クルマの味つけ3つの味
豊田章男/TOYOTA代表
私が考えるクルマの味つけには先味、中味、後味の3つの味があります。
先味は、そのクルマを見たときにオーラのような衝動を感じて「ああ、乗ってみたいな」という感覚です。見た目のデザインや広報宣伝などの刺激も先味の一種です。
中味は、実際に乗って運転した感覚です。たとえば、カーブを曲がるにしても、ドライバーがこっちに曲がりたいなと思う方向に気持ちよく曲がってくれる。まさに快感、快適な乗り心地のよさです。
後味は、乗り終わったあとも乗り心地のよさの余韻が続き、「もっと乗っていたい、もう一度乗りたい」という感覚です。
先味、中味、後味の三拍子揃ったクルマこそが本物のよさにつながります。
これは、本物の美味しい料理を食べることと同じです。
豊田章男とは?
豊田章男。トヨタ自動車社長(第11代)。愛知県出身。
慶應義塾大学法学部卒業、米国バブソン大学経営大学院でMBAを取得。
その後、米国の投資銀行A.G.ベッカー勤務を経てトヨタ自動車に入社。
生産管理や営業の部署で成果をあげたのち、GM(ゼネラルモーターズ)との合弁会社NUMMI(ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング・インク)副社長、トヨタ自動車取締役、常務取締役、専務取締役、副社長などを経て社長に就任。
そのほか、日本自動車工業界会長などを務めた。
また一人の車好きとして『モリゾウ』を名乗り、モータースポーツやマスメディアに登場することでも知られる。
・曽祖父 豊田佐吉(トヨタグループ創祖)
・祖父 豊田喜一郎(トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)創業者)
・父 豊田章一郎(トヨタ自動車名誉会長)
厳選!豊田章男の珠玉名言
時間を見つけては現場に顔を出して「もっと楽しいクルマをつくろうよ」と呼びかけています。
私には「お坊ちゃま」「三代目」「苦労知らず」といった、あまりよくないイメージがあるようです。そうなると、どうしても皆さん距離をとられます。さらに、名刺に「代表取締役社長」なんて印刷されていると、なおそのイメージを強くしてしまう。ところが、名刺の代わりにあのシール(モリゾウシール)を差し出すと、国や年齢を問わず、「何、これ?」という反応とともに、ほとんどの方が笑顔をくださるのです。私はそれがものすごくうれしい。大将は笑顔でいないといけないと言われるものの、笑顔でいるためのモチベーションと栄養剤がなかったのです。それが、モリゾウシールによって皆さんから笑顔をいただけて、自分が笑顔でいられるエネルギー源になりました。そういう意味で、たかがシールですが、たいへん感謝しています。
次の社長に会社を渡すとき、畑にはまだ耕す部分もあれば、種をまいたばかりの場所、収穫を間近にした場所、収穫がちょうど終わった場所もある。そんなバランスのいい状態で渡したい。目の前の結果を追い求めて刈り取ってばかりだと、荒れた畑しか残せなくなります。
「アフター改善はビフォアー改善(改善が終わっても次の改善点が常にある)」をトヨタは続けている。我々は日々、改善に取り組んでいく。昨日まではこれがいいと思ってやっていても、違っていたらまた変えればいい。それを絶えずやり続けている。
人間は誰しも少し見栄を張ったり、かっこよく見せたいという心理があります。そういう意味でクルマというのはたんなる工業製品ではなく、乗る人にステータスシンボル的な満足を提供してきた商品といえます。だからこそ、「ワクワクしなければクルマじゃない」「楽しくなければクルマじゃない」というエモーショナルな満足感が求められるのです。
私がこだわっているのは「開発者は、Wow(ワオ)と言わせてごらん」ということ。例えば、新型車を開発する際に、通常はスペックが良くて、馬力を上げて、操舵性も向上させることを目指します。でもそれだけでは足りない。デザインでも、乗り味でもなんでもいいのでWowと言わせてほしい。「クルマって、こんなにすごくなっているんだ」と思わせるものを求めています。
厄介なのが成功体験です。世の中は変わったのに「以前はこれで成功した」とか「なんで変えるのか」と言い出した途端、成長は止まります。
競争相手とルールが大きく変わろうとしている。建設的破壊と前例無視が必要だ。
何が起きるかわからない激動の時代。だからこそ、変えてはいけないブレない軸と、未来のために今を変える覚悟を持つべきだ。
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