我々の会社のコアバリューの中の1つでもありますが、「光速で失敗して光速で立ち直る」が成功の秘訣です。
失敗するためには何か動かなければいけませんので、動いて失敗に気づいて成長することが、成功する一番の決め手だと思います。
もう1つの成功の秘訣は、1つ目の秘訣を基本的には長くやり続けること。
よく1万時間やる、と言われることがありますが、経営も同じです。
やはり、それなりの期間、失敗を繰り返し成長することをしなければ、結果に繋がらないと考えています。
荻島浩司。
1960年生まれ。埼玉県出身。
1982年デザインの専門学校を卒業、同年デザイナーとしてデザイン事務所に就職。
コンピューターでデザインができたらもっと楽しそうだと考え、翌年プログラマーとしてソフトハウスに転職する。
その後、ネットワーク コンピューティング時代に合わせたPCを使ったファイリングシステムを企画し株式会社東芝に売り込み、その製品のヒットにより取締役事業部長としてネットワークソリューションの事業部を統括。
96年チームスピリットの前身となる、有限会社デジタルコーストを設立。
インディペンデント コントラクターとして株式会社東芝および東芝ソリューション株式会社で銀行向けの債権書類(融資契約書)管理システムや、オペレーショナル・リスク管理システムのプロデュースおよびコンサルティングに従事。
2009年頃からのクラウドの台頭により、将来的にサブスクリプション型ビジネスの成長を予想し、自社のビジネスを受託型からクラウドサービス型へ転換することを決意。
当時自社で勤怠管理と経費精算のシステムが必要となり、自分のニーズにあったシステムが存在しないことから、2010年5月クラウドで勤怠管理にSNSを組み合わせたサービス(アッと@勤務 Free)を開発し、無料提供開始。
このサービスの需要が想定以上だったことから、2011年3月さらに経費精算と工数管理を合体させたTeamSpiritのプロトタイプを開発。
2011年10月 株式会社セールスフォース・ドットコムと資本提携し、2012年4月チームスピリット正式サービスを開始する。
2018年8月東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場。
もともとは広告やマーケティングに興味があり、学生時代はデザインの専門学校で、主にグラフィックデザインを勉強していました。最初の就職先はデザインスタジオ。いわゆる広告の制作会社ですね。ところが実際に仕事を始めてみると、非常に才能を求められる世界だったので、わずか1年ほどで転職しました。80年代はじめごろです。当時はごく初期のコンピューターグラフィックス(CG)が出はじめたころで、面白そうだと思って、CGの仕事ができる会社を探しました。
デザインには自信を持っていました。しかし、世の中に出て周りに比べたら「とてもじゃないけど歯が立たない」という挫折を味わいました。そういう状況で「今まで付き合ってきたものがゼロに変わったのならば、全く新しい道を選びたい」と思った。
最初はプログラマーです。2年くらい携わりましたが、これもあまり向いていなかったので、営業部門に異動になりました。この会社には1996年まで、13年以上勤務しましたが、そのキャリアのほとんどは営業でした。ただ、営業といっても、ITの場合はルートセールスのようなものではありません。メインフレームからダウンサイジングでPCの時代へ、さらにLANやネットワークの時代になっていく、そういった世の中の変化に対応しながら企画を立て、顧客に提案して受注する、そういう仕事でした。デザインの勉強をしていたので、ビジュアルを生かした企画書や提案書を作るのが得意でしたね。当時は企画書といっても、A4の紙に文字だけが並んでいるようなものが一般的でしたが、私の企画書はネットワークの構成図などをグラフィカルに表現していたので、それが功を奏して仕事を受注できたこともありました。
自分で事業をやってみたいという思いは、20代のころから持っていたんです。30代になってからは、ビジネススクールに通って勉強していました。会社で取締役になっていたし、「いつかは」という気持ちはありました。直接のきっかけは、1995年にWindows95が発売され、インターネットの民間利用が一気に広がったことです。当時、IT業界に関わっていた人たちは誰もが、新しい時代が来ると思ったはず。私も新しいビジネスにチャレンジしたいと考えて、36歳のときにシステム開発の会社を退職し、ビジネススクールで知り合った仲間と4人で会社を立ち上げました。
ただ、この起業は結果的には失敗でした。インターネットを使ったビジネスを手がけたい、という思いは一致していたのですが、そこから先がまとまらず、わずか1ヵ月ほどで空中分解してしまったのです。4人の出資が均等で、誰がリーダーシップをとるのかが曖昧だったことも原因の一つでした。一から何かを作り上げるときには軸がしっかりしていなければならない、と痛感させられた経験でした。次に自分で立ち上げた会社「デジタルコースト」は、当分は一人で運営していくことにしました。そのうち、システム開発会社で働いていたときに取引先だった東芝の方に声をかけてもらい、インディペンデント・コントラクター(IC)として東芝の仕事を手伝うようになり、約10年間、東芝でさまざまなシステムの企画開発に携わりました。
経営大学院があると思いますが、その前身の「グロービス」という、ビジネススクールで知り合った4人の仲間と立ち上げました。1年近い準備期間があったのですが、経営方針が決まらずに起業をしました。皆の方向性がバラバラのままだったので、結果的に分解を、というよりは自分が出たという感じですね。4人の中の1人は、会社名は出せませんが立派な企業で相当のポジションにいますし、別の1人は上場したフィードフォースの塚田社長です。そんなメンバーが揃ったので、「それは普通、まとまらないだろう」という感じでした。
中核的な深いシステムを開発しようとすると、技術的に高度なものが要求されるので、できる技術者は限られてきます。しかし、そういう技術者を必要なときだけ集めるのは、とても難しいんです。そこで「よく知っている昔の仲間を自分の会社で雇用して、コア部分の開発を手がけたらどうだろう」と考えました。具体的には、システム開発の会社時代の同僚です。時間が経っていたので転職している人も多かったのですが、数人が来てくれることになりました。2007年から年に1人くらいのペースですが、徐々に増員していきました。
メインフレームの時代からITに関わって、ダウンサイジングやネットワーク化の時代を経験してきたわけですが、それまでは変化に乗り遅れないようについていくのが精一杯でした。でも、クラウドの時代が来そうだと知ったとき、「今からやれば時代を先取りできる」と思ったんです。今まさに10年に一回の波が来ている、こんなチャンスはそうないぞ、と。そのときから、昼間は東芝で受託開発の仕事をして、夜は事務所に戻って自社のクラウドの企画やパッケージの開発に取り組む、という働き方をするようになりました。
ラッキーだったのは、使ってくれた方々がいろいろとフィードバックをくれたこと。当時、「リーン・スタートアップ」といった言葉は知りませんでしたが、結果的に、実験的な製品やサービスを無料で提供してユーザーからフィードバックをもらう、という進め方ができました。フィードバックの中には「勤怠管理だけでなく工数管理が欲しい」「ツイッターのようなインターフェースの報告システムは、経営者にはとてもありがたい」といった意見がありました。そのような意見を取り入れ、製品版として新たに作り直したものが、現在の「TeamSpirit」の原型です。
「TeamSpirit」には工数管理という機能があり、一日働いた時間の中で、どのタスクを何時間やったかを簡単に可視化し、報告することができます。そのため、高い成果を出している人はどんな働き方をしているのかが一目でわかります。その人の残業はどのくらいか、経費はどのように使っているのか、それぞれを自動的に「見える化」できるわけです。このフィードバックを基に、アウトプットを最大化することができる。つまり、生産性向上につながるわけです。アンケート結果を見ると、「TeamSpirit」を導入された企業の4割以上で業務効率化が実現しています。
「一人あたり月600円」というサブスクリプション方式にしたことが、導入のハードルを下げたのは間違いないと思います。売り切り型のパッケージソフトと違って、一気に大きな売上数字にはなりませんが、どんどん積み上がっていくものなので、中長期的には非常に強力なビジネスモデルといえます。実をいうと、これは資本提携しているセールスフォース・ドットコムのやり方をそのまま踏襲したもの。資金的に支えてもらっただけでなく、そういう経営アドバイスなども直接聞くことができ、私たちにとっては非常に有効だったと改めて感じています。
私は絵を描くとか、デザインが好きだと思っていました。しかしよく考えてみると、「絵やデザインが好きなのではなく、マーケティングが好きだ」ということに気がつきました。マーケティングというのは、別に絵を描くという話ではなくて、1つはコンセプトの将来を見て作るということ。もう1つは、それを具体化していくことです。製品で例えますが、マーケティングの公式に「単価×数量×購入回数」というのがあります。他の会社でも苦労されると思うのですが、高額製品だと1回しか売れないですし、値段を安くても何回も買ってもらえるかは分かりません。そのような商品を最適に販売できる方法はないかを考えて、今のサブスクリプションのモデルに行き着きました。要するに、大企業が使うシステムよりも優れているシステムを、「1人当たり何百円」という単位で売ることにしました。これによって何十万人という人が使ってくれて、月単位、年単位で継続して使ってもらえるというモデルです。このようなことを考えていくのが好きで、実際にハマった時に「これはやったな」と密かに考えるのが趣味です。
「働き方改革」というと、どうしても長時間労働是正、残業削減といった話に終始しがちです。しかし、仕事は働く人にとって一種のアイデンティティーになっています。それなのに「労働時間は一日何時間まで」といった制限があるのは、おかしな話だと思います。やらされ感ではなく、前向きに取り組んでいる人にとっては、長く働きたいときがあって当然なんです。その一方で、子育てや介護にどうしても時間をとられてしまう人たちもいます。それ以外にも家庭のための時間を大事にしたい人、自己啓発のために勉強時間を確保したい人などもいるでしょう。つまり、働き方には非常に多様性があって、多様性を受け入れるには、何を目標にしてどういう働き方をするかを真剣に考える「タイムマネジメント」が重要になってくるのです。一日をどう使うかだけでなく、何歳までに何をするかといったことも、広い意味での「タイムマネジメント」といえます。一人ひとりが自分の目標を認識し、会社もそれを理解して、多様な人々が働ける社会をサポートできるツールにしていきたいですね。
私たちがやろうとしたのは、ソフトウェアという資産を作って、そのソフトウェア資産に稼いでもらうことです。チームスピリット起業前、私はソフトウェアの受託開発のビジネスに長年携わってきたのですが、ソフトウェアという資産が出来た今は、その頃とは違い、お客様に直接向き合うのではなく、価値を提供するためのサービスを介してお客様とつながっています。このサービスを作ることが非常に難しい。お客様がまだ気づいていない、でもこれがあってよかったと思わせるものを作らなくてはなりません。それが価値の正体で、提供の方法論としてサブスクリプションモデルがあるのだと思います。
働き方改革、生産性向上という言葉をよく聞きますが、私は個人の仕事の能率を一割、二割と上げていくことが真の生産性向上ではないと思っています。本当に生産性を上げようと思えば、「企業の構造改革」が不可欠です。当社の例で言うと、従来は受託開発を手がけてきました。そこから自社の製品を開発し、独自サービスを提供するようになって、数パーセントどころか数十倍の生産性改善を実現したわけです。このような例はほかにもたくさんあります。そのために必要なのが創造性であり、イノベーションを起こすことです。