「円安は後退する日本」日本円の購買力が1970年代に逆戻りしてしまったことの意味とは~「悪い円安」が日本経済を蝕んでいく~


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■日本円の購買力が1970年代に逆戻りしてしまったことの意味とは

東洋経済 2021/9/12 野口悠紀雄(一橋大学名誉教授)

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87089

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1990年代に、日本人は海外で貴族のような旅行をすることができた。

ところが、その後、円の購買力が低下した。

最近の購買力は、 2010年の7割程度で、1970年代前半の水準にまで戻ってしまった。

こうなったのは、円高になるとそれを阻止して、円安に誘導する政策が行われてきたからだ。

つまり、日本は自ら望んで貧しくなったと言える。

この結果 、人材を日本に呼ぶことができなくなる。

高齢化が進む日本にとって、これは深刻な問題だ。

・90年代の夢のような豊かさ

1960年代の末、1ドル=360円の時代に、私はアメリカに留学して、貧乏生活を強いられた。

当時の私の日本での月給は、2万3000円程度だった。

ところが、留学先のカリフォルニア大学ロサンゼルス校の周辺にあるアパートは、独身用一部屋でも、すべて100ドルを超えていた。

日本とアメリカの豊かさの差を思い知らされた。

それから20年後の1990年代、事態は一変した。

わが家は、家族5人で、何度か欧米を旅行した。

観光地で最高級のホテルを泊まり歩き、貴族さながらの旅をした。

オリンピック、バルセロナ大会の頃のことだ。

由緒あるロンドンのクラリッジズホテルに、家族全員で泊まったこともある。

アメリカでの貧乏学生生活のカタキを取った気分になった。

それから暫くも、外国で優雅な生活をできる時代が続いた。

2005年には、アメリカ、カリフォルニア州のシリコンバレーにあるアパートに、1年間ほど住んでいた。

スタンフォード大学の近くの、緑の環境に囲まれた素晴らしいアパートだった。

ところが、いまではこれらは、夢のような話になっている。

家族5人で欧米の豪華ホテルを泊まり歩くことなど、想像もできない。

シリコンバレーのアパートも、高くて手が出ないだろう。

1990年代、外国の学者は、「日本の大学に1年滞在したいのだが、生活費が高いので無理だ」と言っていた。

いまはそれが逆になっている。

日本の学者は、外国に収入源があるのでないと、簡単には外国で研究生活をするわけにはいかない。

日本の学生が欧米の大学に留学するのも、ますます難しくなっている。

・70年代から90年代まで、円の価値が高まる

上で見たような変化が生じたのは、為替レートが変化したためだ。

1960年代の後半、最初の貧乏学生を強いられていたとき、日米の為替レートは、1ドル=360円というレートに固定されていた。

1971年8月15日の「ニクソン・ショック」で米ドルと金の兌換が一時停止された。

72年には、ドイツ・マルクが変動を始めた。

この時、私はエール大学の大学院の学生だった。

ちょうど国際金融の講義の時間に、ドイツ・マルクが変動を始めた。

教室にいた学生の1人が、”The Mark is floating”と大声で叫んだことを、いまでも覚えている。

73年2月には円もフロートを始めた。

そして、76年1月に、変動為替相場制度が導入された。

その後、ドルに対する価値は、日に日に上昇していった。

つまり、円高になっていった。

この動きは、80年代、90年代を通じて続いた。

それがピークになったのが、90年代の前半だったのだ。

・購買力平価、実質為替レート指数とは

ある国の通貨の国際的な価値を表わすのに、購買力平価と実質為替レート指数という概念が用いられる。

円とドルを例に取って示せば、つぎのとおりだ。

ある基準時点から、アメリカでは賃金や物価が上がり、日本では上がらないとする。

この場合、日本人がアメリカで同じものを基準時点と同じ負担で買えるためには、基準時点より円高になる必要がある。

この為替レートが「購買力平価」(PPP)と呼ばれるものだ。

購買力平価と実際の為替レートの比率が、「実質為替レート指数」である。

この値が100を下回るのは、実際の為替レートが購買力平価より円安である場合だ(逆なら、逆)。

基準年次と同じ購買力を維持できるほど、実際の為替レートが円高になっていないのだ。

・いまの円の購買力は90年代の半分以下

2010年を100とする実質実効為替レート指数の変化を見ると、下図のとおりだ(「実効」とは、対ドルだけでなく、さまざまな通貨との総合的な関係を示していることを意味する)。

1970年には実質実効為替レート指数は58程度であった。

変動制に移行して以降、70年代後半まで、一貫して円高に動いた。

その後一時的に円安になり、80年代の中頃までその状態が続いたが、80年代の後半から再び円高が生じ、1995年4月には実質実効為替レート指数は150.8となった。

これは、1970年代初めの3倍程度の水準だ。

その後下落して1997年には100程度になったが、99年ごろから再び円高になり、2000年には120台となった。

下落傾向は続き、2007年には80台となった。

リーマンショック後の2009年ごろに再び円高になり、100を超えた。

その後、2013年から顕著な円安が進行した。

結局のところ、最近の実質実効為替レート指数は、90年代中ごろのピークに比べると、半分以下の値になった。

そして、最近時点では、日本円の購買力は、1970年代と同程度にまで低下してしまった(図には2020年12月の値までしか示していない)。

その頃の留学生生活を思い出してみると、街を歩いても商店に入っても、豊かさに目も眩むほどだった。

あらゆるものに対して、「アメリカは何と豊かな社会なのだろう」と驚嘆した。

80年代と90年代にそれが逆転したのだが、いまにしてみれば、つかの間の夢に過ぎなかった。

そしていま、アメリカに最初に留学した時と同じ状態に戻ってしまったのだと思うと、感慨深い。

なお、ここで言っている「豊かさ」とは、絶対的なものではなく相対的なものだ。

例えば、1970年代には日本人はロンドンの3流ホテルにしか泊まることができなかったが、80年代、90年代には1流ホテルに泊まれるようになった。

ところがいまはまた、3流ホテルに戻ってしまったと言うようなことだ。

3流ホテルといえども、いまの設備は、70年代の1流ホテルよりよいかもしれない。

例えば、70年代には一応ホテルにもエアコンがなかったかもしれないが、いまは3流ホテルにもあるといったことだ。

・日本は自ら望んで貧しくなった

なぜ購買力平価を維持できず円安になってしまったのか?

それは円高が進むと、それを食い止め、円安にするような政策が行われてきたからだ。

円売り・ドル買いの為替介入は、1990年代から断続的になされていた。

そして、2001年の1月から、顕著な介入が行われた。

その背景は、円高が進んだことだ。

アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーン スパン議長(当時)が政策金利の引き下げを示唆したため、アメリカの短期金利が低下するとの予測が市場に広まり、円高が進行したのである。

為替レートは、02年初めの1ドル=130円台から、03年初めには110円台まで上昇した。

さらに、100円に近づいた。

政府・日銀は、これを危機的な状況と捉え、03年1月から頻繁なドル買いを開始した。

04年3月まで継続的に行なわれた介入の総額は、38兆円を超えた。

これによって円高の進行は止まった。

2010年頃にも円高が進行し、民主党政権は必死になって円安を求めた(ただし、成功しなかった)。

2013年からのアベノミクスの異次元緩和では、市中から大量の国債を購入し、利回りが低下。

このため、円安が進行した。

日本の購買力が低下するということは、日本に所得源があって外国で使うと、いままでのように高い価値のものを買えなくなるということだ。

逆に、外国に所得源があって日本で使えば、いままでより価値があるものを買えることになる。

1980年代、90年代には、日本で所得を得て外国で使えば、贅沢な消費ができた。

それが、いまでは、70年代に逆戻りしてしまった。

繰り返すが、日本は自ら望んで、そのような状況を作り出してきたのである。

誠に愚かなことだと言わざるをえない。

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■日本円の購買力が1970年代に逆戻りしてしまったことの意味とは
東洋経済 2021/9/12 野口悠紀雄(一橋大学名誉教授)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/87089

本日は3つの記事をご紹介いたします。

2つ目の記事はこちらです。

■円安は「後退する日本」の象徴なのか、浮上する不都合な真実=佐々木融氏

reuters(ロイター通信)2021年7月26日 佐々木融(JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長)

https://jp.reuters.com/article/column-toru-sasaki-idJPKBN2EW02C

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<今年に入って円独歩安>

今年に入ってからの為替市場では、円が先進国通貨の中で独歩安となっている。

現状の円実質実効レートの水準は2015年6月に記録した1970年代前半以来の最安値まであと4%程度の水準まで下落している。

現在の水準は過去20年間の平均からは20%、過去30年間の平均からは30%も割安となっており、1973年2月の変動相場制移行直前と同レベルの円安水準となっている。

しかし、長期的に見ると、円の弱さは今年に始まったことではない。

アベノミクス開始後に大幅な円安となって以降、円の実質実効レートはおおむね1970年代前半と同レベルの水準で推移し続けている。

<円の購買力、70年代に逆戻り>

円の実質実効レートが1970年代前半と同水準での推移を続けているということは、単純に言えば円の購買力が1970年代前半と同水準となっているということだ。

例えば、80年代後半から90年代までは、海外から来日した外国人は一様に日本の物価の高さに文句を言っていた。

一方、日本人が海外旅行に行くと、日本に比べると割安なブランド物を免税店で購入して帰ってくるのが定番だった。

それがアベノミクス以降に大幅な円安となってからは、来日した外国人は「日本は安い」と口をそろえて言うようになった。

実際、コロナ前までは銀座で買い物を楽しんでいる海外からの旅行客が目立った。

一方、日本人にとっては海外旅行先で様々な物が割高に見え、免税店では「日本で買った方が安い」とつぶやくことが多くなった。

<物価調整しなくなった円相場>

なぜ、円はこれほどまでに割安となり、購買力が低いままとなってしまっているのだろうか。

現象面から単純に解説すると、それは「日本の物価上昇率が他国と比べてかなり低いのに、為替レートがその分の調整をしていない」ことが背景にある。

2000年以降の約20年間でみると、日本の消費者物価指数は2─3%程度しか上がっていない。

これに対し、その他の主要国は概ね40─50%程度上昇している。

この現象は、物価上昇率の差の分だけ、円という通貨の相対的な価値が他国の通貨に比べて上昇したことを意味している。

しかし、実際の為替相場をみてみると、ドル/円相場は2000年の平均レートと2021年前半の平均レートがほぼ同水準、ユーロ/円相場、人民元/円相場は逆に現在の方が円安水準となってしまっている。

つまり、物価上昇率の差を全く反映していないどころか、逆方向に動いてしまっている。

この結果、円は実質的に歴史的な割安水準まで落ち込んでしまっている。

なぜ、実際の為替相場は実質的な円の価値の上昇を反映しなくなったのだろうか。

様々な理由が考えられるが、次の4つは特に影響している可能性が高いと指摘したい。

<日本企業のキャピタルフライトと貿易構造の変化>

1つ目は「日本企業によるキャピタルフライト」だ。

日本企業はアベノミクスが開始された2013年ごろから対外直接投資を急増させている。

2013年9月に安倍晋三前首相はNY証券取引所で行った演説で「Buy my Abenomics」と発言したが、日本企業には真逆の行動を取ってきた。

また、経済産業省の統計によると、日本企業の海外現地法人の純利益は年間10兆円程度でそのうち4兆円前後を内部留保として積み上げている。

結果的に日本企業の海外現地法人の内部留保残高は40兆円以上に上っている。

円は実質的にかなり割安で、今や日本の物価は安い。

後述するように今や日本人の平均年収は相対的に高いとは言えず、むしろ低い。

それでも日本企業は海外に進出し、海外で利益を積み上げている。

これは日本企業による一種のキャピタルフライトと言えるかもしれない。

2つ目は「日本企業が円安メリットを以前ほど享受できなくなっている」という点だ。

製造業による対外直接投資増加も一因となっていると考えられるが、近年は円安になっても輸出数量が伸びず、貿易黒字が増えなくなってきている。

また、輸入企業は円安で上昇しているはずの輸入価格を国内価格に転嫁できず、物価も上がらないし、企業収益は悪化する。

<海外勢の失望売りと日本人の現金選好>

3つ目は「外国人投資家の失望・日本株売り」である。

このところ外国人投資家の日本株に対する興味は減退してしまっているようで、アベノミクスに期待して2013年、14年に合計20兆円の日本株を買い越した外国人投資家は、その後に10兆円分を売り戻してしまった。

4つ目は「日本の家計の現金選好」だ。日本の家計は円と交換することができる資産に魅力を感じていないのか、長いデフレの中を生きる上での知恵なのか、金融資産に占める預貯金の保有比率が高い。

つまり、いくら対外的な購買力が低下しても、日本の家計は円という通貨が最も魅力的な国内資産だと感じて保有している。

だから、円という通貨は日本国内で価値を維持している。つまり日本の物価は上がりにくい。

<上がらない日本人の年収>

円が割安な水準から調整されないだけでなく、日本は年収も上がらないので、ますます日本人の相対的な購買力が低下してきている。

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、2020年の日本の平均年収は440万円だが、2000年は464万円だった。

20年間で小幅減少しているが、他国と比べるとかなり異常と言える。

その他主要国の平均年収はおおむねこの20年間で1.5倍から2倍に増えているからだ。

データがあるOECD加盟国で年収が減っているのは日本だけだ。

この結果、ドル建てでみた平均年収は2000年当時の日本はOECD加盟国の中で3番目に高い国だったが、今や順位は20位まで低下しており、韓国とほぼ同水準となっている。

ちなみに20年前の日本の年収は韓国の2.7倍だった。

他国はインフレ率も高いし、日本はインフレ率が横ばいだから名目賃金が上昇していなくても仕方ないだろうと開き直りたくなるかもしれない。

しかし、日本の実質平均賃金は過去20年間でみても、30年間でみてもほとんど変化していない。

一方、米国の実質平均年収は過去20年間で25%、過去30年間で48%も上昇している。

その他主要国も過去20年間の実質賃金は15%─45%程度伸びており、日本とは状況が大きく異なっている。

日本人の給料は上がらない一方、海外の人の給料は上がり、現地のモノやサービスの価格は上昇する。

本来それを為替レートが調整するのだが、その機能が働かなくなっている。

このままの状況が続くと、日本人にとって海外のモノやサービスはさらに割高になっていくだろう。

そして、割高になる海外旅行に行ける日本人が限られる一方、外国人にとっては日本は一段と割安になる。

過去1年半程度のコロナ禍でも他の主要国の物価は上昇している一方、日本の物価は若干下落している。

それにもかかわらず円安になっているので、国境を超えた往来が通常に戻ったら、ますます購買力をパワーアップさせた外国人観光客が日本に押し寄せてくれることになるだろう。

それ自体は日本経済にとって良いことだが、いずれ良いモノ・サービスの価格は外国人向け価格で高く設定されるようになり、日本人には手の届かない水準になってしまうかもしれない。

<先進国からの脱落なのか>

今後もリスクオンの時に円安、リスクオフの時に円高、という短期的な変動パターンは続くと予想される。

世界経済に暗雲が垂れこめれば、ドル/円相場が100円を割れることもあるだろう。

しかし、現状のような米国との物価上昇率の差や賃金格差拡大が続くようであれば、ドル/円相場が90円台まで下落したとしても、円は歴史的な割安な水準にとどまる。

円相場が他国との物価上昇率の差を反映しなくなり、日本が世界の中で高所得国から中所得国になってしまったことは、日本がもはや先進国ではなく、後退しているという意味で「後進国」になっていることを意味しているのだろうか。

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■円安は「後退する日本」の象徴なのか、浮上する不都合な真実=佐々木融氏
reuters(ロイター通信)2021年7月26日 佐々木融(JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長)
https://jp.reuters.com/article/column-toru-sasaki-idJPKBN2EW02C

最後3つ目の記事はこちらです。

■間違いなく「悪い円安」が日本経済を蝕んでいく

~円安万能論を捨て、日銀は正常化を示唆すべき~

東洋経済 2021/10/15 唐鎌大輔(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)

https://toyokeizai.net/articles/-/462077

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今の日本経済が直面している円安はどう見ても「悪い円安」である。

2013年ごろに円安志向のアベノミクスを批判する人々の基本認識は「もはや輸出が増えない円安には、持続的な景気浮揚効果はない」というものだった。

当時はそのような主張をするとひどく叩かれたものだ。

最近では景気回復には円安が必要だと主張する人のほうがだいぶ減ったのではないか。

円安・株高を主軸とする景気回復には往々にして海外への所得流出が伴い、たいていの場合、「実感なき景気回復」であると揶揄されてきた。

アベノミクス下での景気回復(2012年11月から2018年10月までの71カ月間)でも、それ以前の小泉政権下で実現した戦後最長の景気回復(通称:いざなみ景気、2002年2月から2008年2月までの73カ月間)でも、そうした揶揄は付いて回った。

一般国民が何をもって景気回復を「実感」するかは曖昧だが、やはり雇用・所得環境が肌感覚に近いだろう。

アベノミクス下では雇用の「量」は回復が著しかったものの、所得(賃金)に関しては失望を買った。

・「実感なき景気回復」の正体

実質ベースで見た国内の所得環境を捉える計数に実質国内総所得(GDI)がある。

実質GDIは、実質GDP(国内総生産)に交易利得を足した(あるいは交易損失を引いた)概念である。ある基準年から、交易条件(輸出物価÷輸入物価)が改善していくと交易利得が増えるか交易損失が減る。

悪化していくと交易利得が減るか交易損失が増えていく。

交易損失は、企業にとっては仕入価格の上昇を販売価格に転嫁できていないことを示し、企業収益の圧迫を意味する。

マクロ経済全体にとっては海外への所得流出と同義だ。

そんな状況で雇用・賃金情勢が持続的に改善していくものでないことには、多くの説明を要しないだろう。

例えば、下図に示すように、2000年代の円安局面では交易利得の縮小(2005~2007年)ないし交易損失の拡大(2013~2015年)がみられた。

円安による輸入物価上昇が交易条件を悪化させ、実質ベースで見た国内総所得(GDI)の伸びを抑制するのである。

とりわけアベノミクスが喧伝された2012年以降、経済を生産面から見る実質GDPに対して、所得面から見る実質GDIが劣後しているのがわかる。

この差が交易損失であり、「GDPの仕上がりが良くても景気回復の実感がない」理由だと筆者は考えている。

「実感なき景気回復」の一因として交易条件の悪化(≒交易損失)は看過できない。

図に見るように、逆に2020年春以降のパンデミック下では円相場はそれほど動いていないが、原油を筆頭に資源価格が急落したことで交易条件が大幅に改善し、交易利得が発生している。

為替は動かなくても、資源輸入国は商品市況に合わせて交易条件が上下動する。

まとめると交易条件が悪化する局面では、①円安か②原油高のいずれかが基本的に進んでいる。

次の図は起点を「1970年3月」と「2000年3月」の2つに分けて、交易条件指数の推移を見たものである。

やはり為替と原油の動きが重要だったことがわかる。

1973年と1979年に経験した二度の石油ショックで拡大した交易損失はプラザ合意の円高で吸収されたイメージになる。

もちろん、これは交易条件に限定した話であって、周知のとおり、超円高が諸々のショックに連なっていくことになるので「円高でよかった」という結論にはならないが、少なくとも悪化していた交易条件が超円高によって大きく復元したのは確かである(当時は原油価格も下落方向だった)。

片や、2000年代に入って、石油ショックやプラザ合意のような交易条件の劇的な変化を経験したことはない。

しかし、脱炭素に伴う昨今の潮流を人類史におけるエネルギー革命の過渡期と定義した場合、そうした劇的な変化が起きても不思議ではない。

・円安、原油高が日本人の暮らしを圧迫

そのように基本認識に立つと、足元のような、①円安と②原油高という2つの交易条件悪化要因が同時進行していることは由々しき問題であり、当面の交易損失拡大は確定した未来と見たほうがよい。

上述したように、これは定義上、実質GDIの圧迫を意味する。

生活実感としての景気回復は一段と立ち遅れるだろう。

すでにiPhoneや外車、時計といった海外輸入品の価格が引き上げられているのは象徴的な経済現象であり、今後は日用品全般に波及してくる可能性も否めない。

典型的にはガソリン価格だろう。街のガソリンスタンドに目をやればもう1年前の倍近くまで上昇している。

これは実体経済に対して実質的には増税効果になる。

商品市況や為替相場に絡んだ話を国内のマクロ経済政策で大きく修正するのは不可能である。

しかし、何もできないわけではない。

これを機に、ポーズであっても日本銀行は金融政策正常化を示唆したほうがよいと筆者は考えている。

これまで緩和策の副作用を指摘されながらも日銀が正常化プロセスに触れなかったのは、「物価が上がらないから」というのが建前だが、本音は「円高が怖いから」で、これが最大の理由であろう。

過去における日銀の緩和政策が往々にして円高・株安に呼応する格好で決断されてきたことがそれを示している。

実際、日本の輸出数量が円安と正の相関を持っている時代には、その判断は適切でもあった。

しかし、アベノミクス下ではドル円相場は50%以上上昇したが、輸出数量はほとんど増えなかった。

これでは円安になっても貿易収支の改善はなく、単に所得流出が増えるだけである。実際にそうだった。

また、近年ではドル円相場と日経平均株価の相関も不安定になっており、円安による株価浮揚の効果も過去ほどではない。

いつかはやらねばならない出口戦略なら今が好機ではないか。

過去1年半で日本経済は欧米経済に大きく出遅れており、もはや日銀以外の海外主要中銀は正常化プロセスに関し一歩も二歩も先行している。

今さら、金融市場での注目度が下がっている日銀が多少の縮小を示唆したところで、かつてのようなヒステリックな円高になるとは思えない。

・後手に回れば円が売り込まれるリスク

微力であっても円安進行を抑止する一助になる可能性があるならば、「正常化プロセスを検討している」と述べる程度のアクションを起こしてもよい。

理由づけはインフレ高進への予防的措置とでもすればよい。

これまで何度となく無理筋な理由づけをしてきたのだから、上述したような実質所得環境の危機的状況を踏まえれば、十分まかり通るだろう。

重要なことは、政策当局は焦燥感を市場に悟られてから動くとロクな目にあわないということだ。

市場参加者から「円安は日本経済にとって痛手」と認識され、いったんその方向に相場が動き始めたら、円売りで攻め込まれる恐れがある。

そうなってからではできることは非常に限られてくる。

金融政策に限らず、まだ傷の浅い今のうちに少しずつ円安を抑止できるような処方箋を日本は検討すべきように思える。

それくらい、円安と原油高が同時進行する現状は危うい。

また、これを契機に円安万能論のような社会規範も修正されていくことも必要である。

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■間違いなく「悪い円安」が日本経済を蝕んでいく
~円安万能論を捨て、日銀は正常化を示唆すべき~
東洋経済 2021/10/15 唐鎌大輔(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)
https://toyokeizai.net/articles/-/462077

円安日本。

円安と聞けば、輸出大国日本、良い面が強調されることが多いのではないでしょうか。

競争相手国よりも安い金額で輸出できることが一つのメリットとして理解できます。

ただ。

「円安」は大きな危険と隣り合わせであることは理解する必要があるかもしれません。

特に、英ポンド、米ドル、ユーロ、中国人民元等、他国の通貨との比較を含めて大きなリスクが伴います。

理由は「日本買いリスク」。

円安で、土地等の不動産、日本企業の株式など他国からの「日本買い」がかなり容易となっているの実情です。

コロナ不況を背景に、米英投資ファンドが都市部を中心に猛烈な勢いで日本の不動産を買っている状況が続いています。

株式もそうです。

英米ファンドを中心に、日本企業の株式を次々と買い増しし日本企業の大株主に名を連ねるほどの大きな影響力を持ち始めています。

ご存知の通り、資本主義では会社の所有者は「株主」です。

株の保有者が、その会社の重要な意思決定を行います。

役員の交代やリストラの決定など、その企業を強くもし、そして弱体化をも画策できるのが株主です。

資本主義の下では、会社の所有者は社長でもなく役員でもありません。

社員でもなく取引先やその地域の方々のものでもありません。

資金力のある「株主」のものです。

つまり、日本企業でありながら、海外の投資ファンド等の大株主の意向でその組織体をどのようにでもできるのです。

円安を通し外貨の影響力は増し、日本企業や日本の土地を海外の資金力ある投資家に買い占められているのが、今の日本の実情だと言われています。

日本の土地や会社が他国に買い占められるリスク、円安。

円安のリスクは、それだけにとどまりません。

海外輸入品の価格が高騰してしまいます。

食品やガソリンをはじめ、ガス・電気・水道などのインフラ料金も徐々に値上げされてきています。

代表例が石油やガソリンなどの資源です。

輸入している資源は円安が続けば続くほど国内の価格が高騰します。

ガソリン価格は上がり続け、輸入食材もさらに高騰するリスクがあります。

安い円のままでは、相対的に輸入品が高くなるのは当然ではないでしょうか。

各方面で物価の上昇の可能性は現実味を増しています。

貧困層が、より苦しい立場になりかねません。

そして、円安の影響は生活の部分だけではありません、国家プロジェクト等大規模な国際競争にも大きな影響を及ぼします。

例えば、資源などの権利を競争獲得する場合もそうです。

油田やガス利権、鉄鋼や半導体などなど必要な資源や材料等の調達も他国との競争に負けてしまいます。

その他、著作権や特許などの無形資産も、劣勢に立たされてしまいます。

結果、医療分野、IT分野などにも幅広く影響し、安い円・安い日本はあらゆる国際競争において不利な状況に陥ってしまいます。

円安のメリットが国内報道などでは強調されていますが、日本の国際的存在自体が埋没する状況では、日本の国際的地位全体が失墜することにも直結してしまいます。

ただでさえ、コロナ渦、各国が保守的な政策を進める中での国際政治。

円安日本が、他国のマネーパワーに屈しざるを得ない状況にもなりかねません。

意図しない円安は、国際競争における単なる敗北に過ぎないとも言えるのではないでしょうか。

国際政治に、日本が飲み込まれている状況と言えるのかもしれません。

では、どうすればいいのでしょうか。

何をすれば、今の最悪の日本経済の状況が改善できるのでしょうか。

その一つとして、最優先すべきことは、日本経済を好転する施策です。

当たり前ですが、日本経済が悪化すればするほど日本企業は倒産や弱体化が進みます。

逆に、日本経済が良くなれば日本企業の収益も改善し給与も上がりやすくなります。

大企業もそして中小企業も収益改善することで納税額も上昇します。

当然、国の税収にも改善が見られるでしょう。

デフレ脱却し、金利上昇が見込まれれば、好ましい経済循環が生まれ、行き過ぎた円安は改善に向かいます。

もっとも当たり前の施策、それが日本経済を良くすることです。

では、どうすれば日本経済が良くなるのでしょうか。

その一つのヒントは通貨発行です。

つまり、日本経済にお金を回すことです。

日本銀行は日本円の通貨を発行できます。

当たり前ですね。

ただ、自国が自国通貨を発行できない国が実は世界には多くあるのです。

イギリスやフランスなどの大国の植民地に近い状況の国々などは自国通貨が発行できません。

そのため財政破綻が現実化してしまうのです。

ただ、日本銀行は自国通貨「円」を発行できます。

つまり、通貨を供給することで今の最悪のデフレ状況を自国の意思で改善できるのが日本銀行です。

円を発行しその資金を毎月の給付金「ベーシックインカム」や公共事業に充てて日本経済を活性化することが今の緊急的経済対策として必要なのかもしれません。

理想的経済回復施策ではないでしょうか。

中には一時給付金を出しても「貯蓄する」という批判もあります。

ただ、これは短期的視点ではないでしょうか。

政府が「出し渋り」を強調したことへの「不信」が反映したとも言われています。

継続的に給付金を出すことで、多くの家庭で経済的安心感を持ち始め、消費支出を増やしていくではないでしょうか。

安心感は支出や消費を促します。

貯蓄が増えれば当然支出も増えていくでしょう。

中長期で見れば冠婚葬祭や進学、不動産や動産への購入も、より高額な支出も増えていくはずです。

一度の10万円しか給付金を出さないのに「消費が伸びない」という論理は、まさに短期的視点とも言えます。

大事なのは「継続的」「反復的」給付金で「国民の安心」を促すことかもしれません。

国民が持つ経済的安心は結果として「政治の安心」にもつながるのではないでしょうか。

政治的不信をも解決できる施策とも言えるかもしれません。

ただ、ここで一つ大きな疑問。

何故、今大胆な経済施策をしないのか、という疑問です。

なぜなのでしょうか。

政治家や官僚は、その多くは東大など優秀な学歴を有する方々です。

そして、多くのブレーンもいらっしゃるはずです。

様々な国内外の資料やデータを有する立場。

過去から未来、そして国内外、縦にも横にも、様々な「情報」を有する立場です。

何故このような経済的愚策を続けているのでしょうか。

様々な多様なデータを有し、優秀なブレーンもいる中、愚策を続けるその理由。

それは、何故なのでしょうか。

私たちは、この理由を、深く、深く、考える必要があるのかもしれません。

問題は、国内だけにとどまらない筈です。

国際政治は、様々な思惑と背景があります。

日本は長い間「強い経済」を誇ってきました。

海外では過去に「エコノミックアニマル日本」と揶揄する方々もいらっしゃいました。

「強い日本経済」を望まない勢力が、国際政治では多数存在していたのも事実です。

昨今の日本経済の愚策。

その愚策で利益を享受できている海外勢力もいる、とも言われています。

愚策を続ける日本経済を望んでいる方々がいるという可能性も否めません。

そして、その「政治的意向」を日本国内で受ける勢力がある、という可能性もあります。

日本銀行の現在の総裁は黒田東彦氏。

安倍政治を支えてきた「アベノミクス」との深い関係を持っている方です。

つまり、通貨発行や経済対策の不備等は、現在の政治と密接につながっています。

給与が上がらないのも、日本の土地や日本企業が他国に次々と買収されている状況も、言わば、今までの政権が作り上げてしまったこととも言えるのではないでしょうか。

もうすでに多くの方々が気付いているかもしれません。

株価が一時的に上がっても企業の収益や私たちの給与には影響が多くありません。

実際に街中の景気が回復し中小企業も含め、全体的にお金が回る状況を作らなければ私たちの勤める会社収益は改善しません。

もう一度言います。

一時的に株価が上がっても下がれば意味がありません。

投資家は上げ下げで収益が上がるかもしれませんが大半の労働生活者には株価は殆ど関係ありません。

大事なのは実経済への貨幣供給、日本実経済の復活です。

円安日本。

円安による輸入品高騰。

円安による海外資本の影響力強化。

不況による円安、まさに「経済敗北日本」の状況かもしれません。

資源高、株式市場、各種投資における大きなデメリットは今後の日本における影響は計り知れません。

今こそ「実力による円高」で「強い日本」を再興する必要があるのではないでしょうか。

そのために必要なのが起爆剤。

多くの国民が安心できるボリュームの給付金、またはベーシックインカム。

安心できるボリュームと回数の給付金によって「実力としてのデフレ脱却」が実現するのではないでしょうか。

日本の津津浦浦、お金が回れば、日本の多くの企業が収益改善します。

当然、企業間取引も活発になります。

企業間の設備投資も増え、大きな受発注も増えていくでしょう。

中小企業も含めて企業収益が改善できれば、給与やボーナス等も増加する可能性は高まります。

雇用も促進するでしょう。

日本の個人や企業の資金力が、実経済に大きな好循環を生み出されます。

大事なのは、政府の経済施策。

海外製ワクチンに投資するのではなく、オリンピックに投資するのでもありません。

為替や外貨への施策は二の次です。

まず、すべき施策、それが日本国内の、実経済「真水」への起爆剤。

生活者一人一人の預貯金を含めた資金力が、地域企業、そして地域経済、さらには、国家財政にも好影響を与えていくはずです。

緊急コロナ経済対策。

国内実経済「真水」供給に、今最大限の思い切った施策が必要なのではないでしょうか。

私たちにできることは、今、何なのでしょうか。

安倍政権や安倍政権を受け継いだ菅政権、そして同じ轍を踏む可能性が高い岸田政権。

この先、最大4年間、衆議院議員選挙は行われません。

最悪、この先最大4年間も、同じような「円安」「経済敗北日本」を続けていくのが、国民の意思となるのでしょうか。

今、私たちは、今後の日本の行方を左右する時期に直面しているのかもしれません。

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