株式会社メドレー創業者、瀧口浩平:「医療」を事業テーマに決めた理由とは?

株式会社メドレー創業者、瀧口浩平:「医療」を事業テーマに決めた理由とは?

 

「医療」を事業テーマに決めた理由とは?

 

 

瀧口浩平/株式会社メドレー創業者

 

祖父が胃がんになり胃を全摘出し、数ヶ月後に亡くなりました。
手術後に父と帰省した際、普段冷静な父が祖父に対して「手術しなくてもおそらく2,3年は生きられたはずだよ。辛い思いして手術したんだから長生きして欲しいんだ」と声を荒らげて祖父を元気づけているのを見て、もう布団に入って涙が止まらなくなりました。

「このままではダメだ。人生の最期で、本人が納得行かないような想いをさせてはいけない」と、強く思うようになりました。
そして、「納得のいく人生をおくる」これこそが私が中学時代から、重視している価値観でしたので、まさに自分自身がやるべきテーマだと思ったのです。
これが、『医療・ヘルスケア』を事業テーマに決めた理由です。

 

 

 

 

 

 

 

瀧口浩平(メドレー創業者)とは?

 

 

瀧口浩平。

1984年生まれ。

 

開成中学校中退、2002年(東京学芸大学附属高校在学時)に米国法人Gemeinschaft,Inc.を創業。(当時17歳)

国内外の事業会社及び調査会社・コンサルティング会社の依頼を受けての市場調査/統計調査、新商品のコンセプト開発や市場参入の支援に携わる。

 

個人的な医療体験から医療への課題意識を強め、事業譲渡後、2009年6月株式会社メドレーを創業。

2019年12月東証マザーズ上場。

 

 

 

 

瀧口浩平(メドレー創業者)の「コトバ」

 

 

 

開成中学校は1年生の時に中退しています。暗記が好きではなかったので、算数や国語の配点が高い学校を選んで受けましたが、入学後、興味の持てない教科の暗記を大量に要求される環境に早々と嫌気がさしてしまいました。で、グレちゃいまして…。1学期にいきなり学年主任の訓戒を受け、2学期には校長に呼び出され、反省文を書かずにいたら、「校風に合わない」ということで自主退学となりました。私自身はそれほどショックではありませんでしたが、母が泣いているのを見て反省し、1ヵ月くらい人生について考えました。父からは「男は夢を持て」という明快なメッセージをもらったこともあり、興味を持てないものに時間を割くのを一切止め、納得いくことをやる、という人生を送ることに決めました。

 

 

 

 

高校に入学してからは、普通に大学に行こうと思ってはいたのですが、2年生のとき、進路を考えているプロセスでビジネスに出会ってしまい、市場調査をメインとした事業を創業したのが最初の起業です。 この事業は、責任を持って区切りをつけたのちに譲渡しました。そして、次に何をやるかを考えるにあたっては、「興味を持てるか」「市場が大きいか」「成長産業か」ということを重視しました。インターネットを使った事業であることだけは決めていたのですが、どの市場を対象にするのかについて考えました。

 

 

 

 

 

ニューヨークでファッションデザイナーを支援したり、化粧品ブランドを立ち上げたり、飲食店をやってみたりと色んな領域に手を出していたら、全体をうまくマネジメントできなくなってしまいました。結果的に、軌道に乗っていた受託事業だけを残して、だいたい22歳から24歳までは、借金を返す生活をすることになりました。借金を返し終えた時点で、お取引先に事業を引き取っていただいて、25歳のとき、2回目の挑戦として、メドレーを起業するに至りました。

 

 

 

 

 

 

 

実際に病院の中で働いてみることにしました。この原体験は、私の中でとても大きなものでした。とにかく、商習慣がとても古く、また、驚くほどコストカットの余地があったりもします。中に入ってみて驚きがある、ということは、改善、改革の余地が大きくあるということでもあります。そのなかで、どの集まりに出席してもほぼすべての病院にとって深刻な悩みだったのは、「人材不足」でした。 背景としては、いわゆる「7:1看護」の問題が大きくありました。2006年度の診療報酬改定で、「入院患者7人にたいして、看護職員が1人勤務している状態」を基準とすることが決まり、この基準に達しない病院は診療報酬が低くなってしまうことになったのです。これは、病院にとって大きな悩みの種になりました。

 

 

 

 

 

 

 

地方には有資格者にもかかわらず、その資格や経験を活かせていない人材が沢山いました。そこで、地方の人材不足に対応するためのマッチングサイト「ジョブメドレー」を運営するところから着手することにしたのです。「市場が大きいか」「成長産業か」という切り口でも筋が良さそうでしたし、医療経済は人口統計と密接に関係しますから、先のトレンドをある程度読むことができます。

 

 

 

 

当時は前年にエスエムエスさんが上場したばかり。ですがリーマンショックがあったこともあり、11月にサービスを始めるとなったとき、リクルートさんやプロトさんをはじめ、人材大手がほぼすべて参入していました。いきなりレッドオーシャンになり、初期のユーザー集客で頼ろうとしていたリスティング広告の単価も急騰しました。当時、医療の採用市場では看護師がホットでしたので、まずは顕在化している市場を取りに行こうと、最初のターゲットを看護師にしました。ですがすぐに、看護師をメインターゲットにすると伸び悩みそうだ、と気づいたのです。こういうときには、すぐにピボットしないのが大事だと思っています。苦しくても半年もやっていると、何とか売れるんですよ。結局そのあと1年くらい看護師メインで苦しい中数字を作りつつ、顧客数を伸ばしていきました。そんな中、ちょこちょこと採用が決まる職種があったんです。それが歯科衛生士でした。試しに3、4カ月ほど歯科衛生士の案件ばかり営業をしてみました。その結果、顧客を取れば取るだけ歯科衛生士の決定数が伸びたんです。今でこそ売上比率は低いですが、ジョブメドレー成功の原体験ですね。ジョブメドレーには、すでにユーザーが付き始めていて、競合他社が持っていない求人があればそれは決まるのだなと。そういう小さな気付きを地道に繰り返して売り上げを築いていきました。

 

 

 

 

 

 

40兆円を超える日本の医療費は、その半分以上が人件費です。ただ、競合他社の人材事業は、医師、看護師、薬剤師といった高単価の職種を扱うことが多く、その他のコメディカルや子育て世代の従事者の対応が手薄で、地域も都市圏に偏っている。社会的な大きな負を解消する、大きな事業価値が生まれると考え、なんとか事業化しようと尽力しました。

 

 

 

 

 

 

 

電話主体での営業など、他業界では珍しくない効率化の手法でも、医療業界では「それ(訪問しない)で営業できるの?」と思われる状態。我々は、そこをやり抜いただけにすぎません。「やり抜く」とは、基本を地道に積み重ねることもそうですし、いい人材を確保することもその一環です。マーケティングのクリエイティブ担当に全日本DM大賞の受賞者を招聘して細部に渡りクオリティを追求するなど、一つ一つの施策の質を高めることに注力してきました。

 

 

 

 

 

 

当時のジョブメドレーは、PV数が伸びればそれがユーザー数の伸びに繋がり、ユーザー数が伸びればそれは応募数の伸びに繋がり、それが最終的には採用の決定数の伸びに繋がっていました。そして、その決定数を単価でかけ算した数字をKPIとして追いかけていました。商売は一般的に仕入れから考えるものですし、因数分解としてはこれが普通ですから、私も本間さんも、エンジェル投資家でアドバイス下さっていた方々もそれでよいと考えていました。しかし、このタイミングでそのKPIモデルを、顧客数×顧客事業所あたりの平均売上として作り直してみたとき、ジョブメドレーという事業が全く違うものに見えてきました。当時の数字ですが、顧客を増やすために費やしたコストは半年で回収できているように見えました。成果報酬型なので、顧客を増やすことは売上に直結するようには直感的には思えなかったのですが、試しに少しコストをかけて顧客数を増やしてみようと考えたんです。やってみると、面白いように顧客数が増えることで売り上げが伸びる。顧客数を追求することで、成長することができると確信しました。そこで、ニッセイキャピタルさんや(グリーの)田中さんから資金を出して頂いて、それを全部新たな顧客の獲得のために投資したんです。そのあたりからメドレーの業績は勢い良く伸びていきましたし、認知も少しずつ上がっていったように思います。

 

 

 

 

 

 

創業して最初に医療介護の求人サイト「ジョブメドレー」を開始しました。その後は、2015年にオンライン医療事典「MEDLEY」、2016年にオンライン診療アプリ「CLINICS(クリニクス)」をリリースしています。また、2015年にグリー株式会社から、口コミで探せる介護施設の検索サイト「介護のほんね」の事業譲渡を受けました。本当はもっと早くから広く医療消費者に向けたサービスをやりたかったのですが、その基盤を作るための事業の構築と安定化に思いのほか時間がかかったというのが正直なところです。

 

 

 

 

 

 

彼(田中)のキャリアは、東大の医学部にストレートで入って医師になった。そのあとは25歳くらいでアメリカの医師免許も取ったんです。それでアメリカで医師をやったあとに、電話の面接だけでマッキンゼーに入ったんです。同級生の中でもきれいなキャリアトップ3くらい。その実績に裏打ちされた頭脳や努力があるのも知っています。親しかったので、彼の人間としての色んな側面を知っていました。だから意志決定しやすかったと思っています。私は大学も行かずに起業しましたが、自分のキャリアに対してはそれなりのプライドも持っています。ですが、同じ価値を認め合う方がわかりやすいじゃないですか。結局株式の4割くらいを渡しました。もともと「上場する頃には株は半々くらいにしよう」と話していましたが、数年先に豊田と話した際に「別に割合を増やさなくても、これで十分だよ」と言われて今に至ります。

 

 

 

 

 

 

そもそも人を1人雇う方法すら分からないような、まったく経営を知らないところから始まったので、「調べて、動く」というクセが染みついているんです。また、当時から疑い深い性格もあって、社内制度一つ取ってみても「この制度ってそもそもいるんだっけ」といつも考えています。例えば「休暇を夏季、お盆に必ず取らないといけない」みたいなところから疑って、組織設計をしています。この事業を作るならこの事業のためにどういう組織が必要なんだろう、というところをまず考えています。たとえば京セラの稲森さん(京セラ創業者の稲盛和夫氏)がアメーバ的に経営するならこう数字のモデルを作るんだろうな。それに合わせてこんな組織やKPIをつくるんだろうなと考えたり、SaaS領域でもGoogleが追うKPIとAtlassianが追うKPIは違うので、共通するのはどんなことで、違うのはどんなことだろうかと、実際に中の人に聞いたりしています。それは私に「調査」というバックグラウンドが染みついているからかもしれませんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

規制をちゃんと理解するということが必要です。まず土台にあるのが法律です。医療に関しては、医師法や薬剤師法などいろいろな法律があります。ここの理解が難しいんです。次に、医師会や学会の作る「ガイドライン」です。これは大体がエビデンスを元に作られますが、そうでない場合もあります。そして慣習。医療には保険点数がつくものとつかないものがあります。つかないものは「自由診療」と呼ばれ、自由診療には美容整形や海外で認可されているものの日本では未認可の医薬品を使うケースなどが含まれます。そのため、保険点数がつくものを一般的な「医療」と考えることがコンセンサスとなっています。この慣習も「見えない規制」として存在しています。法律やその他の規制に関しては究極的に私たちがどうこうできる話ではないですが、困っている人を助けるというのは社会全体の仕事ですから、ポイントは何だと考えるのかということを政治家や学会、省庁に伝えるということを大切にしています。社会のために何が正しいのかを未来志向で、ちゃんと説明する、根気よく取り組む、ということが大事だと考えています。

 

 

 

 

 

 

「患者が自分に合わせた医療を選べるようにすること」「患者が自分に合わせて適切に医療をつかえるようにすること」を目指しています。患者にとって私たちの介在価値がわかりやすい例でいうと、例えば予約システムが電話を受けて書き込むものではなくオンラインに接続されていれば、患者はインターネット経由で簡単に空き枠を調べて予約することができ、医療事務にかかる時間も負担も削減されます。処方・調剤情報がクラウド上に保管されていれば、お薬手帳は自動的に生成され、調剤薬局でのお薬手帳に関するやりとりは不要になります。こうしたものは「機能」ですが、さまざまなシーンで医療で困る人々を助けられる機能です。患者にとって私たちの介在価値がわかりにくい例としては、救急医療のたらい回しの課題などがあります。救急医療では搬送先を探しますが、そもそも入院できるベッドが空いていないと受け入れられないですし、当直をしている救急医のスキルセットによっては難しいこともあります。こうした状況がリアルタイムでわかるだけで、速やかに治療にたどり着くことができます。患者から見たら私たちが貢献したとしてもわかりにくいことだと思いますが、こうした見えないところで社会を支えるというのはかっこいいと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

医療消費者の医療に関する知識を底上げし、今よりもっと主体的に医療を受けられるようにする。また、医療機関と医療消費者との距離を近づけることで、そのような主体的な医療との関わりを実現する。医療は日本中あまねく行なわれているので、一度には成し得ないことですが、一歩一歩踏み固めていくことで、そうした未来を実現したいと思います。また、個人的には、世界的な大きな流れとして、医師が介在しないセルフメディケーションを活用する方向に向かっていくのかなと思います。現在は医師や医療機関が不足していて十分な医療が受けられないような場所だとしても、自動診断技術などの進歩により、一定レベルの診断や治療が可能になっていくでしょう。「MEDLEY」の病気の情報や「症状チェッカー」、また遠隔診療のシステムが、このような世界でも活用できたらと思っています。

 

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