本音でぶつかるにも程度がありますけど、私自身は本音を言える関係性でありたいなと思います。それは親しい友達であれ、夫婦であれ。その伝え方はちゃんと言葉を選んで、相手に染み渡るように伝えなきゃいけないとは思うんですけど。
自分本位にはいられないです。ただ、例えば仕事で、これだけは私の意見でやってみたいと思うことはあるし、友達や夫婦の間でも「それは違う」と思うことはちゃんと話します。相手にそれを伝えられるかどうかということだと思うんです、人と付き合うっていうのは。言葉にして伝えられるか、伝わるかってことだと思ってます。
もう自分ではわかり切っていたり、限界があったりするかもしれないですけど、誰かと過ごして、誰かのために生きることを決めたりすると、その上限が外れるというか。そこを外さないと一緒にいられないわけですよね。日常を過ごす中で、今まで自分が見ていたものが、よりきれいに見えたり、すごく面白く見えたり、楽しくなったり、あるいはこんなことに腹が立つんだと感じたり、今まで思わなかったような感情を発見するという意味で、夫婦という形は面白いと思います。ある意味、自分が成長するために、人生をかけてこの人と一緒にいると決めるということ。夫婦になるっていうのはそういうことなのかなとは思います。
一人の人間が生きていくうえでの使命感や、生きる意味は、あまり変わらないのかなとも思いました。生きる意味や命の尊さ、そして未来に向けて今、自分は何をすることが幸せなのか…すごく考えさせられました。人間はみんな最後は死に行く運命なのだなぁと思うと、そこに向けてどれだけ精一杯生きられるのか、自分が「全うした」と思えるような人生を歩むことの大切さを改めてこの作品で学べる気がします。
30歳というのが特別なわけではないけど、年齢によって役の幅が広がる部分もあるし、逆に自分にはできない役というのもできてくる。それはすごく面白いなと思います。若いときはがむしゃらで、何でも楽しかったのが、年齢を重ねることで、役柄の重要性も増してきて、実は一概に楽しめなくなる部分もあるんだなとも感じてます。いつのまにか褒められることの方が多くなって、逆にそれがふと怖くなったり…。だから、共演は久々に舞台に挑戦してみたりもしたんです。
私もどちらかというと気が強かったり、白黒つけたがる方なので、そういう点は似ているかもしれませんね。それに、バイオリンに対する自信と情熱。あそこまで夢中になれるものがあるというのは羨ましくもあります。
基本的に私はリアリティを大事にしています。たとえそれがファンタジーの作品であったとしても、リアリティを持つことの大切さをいつも考えていますね。それって結局、自分の日常をどう生きるかということとつながってくるんですね。自分の日常生活を、ちゃんと自分として生きる。当たり前のことを当たり前にできるようにする。普通のことを普通にできるようにする。そういうことを心がけていないとリアリティは出なくなってしまいます。普通が何かというのも難しいですけど、いつも心に留めてちゃんと考えられたり受け取れたりする人間でありたいと思うんです。
変わってしまったのはエンターテインメントの世界だけではなく、世界中のあらゆることが変わってしまったので確かに厳しいですね。こういうことになるとエンターテインメントはいちばん最初に必要ないよねと言われてしまいますが、そう言われながら結局、どんな時代でも残ってきました。人の心を楽しませたり癒したりするものは、必ずこの先も残っていくべきであろうと希望を込めて思いたいですね。不安を抱えているばかりではなくて、こういう状況をチャンスに変えていくことを考えるのも私たちの課題です。
女性にしかできない、女性ならではの役をできたことは、自信にもなりました。女優は“女が優れた”と書きますが、どうしても男っぽくなっていく仕事のような気がするんです。毎日の目まぐるしい撮影では、体力的にもタフでないといられない。現場でも女々しくなんていられないし、仕事をしていくうちに、“女性”が自分にあまり寄り添っていなくて、少し離れたところにいる感覚になるんです。
正直、20代の時はもっと忙しくて、目の前にある役を演じることで精一杯でした。今思い起こせば、『自分はこうしたいのに、できない』だとか、そういう感情と板挟みになって苦しかった。それが30代になって、周りの環境が変わったり、事務所から独立したり、すごく大変な部分もありましたけど、今の方が自分に嘘がなくてすごく健やかなんです。全部自分の責任になるし、『自分がどうあるべきなのか。こうやって生きたい』と明確になってきて、今がすごく楽しい。生きている実感がすごくあって、『30歳が成人式だった』とすら思います。
『でもそれはチャンスだな』と思うんです。原動力にして進むしかないと。ただ一方で、『今の自分には縁がなかった』と思うことも大事だと思います。後は、自分の中の可能性として何が残っていて、何に向いているのだろうと考えることも大切ではないでしょうか。
だって、他人なわけですからね。他人と一緒に寄り添って生きていくって、どうやったって愛情がないとできないことですし。そのへんの人と適当にできることではないから、夫婦になる、家族になるってすごいことだと思います。だからといって、いろんな夫婦をいちいち比べたりするわけでもなく……全部違って全部いいっていう感じですよね。「夫婦はこうあるべきだよね」とか、夫婦に限らず「女性はこうあるべき」「男性はこうだ」とか、そういうことではないと思うんです。なかでも特に夫婦なんてものは、そもそも他人同士が集まってやっていること。そもそも変なことなんだから、変でいい。面白くていいじゃん、と思ってるんです。
私自身は……どうしてそこに悩むの? と思ってしまうんです。そういう悩みって、「周りが自分をどんなふうに見ているか」を意識するから生まれるんだと思うんですね。たとえば結婚にしたって、具体的な相手がいないのに「いくつまでに結婚しなきゃ」「いくつまでに結婚したい」と思っているなら、その気持ちはあまりよくわからなくて。「何歳までに出産しないと」「結婚したら次は子どもだ」みたいな悩みも、周りの視線を意識しすぎているだけ……かもしれませんよね。もちろん女性は年齢的な問題もあるから、本当に子どもがほしかったり、ほしくて行動しているのに授からなかったり、複雑な場合があるのはわかります。だけど、もし自分なりにベストを尽くしてうまくいかなかったとしても、人生それだけじゃないと思うから。どうしてもそういう悩みが頭から離れなくて、うまくいかなかったときに絶望してしまう人もいるかもしれないけど……もっと自分主体で。自分本位に物事をとらえていいんじゃないかなって思います。
昔からですね。親がそういうタイプだったのかなと思います。子どものころから、私にみんなと同じことをさせたがらなかったんですよ。だから、ランドセルも持ってなくて。学校でみんな同じお裁縫セットを買うときも、母は私を全然違うお店に連れて行って、好きなお裁縫セットを選ばせてくれましたし。人と違うことに恐怖を感じたり、周りの目を気にしたりしないように育ったのは、親のおかげかなと思っています。協調性がないということではなくて、オリジナリティはあっていいでしょ、みたいな感覚。……だと思ってるんですけど、もし協調性がなかったんだとしたら、どうしよう(笑)。
当たり前のことが当たり前じゃなくなってきている世の中なので、今まで以上に自分と向き合わざるをえなくなる瞬間はたくさんありました。でも、それで不安がっているだけではしょうがないので、ピンチはチャンスじゃないですけど、ある意味で見方を変えて、新しい発想とかアイデア力を持つことの大切さというものも、あらためて感じました。
こんな世の中になったとて、私たちは日常を生きていかなきゃいけないから、世界が変わったんだったら、順応していくしかないからこそ、自分らしくちゃんと生活して生きていきたいなと思います。仕事に対しても、その中で自分たちがどういうふうに関わって、どういう発信をしていくかを考えているところです。エンターテインメントって、こういうことになると一番必要がないのかなと思ってしまうけど、どんな時だって、今まで何があってもずっと残ってきたものだから、残していきたいし、そこに関わっていきたい。私たちがちゃんと作品として残るものを、どういうふうに生み出せていくか、どういうふうにチャレンジしていけるかということが課題だと思っています。
『どのように生きたいか』と悩むことは、私にはないのでわからないのかも。悩むということは、自分が本当にやりたいことがなかったりするからですよね? それは見つけるしかないと思います。
周りの目を気にしながら生きることを「当たり前」に感じているかもしれないけれど、それって全然「当たり前」じゃないですよ。だって、自分の人生ですから。自分が選んで生きていかなくちゃいけないのに、他人からどう見えているかに寄り添う必要なんて、本当はないんです。だから、まずはその「当たり前」に疑問を抱く。自分のことをちゃんと考えて、自分の気持ちや考え方を、もっと大切にしてあげる。自分がどうしたいとか、どういう方向性で生きていきたいかが明確になったら、あとはそうするしかないんだから、きっとシンプルになるはずです。
水川あさみ。
1983年生まれ、大阪府茨木市出身。
小学校5年生の時、『家なき子』(日本テレビ)の安達祐実を観て自分もこういうことがしたいと思い、13歳の時に母親の知人の紹介で芸能事務所に入る。
1996年、旭化成「ヘーベルハウス」のCMでデビュー。
その後は大阪から通いながら数々のオーディションを受けるが失敗が続く。
しかし15歳の時、映画『劇場版 金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』のオーディションに合格し、女優デビューを果たす。
高校入学と同時に上京。
2001年には第3回ミス東京ウォーカーに選ばれ、翌2002年、映画『仄暗い水の底から』の出演が決定した。
2003年、『渋谷怪談』で映画初主演。
2008年、『夢をかなえるゾウ』(読売テレビ)で連続ドラマ初主演。
2011年、大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』(NHK)では主人公の次姉・初役を演じた。
2013年、『シェアハウスの恋人』(日本テレビ)でゴールデンタイムの連続ドラマに初主演したほか、舞台『激動-GEKIDO-』で30代に入ってからの初仕事、10年ぶり2度目の舞台出演にして舞台初主演を果たした。
2016年にはこれまで所属したA.L.C.Atlantiから独立し個人事務所「sucre」を設立し移籍した。
第14回クラリーノ美脚大賞2016・30代部門(2016年)
第12回TAMA映画賞 最優秀女優賞(2020年) – 『喜劇 愛妻物語』『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』『ミッドナイトスワン』
第45回報知映画賞 主演女優賞(2020年) – 『喜劇 愛妻物語
第42回ヨコハマ映画祭 主演女優賞(2020年) – 『喜劇 愛妻物語』『滑走路』
第75回毎日映画コンクール 女優主演賞(2021年) – 『喜劇 愛妻物語』
第94回キネマ旬報ベスト・テン 主演女優賞(2021年) – 『喜劇 愛妻物語』『滑走路』