アンジェス株式会社創業者、森下竜一:大企業が国民のニーズに答えられない理由とは?

アンジェス株式会社創業者、森下竜一:大企業が国民のニーズに答えられない理由とは?

 

大企業が国民のニーズに答えられない理由とは?

 

森下竜一/アンジェス株式会社創業者

 

 

基本的に日本の科学技術のレベルというのは非常に高いと思います。

ですがそれが患者さんに届かない。

その原因はベンチャーが少ないという事ではないかと思います。

ベンチャーでの成功事例を確実に積み上げて行って、単純に研究が大学で終わったり論文に終わったりせずに患者さんに届くという事例を作って欲しいです。

日本でも制度が整備されてきているので、担い手としてのベンチャーを育てなければと思います。

日本の多くのバイオベンチャーは何の為に研究しているかというと、自分が診ている患者さんを治したいというモチベーションがベースにあります。

大企業はやらないのです。

やれないと言った方が正しいです。

何万人・何千人という従業員がいますから1億円・2億円の薬なんて売っていたら赤字になりますから。

あるいは100億円でも今時は難しい。

そういった意味では日本の製薬会社が生き残る為には仕方がないのですが、本当は日本人が一番必要としている薬を作る会社というのが必要であり、それが国民のニーズなのです。

 

 

 

 

 

森下竜一(アンジェス創業者)とは?

 

 

森下竜一。

1962年生まれ、岡山県出身。

 

1987年、大阪大学医学部老年病講座大学院卒業。

1991~94年、米国スタンフォード大学循環器科研究員。

 

客員講師などを経て、1996年大阪大学医学部助手、老年病医学教室。

1998年大阪大学医学部 講師。

 

1999年に創薬を目的としたベンチャー企業、メドジーンバイオサイエンス社 (現、アンジェスMG社)設立。

2000年香港大学 客員教授。

 

2002年にアンジェスが大学発バイオ・ベンチャーのIPO第1号となる。

2003年大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学教授。

 

2013年、アンジェスMG取締役退任。

その他、今までに知的財産戦略本部本部員をはじめ、経済産業省構造改革審議会知的財産部門委員、文部科学省学術科学技術・学術政策審議会委員などを兼任。

 

内閣府規制改革推進会議委員、内閣官房健康医療戦略室戦略参与、2025大阪・関西万博具体化検討会委員を兼職。

受賞は「Harry Goldbratt賞(アメリカ高血圧評議会)」「日本医師会研究奨励賞」「日本循環器学会佐藤賞」など。

 

 

 

 

 

 

森下竜一(アンジェス創業者)の「コトバ」

 

 

 

祖父母から代々医者家系で育ちました。しかし、実は高校時代はあまり医者になる気はなく、どちらかと言えば官僚を考えていました。文系に行こうかと思っていたのです。しかし親に『医者になっても厚生省に入れるよ』などと説得されました(笑)。確かに医者というのは人を救い、感謝されるやりがいのある仕事ですから受け入れ易くはありました。ただもう少し別の世界も考えられるかな、という感覚で興味を持っていたのです。ただ最終的には・・・医者になりました(笑)。

 

 

 

アメリカは、実力主義だということもあるのでしょうが、まず目的意識が明確です。研究を通して何をすべきか、それで患者が良くなるかというその1点に尽きます。それは非常にシンプルです。いかに患者の役に立つか、その為に研究がどういう方向に還元できるかを考え、それが制度として整っているのです。現在日本でもそのような方向性に進みつつありますが、元々日本では研究が患者から離れていてもいい、下世話なことに左右されない方がいいという考え方がありました。そうではなく、アメリカでは医学部の研究は患者さんに還元されて初めて成り立つというシンプルですが、重要な原則が非常に勉強になりました。

 

 

 

 

元々アンジェスMGではなく、その母体になる会社がありました。メドジーンバイオサイエンスという会社でした。今のアンジェスMGのMGというのはメドジーンの名残りです。最初は糖尿病や高血圧で足が腐ろうとしている閉塞性動脈硬化症の末期の患者さんを治そうとして始めた研究でした。基礎研究の後には実際の治療を始めたのですが、患者さんに試す治療だけが結果ではない、これをぜひ薬にしたいと思いました。しかし、遺伝子治療薬を作るのにかかる費用は一人につき数百万かかるのです。それを一体誰が負担するのでしょうか。効果があったらそのお金を患者から頂くのでしょうか、それとも無料であるべきなのでしょうか。今の日本の制度では、研究費で賄えなくなると患者から頂くしかありません。しかし副作用が出ても当然保険の対象になるわけではありませんし、科学的にも実証されておりません。研究した、という意味ではいいのでしょうが、自己満足の部分が非常に強く、それを本当の意味で患者に還元するには、薬にするしかないと思いました。薬になれば、保険でカバーされますし、何かあっても補償されます。その点はアメリカでは非常に確立されており、研究の最終的な形というのは再現できることであるという考え方が徹底しています。再現されるというのは、皆が使ってみて効くか、薬になるかどうかという事です。そういう意味で考え方の根本が非常にシンプルなのです。そして我々もそういう風にしたいと思い、何か出来ないかと思いました。

 

 

 

 

私がアメリカに居た頃に最初に研究していたのは、再狭窄という血管を風船療法で広げた時に再度詰まる現象を治療しようとする内容でした。バルーンを入れたときに30%~40%の確率で血管が詰まるというのが、当時の状況でした。今は薬剤溶出ステントというのが出来て大分減ったのですが。その再狭窄防ぐ為に遺伝子を使うという研究をアメリカでしていて、それがアメリカのベンチャー企業に導出されて臨床試験まで入ったのです。 更に、血管の詰まった状態を広げるだけではなくて、血管そのものを作れないかという事に発展していったわけです。

 

 

 

ちょうど私が日本に帰るので、帰国後に何かできることはないかと考えました。帰国後、特許がしっかりしているものじゃないと将来発表出来なくなる可能性があると考え、日本に特許があるものを何か使って出来ないかと探していました。そこで、新しい物質を含めて血管が再生出来る物質を探していたのです。するとたまたま肝臓を再生する物質として日本で見つかったHGFが血管を再生することが、わかりました。HGFは日本に特許があるし実現できるのではないかと取り組みました。

 

 

 

 

 

ムコ多糖症Ⅵ型という難病の治療薬で薬自体はアメリカで開発された薬だったのですが、日本でこれを売っている会社がありませんでした。ムコ多糖症というのは先天性の遺伝病で、基本的にはムコ多糖の分解酵素が欠けています。この事によってコラーゲンの一種が異常に沈着し、関節の障害が出たり大きくなれなかったり、最後呼吸が出来なくなって早く亡くなるというものなのですが、酵素を補充してやれば問題ありません。早くから投与して効果が出れば障害も生じず長生きが出来ます。アメリカでは薬があるのですが、日本には患者さんが非常に少なく、どこの製薬会社もやらなかったのです。

 

 

 

 

 

アンジェスは元々、「アンジェ(ange)」がフランス語で「天使」という意味なのです。自然界からの贈り物である遺伝子を利用して患者さんに画期的な薬剤を届けましょうという意味です。ですから、やはり患者さんあってアンジェスの会社があるというのがスタンスなのです。他の会社がやらなくて患者さんが困っているのであれば、我々はまだ小さい会社で大きな利益が出なくてもやっていけるので、引き取りましょうという事になったのです。

 

 

 

 

遺伝子治療の研究を進めていくには遺伝子に関する基礎研究にとどまらず、細胞の働きを観察、分析する技術など広く周辺領域の技術を高めることが必要。また、臨床にしても薬の製造から診断、トレースまですべてにおいてイノベーションが求められています。

 

 

 

 

これからの医療を考えた時、まずデバイスと薬の融合が重要なテー マです。それとともに高分子医薬品が重要になっていきます。こうした潮流を先取りするには従来の研究手法は通用しないのではないか、と考えます。特に臨床に持ち込むハードルは高いものがあります。例えば、核酸医薬の薬剤ステントにしても、これからの医療を担う一つといえますが、デコイオリゴが血管内部のどこまで入り込むのか、といった観察が重要です。できればin vivo(人体内)でしかもリアルタイムに観察する技術が求められています。

 

 

 

 

 

研究成果を出して外部の評価を得てこそ、研究者は次にステップアップできるわけです。競争的資金を得るという観点からも、正しい目標設定の方法と目標にたどり着くまでの手段を教えるように努めています。

 

 

 

医療技術をみると、従来のアプローチからの進歩はそろそろ限界に近づいています。創薬のあり方を含めてイノベーションが必要なのです。しかし、製薬メーカーは従来の創薬の仕組みに適応しすぎていて、既成概念から脱するのに苦しんでいるように思います。一方、大学側は基礎研究面で良いものを生み出しているにも関わらず、創薬としての芽を伸ばしきれず、実用化になかなかこぎ着けられないのが現状です。こうした現状を打開するには、大学の役割がますます重要になっていて、より戦略的な研究を行っていく必要があります。

 

 

 

日本人はやはり副作用のない薬を使いたいという思いが強い。特に顔は女性と子供は非常に気にされます。それはやはり日本人的な要求・ニーズでなのですね。また、日本人に多い病気というのも非常に多いです。そういうものに対して薬を作る仕組みというのがなくなってきています。大手の企業は海外で治験をやります。それは企業論理的には正しいのですが、日本で出来た会社としては正しいやり方なのかな、と思います。

大学は先端技術を教える場であったのですが、日進月歩の時代にあっては先端といってもせいぜい半年程度のリードでしかありません。どんな技術でもすぐに陳腐化する現在、技術だけを教えればよいという時代ではありません。

 

 

 

 

日本の起業レベルは負けている訳ではなく、制度が追いついていないだけなのです。「新しい事業を始めたいという人や新しい仕事をしたいという人をどう評価するか」という質問があると、アメリカ人などは90%くらい評価すると答え、ヨーロッパでも80%です。でも日本は8%程度なのです。新しいことをしようとする風土が日本にはなかなか根付きません。世界の一流国でいたければ、そういうことをしていかなければならないと思います。

 

 

 

 

何か新しいことを成し遂げるには、それを証明する価値を世界のどこよりも早く生み出していく必要があり、私たちの研究は時間との戦い。

 

 

 

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