“非競合の戦略”とは?
大野智弘/Kudan創業者
Kudanは創業以来“非競合の戦略”を取り続けています。
要は独占の戦略ですね。
いかに他社と競合せず、新しい市場にいち早く降りていくかということを考えてきました。
我々がARアプリの開発をし始めた時には、同業はほとんどいませんでした。
だからこそ、大手のクライアントが我々を選択してくれたのです。
その後、ARアプリの世界に他社が参入してきて、だんだんと市場が混雑してきたと感じたので、我々はそこから下の層、つまりエンジンの世界に降りました。
そして今、エンジンからアルゴリズムの世界に入ってきています。
技術の世界のイメージは、逆さピラミッドのようなものです。
根幹に近い技術になればなるほど、その技術を使った製品の数や種類は増えていきます。
深堀りしていくほど、横展開できるようになるのです。
ですので、いかに深く掘り下げ、そして広げていくかということが、今後の我々の戦略になります。
大野智弘(Kudan創業者)とは?
大野智弘。
1993年、横浜国立大学経営学部卒業。
大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。
コンサルタントとして東南アジア、アメリカ、ヨーロッパにてコンサルティング業務に携わる。
8年程勤めた後退職し、2001年、イギリスでゲームのパブリッシング会社を設立(役員として就任)。
数年後に会社をエグジットし、2011年にイギリスのブリストルでKudan Limitedを創業、2014年に日本でKudan株式会社を設立。
英国を拠点として欧州・米国等各国に向けたAR/VR/MRのコア技術であるエンジン及びプラットフォームの開発と提供等を行う。
2014年日本法人であるKudan株式会社を設立し、同社代表取締役CEOとして就任。
2018年12月東証マザーズに上場。
Kudan Limitedが独自開発したARエンジン(Kudan Engine)は世界的大企業を始め、多くの企業に採用され、ヨーロッパで数々の賞を受賞するなど、AR技術のリーディングカンパニーとして各方面から注目されている。
大野智弘(Kudan創業者)の「コトバ」
創業時はゲームのライセンス管理を行っておりました。その中でARに出会ったのがきっかけでAR事業を始めることになったのです。当初は、他社製のAR技術をアプリに応用していましたが、技術の稚拙さに加えビジネスモデルに対しても不満があり、それならば自分たちで作ろうと、開発に乗り出しました。その不満を解消することができれば、大きなビジネスになると考えたからです。また、他社の技術を使っていた時から、エンジン部分にはかなり自分たちで手を加えていましたので、開発といってもコアを作るだけでした。そのため、開発スピードの点でも他社に比べて優位に立てたと思います。
もともとKudanはARアプリ開発をしていました。エンジンとしてVuforiaを使っていたのですが、大きな会社だからか対応が遅く、バグ修正に2年かかったこともありました。われわれKudanの顧客にはAudiとかBBC、Dysonといった大企業もいて彼らの厳しい要求に応えられないことがあったんです。このままエンジン部分を他社に頼っていると危ないということで自分たちでARエンジンを作り始めたのが2013年ごろです。
ハードウェア開発でもないし、B2Cでもないので数百億円も要りません。天才が何人かいればいいんです。エンジン開発は人をたくさん入れても品質が良くなったり、開発が速く進んだりもしません。
フォードの例ですと、フォードマスタングという車を、自分の家の駐車場の前に実物大で見せられるアプリに使用されています。また、家具メーカーでは、家具を実寸大で部屋に表示させる目的で使われています。ただ、弊社はシミュレーションツールを目標として、技術を開発しているのではありません。我々の技術の使用方法は、ユーザーや開発者が持つ要望によって異なります。ですので、Kudanの技術で何ができるのかということは、具体例に限ったことではなく、使用する人たちによって様々に変化していくと言えます。
ARは要素技術です。要素技術は、その技術を使った企業のブランドを高めるために使われるもので、技術自体のブランドが表に出る必要はないのです。ですから、一般消費者の方の認知度を上げるということはあまり考えていません。現在、ゲーム開発会社やアプリ開発会社の開発の人たちの中で、弊社の認知度というのはそれなりに向上してきているかと思いますので、今後もこういった方々を対象としていきたいと考えています。
(SLAMは)応用範囲は広い。3次元認識を必要とする、あらゆる機器の『目』として使われる。当社の場合は日本、米国、イスラエルの企業と研究開発を進めている。日本では自動運転やロボット技術で数社と研究開発中だ。海外では、例えばスウェーデンのエリクソンとは第5世代移動通信方式(5G)でSLAMを使い何ができるのかを研究している。スマートフォンにSLAMが入ればカメラで対象物の奥行きや自己位置が精密に認識でき、それを使った機能の進化が期待できる。イスラエルの企業とは、SLAMを使った画像認識技術のチップ化に取り組んでいる。
半導体業界では、新たなソフトウエアが出てきた場合、まず既存の中央演算処理装置(CPU)にソフトを搭載し、需要が出てくると専用のコンポーネントが入ることとなって、次にワンチップ化するのが流れになる。SLAMはやっとコンポーネントになってきたところだ。イスラエルの企業はワンチップ化してAR(拡張現実)やVR(仮想現実)、飛行ロボット(ドローン)などのロボット、自動運転車などへの組み込みを狙っている。当社のSLAMはハードや基本ソフト(OS)を問わず何でも動く。この汎用性が今後、さまざまな機器が作った3次元地図を別の機器が使って精度を高める、といった時代になったとき非常に有利だ。
SLAMは要素技術であり他の技術と組み合わせは可能だ。赤外線レーザースキャナー『ライダー』などのセンサー類を使えばカメラでは認識できないものを3次元地図にできる。人の目を超える機能が獲得できることになる。AIは現在当社は使っていない。だが、SLAMで認識した画像からAIが何かを認識するといったことや、カメラが撮った画像から認識に不要なものを省くノイズ除去にAIを使う、といったことはできそうだと考えている。
Kudanの最大の強みというのは、先進的な技術を取り入れ、“次世代に行くための準備”をしているという点にあります。デバイス類の進化のスピードは凄まじいものがあります。1年後、2年後の状況もわからない程、この分野における技術の進歩は速く、予想をすることが困難です。弊社では今、携帯やタブレット向けの技術をメインに提供していますが、開発の段階では高性能のカメラとプロセッサを搭載する端末向けにエンジンを作ります。それをわざわざ機能を削り、ダウングレードして現在の携帯やタブレットのスペックに合わせているのです。そうすることで、今後、一般の消費者が今より高機能なスマートフォンを手にした際に、対応できるだけの余地を残しているのです。現段階のデバイスや技術に依存していたら、次に登場するハードでは動かせない可能性がありますからね。“見えない変化への担保”こそが、競合よりも圧倒的優位に立てるKudanの武器だと考えています。
AIが脳でわれわれは目だ。目と脳がともに働く必要がある。
次のグーグルになりたいとは思わない。
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