では大統領選が本格化して審議の難航が必至の情勢。
日本も甘利明前TPP担当相の辞任により、今後の国会審議は波乱含みだ。
出典:『TPP協定署名 焦点は国内手続き 日米は審議に暗雲も ? 毎日新聞
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最悪、批准された場合に、法的な「手当」を行う必要があります。
そのためには、TPPの「中身」について議論する必要があります。
人事(甘利大臣の辞任)は本質でも何でもありません。
・TPPのここが「売国」(3)~「投資」に関する「内国民待遇」が協定文に入っている
というわけで、個人的に最も「危険」だと考えている「投資」について。
特に、「投資」に関する「内国民待遇」が、協定文に入っているという現実を知って下さい。
以下、ソースは「TPP政府対策本部 TPP協定(仮訳文)について」です。
「投資」では、最恵国待遇についても定められていますが、今回は内国民待遇に絞りますので、ご留意ください。
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第九・四条 内国民待遇
1 各締約国は、自国の領域内で行われる投資財産の設立、取得、拡張、経営、管理、運営及び売却その他の処分に関し、他の締約国の投資家に対し、同様の状況において自国の投資家に与える待遇よりも不利でない待遇を与える。
2 各締約国は、投資財産の設立、取得、拡張、経営、管理、運営及び売却その他の処分に関し、対象投資財産に対し、同様の状況において自国の領域内にある自国の投資家の投資財産に与えるよりも不利でない待遇を与える。
3 1及び2の規定に従って締約国が与える待遇は、地域政府に関し、当該締約国に属する当該地域政府が同様の状況において当該締約国の投資家及び投資財産に与える最も有利な待遇よりも不利でない待遇とする。
第九・十二条 適合しない措置
1 第九・四条(内国民待遇)(略)の規定は、次のものについては、適用しない。
(a) 締約国が維持するこれらの規定に適合しない現行の措置で合って、次に掲げるもの
(i) 中央政府により維持され、附属書Iの自国の表に記載する措置
(ii) 地域政府により維持され、附属書Iの自国の表に記載する措置
(iii) 地方政府により維持される措置
2 第九・四条(内国民待遇)(略)の規定は、締約国が附属書IIの自国に記載する分野、小分野又は活動に関して採用し、又は維持する措置については適用しない。
4 いずれの締約国も、この協定が自国について効力を生じる日の後に、附属書IIの自国の表の対象となる措置を採用する場合には、他の締約国の投資家に対し、その国籍を理由として、当該措置が効力を生じた時点で存在する投資財産を売却その他の方法で処分することを要求してはならない。
5 第九・四条(内国民待遇)の規定は、次の規定によって課される義務の例外又は特別の取り扱いの対象となる措置については、適用しない。
(i) 第十八・八条(内国民待遇)の規定
(ii) 貿易関連知的所有権協定第三条の規定
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条文や附属書が入り乱れており、分かりにくいと思いますが、附属書I(締約国別の定義):投資の留保事項、つまりはネガティブリストです。
読めば分かりますが、留保事項とは各種の「規制」です。
例えば情報通信業について、「NTTの外資規制」等の規制については、内国民待遇の対象とはしません。といったことが定められています。
放送事業と同じく、NTTは株主の三分の一を超える外国人株主は認められていません。
当然といえば、当然ですが、この外資規制はTPP批准後も維持されます。
そういえば、「放送事業」や「NHK」に関する留保が見当たらなかったのですが、お時間がある方、調べてみてくださいませ。
まさか、ないはずがないと思うのですが…。
附属書IIは、関税維持(とりあえず)に関する措置です。
第十八・八条は、知的財産権に関する規定です。
さて、上記の通り、投資の内国民待遇は「ネガティブリスト」方式です。
すなわち、「新たな投資分野」が生まれたとき、それがいかなる分野(安全保障の根幹であっても)であったとしても、内国民待遇が適用されます。
というわけで、TPP批准後に、全農(全国農業協同組合)が株式会社化され、その後、譲渡制限が緩和されたとき、「カーギルによる全農買収を防ぐ術はない。外資規制を(TPP締約国に対しては)かけられない」という話なのです。
そして、カーギルに全農を買われたとき、我が国の食料安全保障は崩壊します。
すなわち、国民の主権に基づき、食料安全保障を維持することができなくなり、「亡国」に至るのです。
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TPPという主権喪失~日本の国益を売り渡す「売国」のカラクリ=三橋貴明
まぐまぐニュース 2016年2月7日
https://www.mag2.com/p/money/7326
■日米貿易協定交渉 TPP上回る譲歩迫る米国 外資の無制限の自由を要求
長周新聞 2019年4月18日
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日米貿易協定交渉が15、16の両日、ワシントンで開かれた。
昨年9月の日米首脳会談での合意を受けてのものだが、当初よりアメリカ側は「TPP以上の市場開放」を日本に迫り、直前の13日にはムニューシン財務長官が「為替条項の挿入を求める」と表明するなど、「アメリカ第一」で日本市場を席巻する構えを露骨にしてきた。
他方で安倍首相はこれを「物品貿易協定(TAG)」と呼び、交渉は「農産物や自動車などの関税撤廃・削減中心」などと国民をあざむき、交渉前から譲歩を臭わす弱腰姿勢だ。
専門家はこれはまさに日米自由貿易協定(FTA)交渉そのものであり、最終的に日本市場全体をアメリカ多国籍資本が力ずくで奪っていくものだと警鐘を鳴らしている。
日米貿易協定交渉の内容について見てみたい。
2017年1月に大統領に就任したトランプは即日TPPから永久離脱を表明したのに続き、連続的に各国に貿易戦争を仕掛けてきた。
18年9月には米韓FTA再交渉に合意、同年11月にはNAFTA再交渉に合意した。
同年3月には中国を狙い撃ちした通商関連法を発動(鉄鋼25%、アルミ10%の追加関税)したのをはじめ、中国との貿易戦争を激化させ、ハイテク覇権争いをエスカレートさせている。
さらにはEUとも貿易交渉をおこなっており、対日貿易交渉はそれに続くものだ。
TPP離脱後の新米韓FTA、新NAFTAに共通して新たに盛り込まれたのは、「対米輸出の数量規制」や「為替条項」「非市場経済国(中国)とのFTA交渉のアメリカへの説明責任」などだ。
アメリカは韓国からの鉄鋼やカナダ・メキシコからの自動車の対米輸出に対して「数量制限」を呑ませ、アメリカからの輸出条件は緩和させた。
対中国貿易協議でも難航はしているが、1兆㌦超の米国産品の対中輸出拡大や為替問題では中国側を譲歩させている。
対EU貿易交渉でも「為替条項」と「非市場経済国とのFTA交渉のアメリカへの説明責任」では合意している。
こうした一連の貿易戦争での「戦果」のうえにトランプは対日貿易交渉をおこなっている。
すでに日本側はアメリカに対して関税関連では「TPP以上」「日欧EPA以上」を受け入れることを決めており、交渉前から譲歩していることを指摘する専門家もいる。
・車の数量規制に踏み込む 為替条項も要求
今回の交渉においてアメリカ側はなにを日本側に呑ませようとしているのか。
交渉直前の13日にムニューシン財務長官が「為替条項」を求めると表明した。
アメリカの自動車業界が「日本勢が円安を背景に輸出攻勢をかけている」と主張し、「通貨安誘導を制限する為替協定」を要求していることを汲んだものだ。
日銀の黒田総裁はアメリカに対して「金融緩和にともなう円安は、輸出競争力を狙った意図的なものではない」と説明してきたが、トランプが「事実上の円安誘導」だと断定すれば日本側に打つ手はない。
またトランプは消費税に対しても「輸出企業への補助金で競合相手のアメリカ企業が不利になる」と批判している。
日本の消費税は輸出品にはかからず、輸出企業は仕入れ時に払った消費税の還付を受けられるためだ。
専門家は「消費税が10%に上がれば還付金も増える。アメリカ側がこれを新たな貿易障壁とみれば関税引き上げなどもありうる」と指摘している。
アメリカは日本の自動車の対米輸出の数量規制を狙っている。
アメリカの対日貿易赤字は年668億㌦だが、自動車関連だけで536億㌦もある。
TPP交渉では非関税障壁の見直しで合意しているが、アメリカ側はそれでは不十分とし、「輸出数量規制」を盛り込もうとしている。
アメリカはこれに合意しない場合は自動車輸出に25%の関税を課すと脅し、安倍政府に屈服を迫っている。
対して安倍政府は農産物の一層の市場開放を容認することをひきかえにしようとしている。
パーデュー農務長官は農産物関税について「TPPと同等かそれ以上を求める」とくり返し主張し、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表に「農産品で(先行して)暫定合意を結ぶことを望んでいる」と伝えている。
これらが交渉において焦点となるとメディアや専門家が見ている項目だが、USTRは18年12月21日に「日米貿易協定交渉の目的の要約」と題する文書を公表しており、そこに今回の日米貿易協定交渉においてのアメリカ側の狙いが全面的に示されている。
・22分野で要求突きつけ USTR文書に見る
「交渉の目的」には、物品貿易、衛生植物検疫措置、良い規制慣行、サービス貿易(通信・金融含む)、デジタル貿易、投資、知的財産、医薬品、国有企業、労働、政府調達、紛争解決、為替など22の分野・項目をあげている【表参照】。
昨年9月の日米共同声明後に安倍政府は「この交渉は物品交渉に限るもので、名称はTAG」と強弁してきたが、アメリカ側にはそのような認識はないことが明らかだ。
22分野・項目のほとんどはTPP協定と重なり、加えて新NAFTAや米韓FTAで盛り込まれた新たな分野や条項が反映されている。
TPP離脱後の貿易戦争のなかでアメリカはTPPには存在しなかった条項を勝ちとり、TPP水準以上の内容を獲得してきた。
その延長線上に日米貿易協定交渉がある。アメリカがそうした内容を日本に求めてくることは確実だ。
具体的な分野について見ていくと、まず「物品貿易・工業製品」の項目では、冒頭に「米国の貿易収支の改善と対日貿易赤字を削減する」との目的を設定している。
自動車については、「日本の非関税障壁への対処および米国内での生産と雇用増加を目的とする内容を含む追加条項を必要に応じて設ける」と記載している。
日本側が警戒しているのは、自動車の対米輸出に数量制限を課されることだが、数量規制はWTOルール違反だ。だが、アメリカは韓国との交渉で、鉄鋼の対米輸出を直近の7割に抑える厳しい数量制限を盛り込み、カナダやメキシコにも自動車の輸出に数量制限をもうけるという既成事実を積み上げている。
「交渉の目的」では、数量規制のような具体的な手法は触れられていないが懸念は残っている。
トランプは、新NAFTAの意義の一つとして、新自動車原産地規則を評価している。
新自動車原産地規則は、アメリカ市場への無税での輸出を餌に、自動車会社や自動車部品会社などが、米国内で自動車や自動車部品を製造したり、米国製の自動車部品を購入する誘因となる規定だ。
アメリカは日本にもこの新たな原産地規則を提案してくる可能性が高いと予測されている。
物品貿易のなかの農産物では、「関税の削減や撤廃によって米国産農産品の包括的な市場アクセスを求める」との記載にとどまっているが、「交渉の目的」には「米国の市場アクセス機会を不当に減少させ、または、米国の損害となるように農産品市場を歪曲する慣行を廃止する」との記載もある。
アメリカは日本のコメや小麦等の一部農産品の輸入制度を問題視してきたが、これらが「農産品市場を歪曲する慣行」として交渉対象となる可能性がある。
さらには添加物の承認なども「非関税障壁」としてあげられる可能性もある。
また、「交渉の目的」では「農業バイオテクノロジーによる製品について具体的な条項を入れる」と記載している。
TPP協定は、農業バイオテクノロジーによる製品について位置づけた初めての貿易協定で、TPPでの農業バイオテクノロジーとは、遺伝子組み換え技術によって生産された産品を指していた。
だが、今回はこれに加えてゲノム編集による生産物も対象にした。アメリカの農産物輸出団体の強い要望によるものだ。
アメリカはかねてより、日本の医薬品の価格決定メカニズムや医療機器の輸出にかかる規制を強く批判してきた。
今回の「交渉の目的」では、「透明で公正な規制によって、米国製品が完全に日本市場にアクセスできるようにする」と記載している。
具体的には2017年末に改定された日本の薬価制度の見直しを意図している。
日本政府は財政を圧迫する新薬の価格を下げやすくする制度に変更した。
ところが高額医薬品を日本で販売したいアメリカの製薬会社は一斉に反発し、この改定をさらに見直すよう日本政府に要望をくり返している。
米経済団体の対日交渉トップは今回の交渉で「薬価制度に切り込む」と断言している。
このほかにも、日本社会のなかで公共の利益にとって必要なあらゆる非関税措置・規制がアメリカから攻撃の対象となる可能性がある。
「交渉の目的」では、「良い規制慣行」の項目があげられているが、これは近年のメガ自由貿易協定には必ず入っており、「規制が科学的根拠に基づくもので、また現在通用するものであると同時に、不必要な重複を回避していることを確保するための影響評価やその他の方法の使用を促進する」「政府が任命した諮問委員会に対し、意見を提供する有意義な機会を確保する」とある。
たとえば食の安全にかかわる規制はアメリカが納得する「科学的根拠」がなければ「問題」とされる可能性が高い。
また「政府が任命した諮問委員会」には日米ともに大企業や投資家が直接的・間接的に加わることが考えられるが、そのことによって、公共政策や全体の利益よりも、一部の利害関係者による規制緩和や規制調和が推進されてしまう危険性がある。
・米国の全投資障壁撤廃 政府は外資誘致支援
「投資」については、「米国において日本の投資家が米国内の投資家を上回る実質的権利を付与されないようにする一方、日本において米国の投資家に米国の法原則・慣行に整合的な重要な権利を確保する」「日本のすべての分野において米国の投資に対する障壁を削減・撤廃する」という2点を記載している。
関連して安倍政府は15日、北海道や仙台市など五地域で、外資系企業の誘致支援に乗り出すことを明らかにした。
海外から各地域への投資に関心が高い企業をそれぞれ十数社招き、地元企業とのビジネスマッチングや首長らによるトップセールスを2019年度中に実施する。
閣僚らで構成する対日直接投資推進会議を開き決定する。
企業誘致支援は経済産業省や日本貿易振興機構(ジェトロ)などがおこなう。
北海道では、アジア、欧米の企業を招き、現地視察や商談会を開く。
仙台市では、欧州からIT関連企業を招聘(しょうへい)する。
愛知などの自治体グループには自動車関連、京都市には製薬・医療機器関連の産業がそれぞれ集積しており、人工知能(AI)やIT関連企業、バイオベンチャー企業を呼び込む。
横浜市では、医療・検査機器で欧米企業との連携を模索するとしており、交渉前から外資の呼び込みに熱を入れている。
日米貿易協定で注目されるのが投資家対国家紛争解決(ISDS)の扱いだ。
TPP協定ではISDSは規定されたが、アメリカ離脱後の11カ国による交渉では途上国から削除や修正の要求があいつぎ、結果的に「凍結」扱いとなった。
また新NAFTAでは、アメリカ・カナダ間ではISDSは完全に削除され、アメリカ・メキシコ間でも対象を制限したものとなった。
国際的には、この数年でISDSの問題点が強く認識され、国連主導での「改革」の動きや、貿易・投資協定からISDSを削除する動きが起こっている。
だが、日米交渉でISDSを盛り込むべきだと主張するアメリカの大企業の意向があり、日本側も従前のISDSに固執し、日欧EPAやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)等でもISDSを主張し続けている。
「非市場国排除条項」については、「交渉の目的」では一般的規定のなかに、「日本が非市場国とのFTA交渉をする場合、透明性を確保し適切な行動をとるためのメカニズムを規定する」と記載している。
この規定は、TPP協定にはなく、新NAFTAで初めて盛り込まれた。「非市場国」とは中国を指すとされ、この間の「米中貿易戦争」のなかでトランプ政府がうち出した「中国封じ込め策」だ。
新NAFTA協定文では、「米国、カナダ、メキシコの3カ国のいずれかが、非市場国との自由貿易協定を交渉する場合、少なくとも3カ月前にその意向を他の相手国へ通知しなければならない」等の規定のほか、ある国が非市場国と貿易協定を締約した場合には、新NAFTAそのものを終結させ、残る2カ国での2国間貿易協定に切りかえるとしている。
カナダは中国とのFTA交渉を検討中で、その交渉開始の発表も近いと見られているが、新NAFTAのこの規定がどの程度影響を及ぼすかが注目されている。
日米貿易交渉の場合では、日本はRCEPを交渉中であり、中断されてはいるが日中韓FTAの枠組みもある。
中国をあらゆるメガFTAから排除したいというアメリカの意向は明らかだ。
中国との関係も含め日本がどのように対応するかは喫緊の課題となる。
「為替操作禁止条項」について「交渉の目的」では、「効果的な国際収支調整や不公平な競争上の優位性の取得を防ぐため、日本が為替操作を行わないようにする」と記載している。
近年のメガ自由貿易協定で、為替操作を制限する条項が入れられたのは新NAFTAと新米韓FTAが初めてだ。
この条項の背景には、アメリカの自動車業界が、円安を武器とした日本車の輸出攻勢を阻止するため、TPP交渉時から為替条項の導入を厳しく突き付けてきたという経緯がある。
日本政府は、アメリカが為替操作禁止条項を提案しても応じないとの見解を一貫して示しているが、実際の交渉のテーブルにそれがのぼれば簡単に拒否することは現在の日本政府では困難と見られている。
以上おおまかに見た「交渉の目的」にも示されるように、アメリカは日米貿易協定交渉で、TPP協定をさらに「アメリカ優位」に改定してきた新NAFTAや新米韓FTAを踏襲した内容を提案してくることは確実であり、まさしく日米FTAそのものだ。
その内容はアメリカの多国籍資本が日本国内で何の制約もなく自由自在に利益追求をおこなうことができるようにすることだ。
そのためには日本の法律も、社会秩序や慣行さえも変えることを強制する。
安倍政府はすでに水道事業への多国籍企業導入に道を開き、外国人労働者の大量導入を可能にするための法改定をおこなったが、今回の日米貿易協定交渉は、今後あらゆる分野で外資の要求に沿って日本社会の形をも変えてしまう道を押しつけるものだ。
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日米貿易協定交渉 TPP上回る譲歩迫る米国 外資の無制限の自由を要求
長周新聞 2019年4月18日
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/11445
■日米半導体摩擦の教訓 圧力に屈した日本は衰退
日経ビジネス 2020.10.30
■「理屈じゃない、めちゃくちゃだった」 日米摩擦の本質
朝日新聞 2021年4月3日 福田直之 編集委員・吉岡桂子
■日米貿易協定は“不平等条約”か――安倍政権が国民に隠す「真の欺瞞」
ITmedia 2019年12月03日
■日米貿易協定は「4倍の負け越し」の不平等条約だ
安倍首相の「双方にとってウィンウィンとなる協定」を独自試算で否定する!
朝日新聞 2019年11月22日 大日向寛文 経済部記者
■日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?
・日本の半導体産業を徹底して潰したアメリカ
「1986年7月に結ばれたのが日米半導体協定」
「アメリカに有利になる内容が盛り込まれ、日本を徹底して監視」
ヤフーニュース(2018/12/24)
■東芝は米国にハメられた。原発買収で起きていた不可解なやり口
・電力会社がS&Wの買収を要請した
・巧みに隠蔽された巨額の超過コスト
「約7000億円という莫大な超過コスト」
「その損失を、全部、東芝一人が背負わされてしまった」
まぐまぐニュース(2017.06.16)
■プラザ合意から33年、1985年は何だったのか
失われた20年から抜け出せていない原因は
「当時のアメリカにとって、脅威だったのは、中国ではなく、日本だった」
「アメリカは不満を持ち、対日批判を強めていた」
東洋経済 2018/02/27
■「日本経済は植民地化される」~TPPに隠されたアメリカの卑劣な手口~
・悪魔のTPP、アメリカの真の狙いは何か
・そして、日本の富は略奪される
ダイヤモンドオンライン 2014.2.3
菊池英博:日本金融財政研究所所長
■政府の農協改革、裏に米国の強力な圧力が発覚
「JAバンクは農協と信用農協、農林中央金庫で構成され預金残高は90兆円」
「米国政府と米国金融、保険の多国籍企業、日本政府に対して絶えず圧力をかけている」
Business Journal(2015.09.01)
■日本はなぜ、アメリカに金を盗まれるのか?~狙われる日本人の金融資産~
(著者:ベンジャミン・フルフォード、発売日:2015年06月、出版社:メディアックス)
「米国は、TPPで郵政、年金、農協マネー総額500兆円の収奪を企てる」
「アベノミクスからTTP問題で日本の富を奪う」
ベンジャミンフルフォード『フォーブス』元アジア太平洋局長
■日本経済のバブル崩壊から異次元緩和までの歴史
・日本経済が破滅に向かう転機となった「プラザ合意」
東条雅彦 | マネーボイス 2017年8月8日
■日本経済を“丸ごと刈り取った”ユダヤの陰謀とは? バブル経済崩壊、その巧妙な手口!
exciteニュース 2016年11月8日
■プラザ合意に半導体協定…輸出立国から輸入依存型の中進国に衰退した日本経済|
YouTube 2022/11/04 島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授)
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