起業する時に言われた言葉とは?
辻庸介/株式会社マネーフォワード創業者
僕が起業する時にマネックス証券の松本さんに言われた言葉があります。
「確率論的にベンチャーはほとんど失敗する。お前のビジネスが成功するかしないかじゃなく、確率の問題だ。うまくいってほしいけど、失敗しても人生は続くし、ビジネスは続く。だから人を裏切ることだけはするな。裏切ったら復活できないぞ」と。
本当にそうです。
結局は人なんです。
辻庸介(マネーフォワード創業者)とは?
辻庸介。
1976年大阪府生まれ。
天王寺で育った。
学生時代はテニスに熱中。
1996年甲陽学院高等学校卒業、京都大学農学部に入学。
大学時代に大阪・難波に進学塾を共同で開いた。
2001年京都大学農学部卒業後、ソニー入社。
本社経理部にて、AIBO(アイボ)などの部門経理を担当。
2004年にマネックス証券に出向後、転籍。
2009年ペンシルバニア大学ウォートン校に留学。卒業時には、アメリカ人以外で唯一のCohort Marshall(クラス代表)に選ばれる。
帰国後COO補佐、マーケティング部長を経て、マネーフォワード参画のため退社。
2012年個人向け家計アプリと中小企業向け会計システムを販売するマネーフォワード創業。
2017年9月に東証マザーズに上場。
祖父はシャープ元社長の佐伯旭。
辻庸介(マネーフォワード創業者)の「コトバ」
大学時代は京大農学部でバイオを学んでおり、将来は研究者の道に進もうと思っていました。ところが、先輩が起業した大学進学塾を手伝っているうちに、ビジネスの方が面白いと思うようになりました。ま、ある面研究だとあまり出来がよくなかったというのもありまして、京大農学部の学生の大半が大学院に進む中、私は就職の道を選びました。
就職活動ではインターネットビジネスに携わりたいと考え、ソニーに入社したのですが、配属されたのは経理部だったので驚きました(笑)。それでも3年間は勉強をしながら経理の仕事を頑張ったのですが、社内公募でマネックス証券CEO室の募集があったので飛びついたんです。銀行との接点の少なさや、株式投資の敷居の高さなど、当時の金融サービスはユーザーとの距離があると、私自身も感じていました。“個人が主役となる金融サービスの実現”を掲げていた松本代表の考えに共感し、マネックス証券で仕事をしてみたいと思ったのです。
抜群に優秀な経営者である松本氏と共に働けた経験は、現在の糧となっています。あらゆる事柄に対する真摯な姿勢、部下の意見にも耳を傾ける柔軟な思考力、議論が行き詰まった時の新しい角度からの発想力、そして何よりハードワークで毎日の積み重ねに圧倒されました。ビジネスに一発逆転はないのだということを思い知らされましたね。
アメリカがいいなと思ったことは、常に逃げずにチャレンジしていると、みんなすごく評価してくれます。アウトプットではなく「チャレンジ精神」に関してです。だから英語ができなくても授業で何とか発言しようとするとか、チームでのディスカッション・ペーパーでなかなか貢献できないときに、他に貢献できることを必死に探し、自分が出来ることを少しでも広げていくことを必死にやっていました。
テクノロジーは世の中を大きく変える力を持っていると感じています。acebookは人々のコミュニケーションの在り方を変えましたし、クックパッドは献立に悩んでいた人々の救世主となりました。私も『お金に関する様々な悩みや不安を解消し、多くの人をハッピーにしたい』という強い想いから会社を始めました。新しいもの、価値のあるものを生み出していかないと社会は前進しません。日本でもトヨタやソニーが、新しいものを生み出すことで世の中を便利にし、日本を大きく成長させた。だから自分もそんなチャレンジをしたいと思ったのです。
上から評価されるってどこか嫌なイメージがあるじゃないですか。でも本来は、人のいいところを評価して、褒めて、課題を改善することが重要なわけです。奇麗事に聞こえるかもしれませんが、評価は人を成長させる仕組みのはず。だから、エバリュエーション(事後評価)ではなく、「マネーフォワードグロースシステム」と名づけて、成長につながるアドバイスをしています。
さまざまな人生において、お金の問題はすごく障害になっていると思う。例えば、お金のことを今後一生心配しなくてもいいと言われたら、何パーセントの人が今の仕事を辞めるのだろうとか、そんなことを考えていた。それぞれの家庭には教育費の問題や老後の不安があるし、中小企業の中には、融資を受けられさえすればもっと伸びるのにと思う会社がいっぱいある。
ソニーのマネジメントって世界で一番ぐらい難しいと思うんです。ビジネスポートフォリオがとにかく広いし、ソニーならば格好よく、イノベーションし続けて、先頭にいないといけないというプレッシャーがありますから。ソニーは本当に偉大な会社だと思いますし、ソニーのDNAは特別だなあと思います。スティーブ・ジョブズは盛田さんに憧れたし、ソニーのプロダクトの根底に流れる文化、アイデンティティにインスパイアされていた。僕が言うのも変ですが、ああいうプロダクトを作れる会社がソニーのほかにあまり出ていない。
完璧主義という点で言うと、例えば自動運転で人が亡くなった時に、あるアメリカの起業家は、自動運転のせいじゃない、統計的には通常の運転でも起こりえるミス、確率だと数字で説明した、と聞きました。アメリカだと、こういった新しいチャレンジに対するミスは比較的寛容です。でも、日本は何か一つミスをすると全力でたたきにいく。それはイノベーションを阻害するし、チャレンジする人をつぶしている気もします。
部下とよく話すと言っている上司って、仕事のやり取りをしているだけで一対一で真剣に部下の話を聞いているわけじゃない。だから僕は「上司はしゃべるな、部下の話を9割聞け」と言っています。でなければ、部下は話をしにくい。日本の古い企業になればなるほど「お前、言わんでも分かるやろ」という暗黙の了解もありますからね。
いままで語ることをよしとされなかったお金と正しく向き合うことで、多くの方の人生をより豊かにすることができる。いまでは、そう確信しています。
自分の意志決定は100%じゃないことが前提なので、現場に委ねることもあります。自分の意志決定のほうが成功確率的に高いかどうかだけで、結果が良ければいいんです。現場にいる人にしか感じないものもありますよね。でもそれも結果が出なければアウトです。僕は、それが意思決定をする人の責任だと思っていて、意思決定をするというのは、それだけの責任があり、それを分かった上で意思決定をしていると思っています。
新サービスは、自分でやりたいと思っている人に任せるのが一番良い。やらされても、能力は発揮されません。ただ、人に任せることの難しさは感じます。例えば、100の能力の人には120くらいの仕事を任せるべきで、200の仕事を任せたらうまくいかない。また、個人としては優秀でも、人を巻き込む力が不足しているときもあります。きちんと任せるためには、その人の特性をよく見極めなければなりません。任せる側の責任を痛感し、私自身、学ぶことはたくさんあります。
社内で一番能力や権限がある人は難しい事業に突っこむべきだと思っているので、取締役は全員早く(経営から)抜けるべきだと言っています。新しい事業を始める時は不特定要素が多い。役員にもよく言っていますが、リスクを指摘するのは役員でなくてもできるし、リスクがあるものはリターンも大きい。指摘じゃなくて、そのリスクをいかに減らしてやれるかの知恵を出せと。役員っていうのはそのための役割なんですよね。
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