株式会社MTG創業者、松下剛:異業種に学ぶものとは?

株式会社MTG創業者、松下剛:異業種に学ぶものとは?

 

異業種に学ぶものとは?

 

 

松下剛/株式会社MTG創業者

 

 

業界内だけを見ていてはいけないと思います。
実は異業種にこそ、学ぶもの、ヒントになるものがたくさんあるんです。
固定概念をなくし、フラットに考えれば、たくさんのヒントがあるんです。
日本列島、ネタだらけじゃないかと思うんですよね。
ある分野では普及しているのに、別の分野ではまだ使われていない技術がたくさんある。
大学や研究機関で研究されていている技術で、まだ商品化されていないネタも多いですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

松下剛(MTG創業者)とは?

 

 

松下剛。

昭和45年長崎県五島列島生まれ。

 

1963年高校卒業後、デンソー入社。

その後、フルコミッションの住宅営業を経て、平成6年23歳で起業し、中古車販売業を始める。

 

1996年エムティージーブレイズ(現・MTG)を設立。

「ブランド開発カンパニー」を掲げ、ビューティー・ウェルネスの分野で事業を展開する。

 

2018年7月東証マザーズ上場。

 

 

 

 

 

 

松下剛(MTG創業者)の「コトバ」

 

 

 

小学校5年生のときに学校で先生が親のコメントなどが書かれているノートを教室に忘れていて、偶然それを私が見たんです。そこに自分が養子であるということが書かれていました。本当に衝撃でした。

 

 

 

 

 

あのときが人生の1回目の分岐点だったと思います。(養子だから)自分にだけ厳しいと思ったこともあった。その結果、恨みつらみの人生を送るのか、いやいや、それは愛情であって、いつか恩返しをするんだと思うのか。ぐずりかけていたときに道しるべになったのは父の姿でした。

 

 

 

 

 

 

私の場合、少し特別で、小学校5年生の時に自分が養子だと知りました。その時から、親に言われたわけではないですが、自分の食い扶持は自分で稼ごう、親の負担をできるだけ減らそうと、子どもながらに考えるようになり、パンダウサギやニワトリを育てて販売するといった商売を始めました。中学生になる頃には、将来、会社を経営しようと決め、一緒に働こうと仲間を誘っています。彼は今もMTGで活躍しています。高校卒業後は愛知県に出て、デンソーに勤めました。ここで起業資金を貯め、23歳の時に中古車販売業を始めました。当時の若者にとってクルマを持つことが夢だった。そこでクルマを売ろうと考えたのです。

 

 

 

 

 

故郷の五島列島のあの環境ですかね。もちろん両親にもつながるのですが、自分が養子だと知ったのが小学5年生。あの出来事がいちばんで、家も貧しくお金をくれとは言えなくなりましたし、自分の食いぶちは自分で稼ごうと決めました。誰に言われたわけでもなく、あの環境がそういう考えをつくってくれたと思います。小・中学生のときはパンダうさぎやニワトリを売って、それこそ血統書付のニワトリは一羽7万円〜10数万円で売れるので、粗利も高い。だから、卵を孵化させる器械を学校の理科室から借りてきて、今でいう量産ですね。うさぎもどんどん増えていくと、エサにする草を刈る仕事が一人で追いつかない。そこで雇った男が今のうちの工場長です。このときの経験は今でも生きています。やっぱり実践ですよね。経営はクルマの運転とよく似ているなと思っていて、学科と実地が必要で、私の場合は実地からやって学科はあとで勉強。今は大学発ベンチャーとかありますが、それではもう遅いんじゃないかなと。小・中学生から十分いけるんじゃないかと思います。先々はそういった制度をつくって、今度は協力できる側へまわりたいし、そういう会社でありたいと思っています。

 

 

 

 

 

 

起業して1年半後には、新規事業に取り組み始めました。愛知県は製造業の集積地です。しかも焼き物などセラミック産業も盛んです。そこで最初はセラミックを使った活水器の代理店販売を行い、その後活水器メーカーに転身。販売先も最初は住宅設備会社でしたが、のちに訪問販売会社へと変わっていきました。その後、海外に行く機会が増えると、技術的には日本製品のほうが優れているのに海外製品に負けているケースをよく目にするようになりました。そこで技術だけでは勝てない、マーケティングとブランディングにもモノづくりと同等の力を入れていかないとグローバルな競争には勝てないことに気づいたのです。

 

 

 

 

 

 

技術や性能はいい製品の条件ですが、それだけじゃダメなんです。その商品をどうやってお客様に知ってもらうのか、興味を持ってもらうのか、あらゆることを含めてブランド化していこうと。商品には一つひとつにストーリーがある。そのストーリーをどう表現するかも重要なんです。

 

 

 

 

 

 

ロナウド、マドンナは数多くの企業と契約していますが、その中でMTGは最も小さい会社だそうです。でもだからこそ、ブランドを世界に展開するために2人を起用したかった。マドンナはビューティのアイコンで、世界中の誰もが知っています。一方、ウェルネス、スポーツの世界ではロナウドを知らない人はいない。しかもこの2人は商品企画や経営にまで深く関わっています。それは奇跡だと、海外でもよく言われます。2人の共通点は先進的な商品、革新的な商品、絶対的差別化商品への興味が極めて強いことです。デザインにもこだわりを持っている。しかもお金だけで動くのではなく、商品、ブランドの持つフィロソフィーや企業の考え方を重視しています。つまりは商品とフィロソフィーの掛け算です。それが2人の考え方と一致したので協力してもらえたのだと思います。

 

 

 

 

 

お客様が手に取りたくなるような、美しくて、部屋に飾りたいくらいのプロダクトをどうやって作るかが重要です。まずはそんな理想のモックのデザインを先に作って、それから、それに合わせた設計を考えるんです。設計ではかなりの革新を起こさないと、理想のデザインには近づけない。でも、部品は凄まじいスピードで進化し続けていますから、きっと無理なことはない。そうやって突き詰めていきます。

 

 

 

 

 

「あのマドンナ? 究極の詐欺じゃないのか」とも言われました。交渉している相手は本物ではなく、だまされているのではないか、というわけです。ですから実際にマドンナと契約できた時は、とても驚かれると同時に、大変喜んでもらえました。ただし大切なことは、マドンナと契約できたから認知度が高まりブランド力が上がり、商品が売れるということではないことです。認知度が上がれば上がるほど商品力が重要になってきます。

 

 

 

 

 

 

ニューヨークでプレス発表したときもマドンナは「なぜMTGなのか?」という質問に答えてくれました。すごくありがたかったですね。ニューヨークの人たちからすると奇跡を通り越した奇跡とのことでした。マドンナもクリスティアーノ・ロナウドも金額では判断しない方です。私が可能性はゼロじゃないと思ったのは、2人ともベンチャースピリットのある方だったからです。クリスティアーノ・ロナウドも同じアプローチで、我々の熱意に賛同してくれた。2人とも革新的なものが好きで、デザインにもすごくこだわりがある。熱意だけでOKになるほど甘くない。商品と熱意がうまく掛け合って、奇跡が起こった。全責任を背負って経営をやる覚悟がある人であれば、誰もが無理だと言うことも実現できます。でも、マドンナとの契約は誰も信じてくれなかったですね。

 

 

 

 

 

 

 

技術を見る目は、常にフラットでフェアじゃないといけない、ということです。担当者が、『今使っている技術がいい』と思い込むのは危険です。すごいスピードで技術の進化が進んでいますから、今日この技術がいいと思ったものは1カ月後に変わると思った方がいい。

 

 

 

 

 

努力すればするほど、自分が携わってきたことに固執してしまうものです。でもそれは願望ではあって真実ではない。真実に向き合う勇気が必要なんですよね。次の日、さらにいいものがあったと、切り替えていける余地を持つことが大事です。妥協をすると、結果、消費者に最高のパフォーマンスの商品を提供できないのです。

 

 

 

 

 

 

経営はいろんなやり方があると思います。例えば、時間を買うという意味で、最初にお金を集めてビジネスモデルを実現していく方法もあれば、私なんかは小さな利益を積み上げていって、出た利益から投資をしていくというやり方です。大きく2種類あるとすると、どっちもありだと思います。これはその人が決めることであって、どっちじゃないといけないというのはないです。私の場合は泥縄式経営ですから、縄をつくってから泥棒を捕まえにいくのではなく、追いかけながらつくる。まさにそういう経営です。危なっかしいといえば危なっかしい。でも、それしか方法がなかった。それでもやれたことが大きかったと思っていますね。要は結果です。では、その思想が結果どうなったかといえば、それが資本政策に変わったんです。私は上場するときには強い上場をしたいと。経営者の資本比率が低くて、玉がなくなることがないように、強い資本政策でやっていきたいと考えて、我慢に我慢を重ねて耐えて、今の資本政策ができたのかなと。

 

 

 

 

 

 

 

企業は何のために存在するのか。収益をあげ、たくさん納税をし、収めた税金をたくさんの人々のために使っていただけるようにしたいと思っています。儲かればいい、ではなく、本当に世の中にとってプラスになっているのかを常に考えています。ついつい判断が鈍りそうになる時でも、この言葉を自分自身に言い聞かせています。

 

 

 

 

 

 

 

テレビのように、かつて日本メーカーがリードしていた業界も、今やアジアをはじめ海外勢が台頭しています。海外の企業がすさまじい情熱を持って日本にアプローチをした結果です。目の前でこの状況を見ていながら、何もせず見過ごすなんてとても出来ません。私はいまいちど、日本のものづくりを世界に発信していきたいと思っています。

 

 

 

 

 

日本の商品は、素晴らしい技術があっても認知度が上がらない、海外で戦えない、値引き合戦にまきこまれることがよくあります。そのためにマーケティングとブランディングが欠かせません。ここには技術開発と同じくらいエネルギーをかけています。弊社のブランド・商品には全てストーリーがあります。何故このブランド・商品が必要なのか?というところから徹底的に創りこんでいくのです。完成するまでのプロセスには数年かかることもあります。日本にはマーケティング、ブランディングが弱い会社が多いと思います。しかし冷静に技術だけを見ると決して海外に負けてはいません。例えば、日本の伝統工芸品を求める人は世界にたくさんいるはずです。伝統工芸品に対してブランディングとマーケティングを適確に行えばもっと売れるでしょうし、結果、地域の活性化にも繋がると思うのです。 地域のブランド価値を世界に売り込むべく、今、新たな商品の開発にも着手しています。

 

 

 

 

 

 

海外に行ったら日本の企業、特に新しい企業が驚くほどチャレンジしていません。先日ラスベガスで開催された家電見本市「CES2017」に行ってきましたが、あれを見れば将来の日本はどうなるのだろうと思います。そもそも圧倒的に出展社数が少ないです。中国や韓国よりもアグレッシブではありません。この状況が数年続くと日本は本当に取り残されていくでしょう。しかし私たちのような中小零細企業がグローバルにチャレンジしていこうとすると、大手と比べて経験も経営資源も少ない中でやっていかなければなりません。チャレンジしていくための行政施策があればと思います。特にまだ支援が手薄で、日本企業が財源投資するのが下手な、プロモーションのところで。例えば、海外の展示会やあらゆる広告媒体で日本の経済産業省枠を作り、経済産業省の審査に通った企業がそこで出展する、など。1社だけでは負担が大きいので、数社で分担するのです。行政と民間が一体になって、日本の価値をPRしていくべきです。私たちMTGは、日本の技術を結集して、グローバルでチャレンジしていく会社でいたいと思っています。

 

 

 

 

 

 

自分を鼓舞するといいますか、言霊じゃないですけど、言葉として言いつづけていくと、確率が上がると思うんです。言わないよりも有言実行のほうがやらざるを得ない環境になりますし、達成の確率が上がります。そういった意味では、小・中学生のころから近所のおばちゃんを捕まえて、聞かれてもいないのに、将来、会社の社長になるんだと言っていた。あれはよかったと思っています。当時は、こいつバカかという人たちも、だんだんと、松下だったらいけるんじゃないかと、少しずつ変わっていきましたから。

 

 

 

 

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