■EUでは輸入禁止、米国産「ホルモン牛」に発がんリスクの危険
女性自身 2019/10/02
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目前に迫った日米貿易協定の締結。じつはこの協定によって、日本の食と安全が危機的状況に追い込まれる。
特に懸念されるのが“ホルモン牛”によるがん激増のリスクだ。
「今回の日米貿易協定は、米国が欲しいものだけを取って、日本は失うだけの結果に終わりました。トランプ大統領は日本に対し、現在2.5%の自動車の輸出関税(乗用車)を“25%まで引き上げる”と脅してきました。日本はそれを避けるために“それ以外のことはすべて受け入れます”という交渉をしてしまったのです」
こう語るのは、『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』(文藝春秋)の著者である、東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授だ。
’15年、日本と米国を含む12カ国で合意した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)。
’17年にトランプ大統領が誕生したことで、米国は一方的にTPPを離脱し、日本に2国間の貿易協定を結ぶように迫ってきた。
「すでに発表されている日米貿易協定の合意内容によると、米国産牛肉にかけられている関税を現行の38.5%から段階的に9%まで引き下げられることになります。さらに、豚肉は低価格品の従量税を現行の1キロ482円から段階的に50円まで下げ、高価格品の関税は現在の4.3%から最終的には撤廃されます」(鈴木教授)
政府は日米貿易協定の内容が「TPP水準」であることを強調しているが、TPPに盛り込まれている自動車の関税の将来的な撤廃は見送りに。
さらに、中国との関係悪化で、米国内でだぶついているとうもろこし250万トンを購入させられるというオマケもついた。
まさに日本は一方的に“失うだけの結果”に終わったのだ。
「貿易交渉では農林水産省は完全に排除されました。今の安倍政権を裏で動かしているのは経済産業省。自分たちの天下り先である自動車、鉄鋼などの関連産業を守り、利益を増やすためだけに、食料や農業分野を米国に差し出してしまったのです。ほかにも乳製品、小麦、大豆など、米国産農産物への市場開放が一層進むことは避けられない事態になっています」(鈴木教授)
米国産牛肉の関税が大幅に引き下げられると、これまで以上に輸入量は増え、低価格の米国産牛肉が国内市場で大量に売られることになる。
そこで懸念されるのが、“ホルモン牛”問題だ。
ハーバード大学の元研究員で、ボストン在住の内科医である大西睦子さんが解説する。
「1950年代から、米国のほとんどの肉牛にエストロゲンなどのホルモン剤が投与されています。これらのホルモンが、牛肉に残留していた場合、発がん性が懸念されるのです。とくにエストロゲンの一種、エストラジオールの発がん性については、乳がん、子宮内膜がん、卵巣がんのリスクを上昇させることが、疫学的に証明されています」(大西さん)
米国ではじつに90%以上の肉牛に“肥育ホルモン剤”と呼ばれるホルモンが投与されているという。
この薬剤を使うと牛は早く太り、普通に飼育した牛よりも数カ月も早く出荷できる。
肥育ホルモン剤は日本国内で育てられる肉牛には使用されていないが、これを使用した牛肉はすでに米国内から輸入されており、市場に多く出回っている。
環境・食品ジャーナリストの天笠啓祐さんが語る。
「肥育ホルモン剤が牛肉に微量でも残留したまま体内に取り込まれると、内分泌系がかく乱されて、さまざまな健康被害が起きやすくなる危険性があります。自律神経系や免疫系にも影響を及ぼす。とくに危険性が指摘されているのが、乳がんです」
ヨーロッパでは、’88年に当時“成長ホルモン剤”と呼ばれていたこれらの薬剤の使用を禁止。
’89年からはホルモン剤が使用された牛肉の輸入を全面禁止した。
「EUは今でも輸入禁止です。米国も圧力をかけていますが、危険性が疑われるものは輸入しないという方針を貫いている。だから米国にとって日本は、いい市場だということです」(天笠さん)
“米国産ホルモン牛”の輸入を禁止してから7年で、EU内で乳がんの死亡率が、多い国では45%減ったという研究報告が学会誌に出たこともある(アイスランドはマイナス44.5%、イングランド・ウェールズはマイナス34.9%、スペインはマイナス26.8%、ノルウェーはマイナス24.3%)。
’09年、日本癌治療学会で「牛肉中のエストロゲン濃度とホルモン依存性癌発生増加の関連」という研究発表が話題になった。
市販の和牛と米国産牛のエストロゲン残留濃度を計測して比較。
その結果、赤身部分で米国産牛肉は和牛の600倍、脂身では140倍のエストロゲンが残留していることがわかったのだ。
調査を行った、北海道対がん協会の理事兼細胞診センター所長・藤田博正さんが振り返る。
「数値が出たとき、EUが米国産牛肉を輸入禁止にしている理由がわかりました。牛肉のエストロゲン濃度と、がんが直接関連するかどうかは、まだわかっていないことが多い。しかし、発がんリスクを高める要因となる可能性があり、安全性が証明されていない以上、私は米国産牛肉を食べないことにしています」
肥育ホルモン剤が使われていない国産牛肉や豚肉を食べればいいと思うかもしれないが、現在国産牛肉の自給率は36%、豚肉は48%と、国内生産は年々減少傾向である。
前出の鈴木教授は、関税の引き下げで自給率はさらに下がると警鐘を鳴らす。
「私の研究室では、このままだと’35年に牛肉の自給率が16%。豚肉の自給率は11%にまで下がると試算しています。このまま自給率が下がれば、スーパーなどの食品売場には、輸入品だらけの状態になるでしょう」
牛肉、豚肉に限らず、安全な食品が“ほとんどない”状態が目前に迫っているという。
「米国の乳製品もこれから国内にどんどん入ってきます。米国の乳牛には、エストロゲンとは別の遺伝子組み換えのホルモンが投与されています。このホルモンも、乳がん発症リスクを何倍も高めるという論文があります。輸入が増えれば、国内の生乳、乳製品はますます売れなくなり、酪農家が廃業に追い込まれる。すると、国産のものが減り、米国産の乳製品がさらに市場を席巻することになりかねない」(鈴木教授)
私たち消費者はどうするべきなのだろうか。
「まず、今後も続いていく日米の貿易交渉の実態を知ること」だと、鈴木教授は言う。
“自動車”と引き換えに、これ以上“食の安全”が売り渡されないために、米国との交渉を国民が注視していく必要があるのだ。
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EUでは輸入禁止、米国産「ホルモン牛」に発がんリスクの危険
女性自身 2019/10/02
https://jisin.jp/domestic/1781713/
■【安倍政権】日本は見下された国 米国が食の安全に配慮するわけがない
日刊ゲンダイ:2019/12/27
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以前、中国で農業指導したことのある日本人にこう言われたことがある。
「食の安全とは、生産者が消費する人を好意的に見ているか嫌悪しているかの違いだと思っています。嫌悪していたら毒を入れても平気です。中国人は日本人を嫌いだし、信用していません。アメリカ人は日本人を見下しています。だから、汚染された土壌で作られたものでも平気で売るのです。輸入食品なしに日本人の食生活は成り立ちませんが、私はできるだけ中国産とアメリカ産は食べないようにしています」
農業の生産現場を知る当事者の言葉だけに、重い。
見過ごせないのは、米国の生産者が、日本のことを好意的には見ていない、見下しているということだ。
これは多くのの人が、納得できなくとも、否定はできないだろう。
沖縄の基地問題や不平等な日米地位協定を持ち出すまでもない。
今回のホルモン剤入りの安い牛肉の輸入拡大問題の核心もここにある。
アメリカの牛肉生産者は別に日本人の食の安全などに気を使っていない。
もともと牛肉の大量生産地であるテキサス、ネブラスカ、カンザス、アイオワ、コロラド州などの中西部や南部は、白人の優越感が強く、日本人などの黄色人種に対しては、逆立ちしても好意は持っていないと考えていい。
大量生産で余剰気味のホルモン入り牛肉を買ってくれる国があればそれでいいし、販売市場を拡大したトランプは「できる大統領」なのである。
米国の牛肉から、国産牛肉に比べて600倍もの肥育ホルモンが検出されたというのに、国は最新の機器で正式に検査していない。
検査すれば日本が禁止している合成ホルモンも出てくるだろうといわれているのだ。
国民の健康を守るには、安全面の強化をアメリカの生産者に求めるべきだが、それには安倍首相が国民を代表して声を上げるしかないだろう、しかし、これもまた、逆立ちしてもあり得ないことだ。
となると、食の安全は日本人消費者が自分で守っていくしかない。
政府には何も期待できないだろう。
とはいっても、今や日本の輸入食料の25%が米国産であり、国別ではトップだ。
牛肉や豚肉に限っても、敬遠すれば済むという問題ではない。
とりわけ困るのは、加工されて、見えない形で日本人が口にする多くの食べ物にも含まれていることだ。
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【安倍政権】日本は見下された国 米国が食の安全に配慮するわけがない
日刊ゲンダイ:2019/12/27
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/266859
■TPP、危険な海外食材が大量輸入&流通の恐れ 発がんリスクある米豪牛肉、検疫率は1割
Business Journal(2015/10/11)
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環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉が、大筋合意に至った。
9月30日からアメリカのアトランタで行われた、参加12カ国による閣僚会合は、当初2日間の予定を大幅に延長し、10月5日に交渉の大筋合意が発表された。
現地で交渉にあたった甘利明内閣府特命担当大臣からの報告を受けた安倍晋三首相は、「TPPは、価値観を共有する国々が自由で公正な経済圏をつくっていく国家100年の計である」「交渉の結果、農業分野において、米、牛肉、豚肉、乳製品といった主要品目を中心に、関税撤廃の例外をしっかりと確保することができた」と語った。
今回の合意では、医薬品のデータ保護期間が実質8年間となり、自動車ではアメリカで日本車にかかる関税が25年かけて段階的に撤廃されることなどが決定された。
農業分野を見ると、コメで日本はアメリカに対して従来の関税を維持する一方、新たな輸入枠として年間最大7万トンの枠を設け、オーストラリアとも同8400トンが設定される。
また、牛肉の関税は段階的に引き下げられ、現在の38.5%が協定発効から16年目以降は9%になるほか、バターと脱脂粉乳については生乳換算で6万トン、6年目以降は年間最大7万トンの新たな輸入枠が設けられる。
いずれにせよ、海外からの食材の流通が拡大することは間違いなく、一部では「危険な食品が日本に入ってくるのではないか」という懸念もある。
「TPPは、日本の食の安全に重大な脅威を与える」と指摘するのは、フリーライターの小倉正行氏だ。
「TPPにより、日本の関税撤廃率は95%にも及び、アメリカをはじめとする海外から低価格な食品の輸入が急増することになります。特に、ホルモン系のがんの原因ともいわれる成長ホルモン剤が大量に使用されたアメリカやオーストラリア産の牛肉は、関税が大幅に下げられたことによって、大量に流通することとなり、私たちの健康に大きな影響を与えるでしょう。また、輸入食品の検疫を行っている食品衛生監視員は、全国に406人しかおらず、検査率はわずか1割です。つまり、9割の輸入食品が検疫なしで流通しているわけです。このような状況下で輸入食品が急増することは、まさに食の安全の脅威といえるでしょう」(小倉氏)
・食品の安全基準、規制緩和の恐れも
さらに、小倉氏は税関の通関体制についても言及する。
日本はTPPによって48時間通関が義務化されるが、それが輸入食品の安全性確保に大きな影響をもたらすというのだ。
「動植物検疫や食品検疫の対象となる貨物について見ると、輸入手続きの平均所要時間は92.5時間です。それを48時間にするために、食品安全基準の規制緩和などを行って時間を短縮せざるを得ないわけで、輸入食品の安全性に重大な影響を与えることは明らかです。また、TPPによってISDS(投資家と国家間の紛争解決)条項も導入されるため、TPP参加国を多国籍企業が訴えることが可能となります。これによって、例えばアメリカの多国籍企業が、日本が食品の安全性や国民の健康を確保するために行った措置に対して、『損害を被った』と訴訟を起こす可能性があります。日本政府がそれを恐れて、規制などに消極的になるということも十分に予想できるわけです」(同)
今後、TPPは各国の批准を経て発効という流れになる。
日本が交渉に参加してから2年余りで大筋合意となったTPPだが、国益にかなうものになることを願うばかりだ。
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TPP、危険な海外食材が大量輸入&流通の恐れ 発がんリスクある米豪牛肉、検疫率は1割
Business Journal(2015/10/11)
https://biz-journal.jp/2015/10/post_11904.html
■日本の食と農が危ない!―私たちの未来は守れるのか(中) 東京大学教授・鈴木宣弘
長周新聞 2021年1月22日
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【鈴木宣弘(すずきのぶひろ)東京大学教授】
1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業。農学博士。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より東京大学教授に就任。専門は農業経済学。日韓、日チリ、日モンゴル、日中韓、日コロンビアFTA産官学共同研究会委員などを歴任。『岩盤規制の大義』(農文協)、『悪夢の食卓 TPP批准・農協解体がもたらす未来』(KADOKAWA)、『亡国の漁業権開放 資源・地域・国境の崩壊』(筑波書房ブックレット・暮らしのなかの食と農)、『だれもが豊かに暮らせる社会を編み直す 「鍵」は無理しない農業にある』(同)など著書多数。
・農協改革の目的は「農業所得の向上」ではない~外資が狙う150兆円の資産
農協改革の目的が「農業所得の向上」というのは名目で、①信用・共済マネーの掌握に加えて、②共販を崩して農産物をもっと安く買い叩きたい企業、③共同購入を崩して生産資材価格を吊り上げたい企業、④JAと既存農家が潰れたら農業参入したい企業が控える。規制改革推進会議の答申の行間は、そのように読めなくもない。
だから、「農協改革」という名目の農協解体と、JAみずからの自己改革は、峻別して考える必要がある。
農家や地域住民にいっそう役立つための徹底的な改善を図る自己改革は不可欠だが、先方(解体を目論む側)にとってはどうでもいいことで、農業所得向上に向けた、優れた自己改革案を出せば乗り切れるというのは見当違いである。
准組合員規制を人質にして「どちらを選ぶか」と言われて、順に要求を呑まされていったら、気が付いたら何も残っていない。
「傷が浅いほうを呑む」たたかいを続けていては、先方の術中にはまり、やがては、なし崩し的に息の根を止められる。共販から買取販売に切り替えていく数値目標を決めて政府に報告しないといけない理由がどこにあるのだろうか。
そもそも、こうした要請は憲法22条と29条に基づく「営業の自由」に抵触するので本来は拘束力を持ちえない。
①については、郵政解体の経緯を振り返るとわかりやすい。
米国の金融保険業界が日本の郵貯マネー350兆円の運用資金がどうしてもほしいということで、「対等な競争条件」の名目で解体(民営化)せよと言われ、小泉政権からやってきた。
ところが、民営化したかんぽ生命を見て米がん保険のA社から「これは大きすぎるから、これとは競争したくない。TPPに日本が入れてもらいたいのなら、『入場料』としてかんぽ生命はがん保険に参入しないと宣言せよ」と迫られ、所管大臣はしぶしぶと「自主的に」(=米国の言うとおりに)発表した。
それだけでは終わらず、その半年後には、全国の2万戸の郵便局でA社の保険販売が始まった。
さらに、それだけでは終わらなかった。
最近、かんぽ生命の過剰ノルマによる利用者無視の営業問題が騒がれた。
その少し前、日本郵政がA社に2700億円を出資し、近々、日本郵政がA社を「吸収合併」するかのように言われているが、実質は「(寄生虫に)母屋を乗っ取られる」危険がある。
かんぽ生命が叩かれているさなか、「かんぽの商品は営業自粛だが、(委託販売する)A社のがん保険のノルマが3倍になった」との郵便局員からの指摘が、事態の裏面をよく物語っている。
要するに「市場を全部差し出せば許す」ということだ。
これがまさに米国のいう「対等な競争条件」の実態であり、それに日本が次々と応えているということである。
郵貯マネーにめどが立ったから、次に喉から手が出るほどほしいのは、信用・共済あわせて運用資金150兆円のJAマネーである。
これを必ず握るまで終わらないというのが彼らの意思である。
米国は、日本の共済に対する保険との「対等な競争条件」を求めているが、保険と共済は違うのだから、それは不当な攻撃である。
相互扶助で命と暮らしを守る努力を国民に理解してもらうことが最大の防御である。
准組合員の利用規制は法律に抵触する。
農協法12条の「組合員資格」では、准組合員は正組合員とともに「組合員」を構成しており、議決権は付与されていないが事業利用権は付与されている。
さらにICA(国際協同組合同盟)宣言は、自主的で開かれた組合員制(第1原則)、地域コミュニティの持続可能な発展に努めること(第7原則)を掲げている。
つまり、准組合員やそれ以外の地域住民全体への貢献をめざすのが協同組合の真髄なのであって職能組合であるべきという論理とは相容れない。
農があって食が提供できて地域のみなさんの暮らしも成り立つ。
その地域のみなさんにも信用事業や共済事業を利用してもらうことで、そこに集まってくる資金の一部を農業振興(本来的にサービスで赤字の持ち出しが必然)に還元する。
結局は自分たちの食をみんなで支えるというサイクルを農協が地域で回している。
まさに「共助」「共生」である。
全国では、例えば、平成25事業年度で営農指導事業の経常ベースの部門赤字額は1100億円(1億5500万円/1JA)、これを信用事業で303億円、共済事業で212億円、農業関連事業(販売・購買)で466億円、生活事業等で118億円負担している。
農協を核に、地域の農と食と暮らしが循環する。
信用・共済事業を切り離せというのなら、それでは農業振興ができなくなるのだから、農協は農業振興を、という話と矛盾する。
農業振興をせよというなら、信用・共済事業は切り離せないということになる。
②③については、協同組合による共販・共同購入が独禁法の「適用除外」になっている(独禁法22条)のが不当だとする要求も強まっている。
共販・共同購入を崩せば、農産物をもっと安く買い、資材を高く販売できるからである。
しかも、「適用除外」がすぐにできないなら、解釈変更で独禁法の適用を強化して実質的に「適用除外」をなし崩しにするという「卑劣な」手法が強化されつつあることは看過できない。
独禁法の厳格適用を恐れてはいけない。
萎縮効果を狙った動きに過剰に反応したら、思う壺にはまる。
世界的にも認められている共販の権利は堂々と主張し続けるべきである。
近年、EUでは、2009年に飼料価格高騰による酪農家の苦境を経験し、2015年からの生乳の生産調整の廃止に伴う乳価下落の影響も懸念されていた。
そうした事態の酪農への影響を緩和するには、寡占化した加工・小売資本が圧倒的に有利に立っている現状の取引交渉力バランスを是正することにより,公正な生乳取引を促すことが必要との判断から、2011年に「ミルク・パッケージ」政策が打ち出された。
その政策の一環として、独禁法の適用除外の生乳生産者団体の組織化と販売契約の明確化による取引交渉力の強化が進められている。
頻発するバター不足の原因が酪農協(指定団体)によって酪農家の自由な販売が妨げられていることにあるとして、「改正畜安法(畜産経営の安定に関する法律)」で酪農協が二股出荷を拒否してはいけないと規定して酪農協の弱体化を推進する我が国の異常性が際立っている。かつ、これに先立つ農協法改正で専属利用契約(組合員が生産物を農協を通じて販売する義務など)は削除され、加えて事業の利用義務を課してはならないと新たな規定を設けてしまっている。
案の定、「酪農家が販路を自由に選べる公平な事業環境に変える」と政権が畜安法改定の意義を強調し、生乳流通自由化の期待の星と規制改革推進会議がもてはやした会社が2019年11月末頃から一部酪農家からの集乳を停止した。
乳質問題を理由にしているが、需給調整機能を持たずに集乳を拡大して販売に行き詰まったものと推察される。
そもそも、畜安法の改定は、我が国でも独占禁止法の適用除外として認められている権利を損なう内容であり、専属利用契約を削除した農協法の改定とともに独占禁止法と矛盾する改定がおこなわれている問題点も含め、再検証が必要と思われる。
(中略)
・危険な食品は日本に向かう~使い分けるオーストラリア
先日、あるセミナーの開会の挨拶で「ヨーロッパでは(医学界で乳がん細胞の増殖因子とされているエストロゲンなどの成長ホルモンが肥育時に投与されている)米国の牛肉は食べずに、オーストラリアの牛肉を食べています」との紹介があった(札幌の医師が調べたら米国の赤身牛肉はエストロゲンが国産の600倍も検出された)。
そのあとの私の話の中で、次のことを補足させてもらった。
「日本では、米国の肉もオーストラリアの肉も同じくらいリスクがあります(ホルモン・フリー表示がない限り)。オーストラリアは使い分けて、成長ホルモン使用肉を禁輸しているEUに対しては成長ホルモンを投与せず、ザル(法)になっている日本向けには、しっかり投与しています。」
米国は米国産牛肉の禁輸を続けるEUに怒り、2019年にも新たな報復関税の発動を表明したが、EUは米国からの脅しに負けずに、ホルモン投与の米国牛肉の禁輸を続けている。
EUは米国の肉をやめてから7年(1989~2006)で、多い国では乳がんの死亡率が45%減ったというデータが学会誌に出ている。
そうした中、最近は、米国もオーストラリアのようにEU向けの牛肉には肥育時に成長ホルモンを投与しないようにして輸出しようという動きがあると聞いている。
かたや、日本は国内的には成長ホルモン投与は認可されていないが、輸入(牛肉の約70%が輸入)については、ごくわずかなモニタリング調査だけで、しかも、サンプルを取った後は、そのまま通関されて市場に出ていくので、実質的には、ほとんど検査なしのザルになっている。
だから、オーストラリアのような選択的対応の標的となる。
オーストラリアからの輸入牛肉がこういう状態にあることは日本の所管官庁も認めている(筆者が電話で聞き取った)。
・米国でも敬遠され始めた「ホルモン」牛肉
最近、女性誌で、「米国国内でも、ホルモン・フリー(不使用)の商品は通常の牛肉より4割ほど高価になるのだが、これを扱う高級スーパーや飲食店が5年前くらいから急増している」と紹介されている。(逆にホルモン使用でそれほど安くなっているということを知る必要がある。)
また、ニューヨークで暮らす日本人商社マンの話として、「アメリカでは牛肉に『オーガニック』とか『ホルモン・フリー』と表示したものが売られていて、経済的に余裕のある人たちはそれを選んで買うのがもはや常識になっています。自分や家族が病気になっては大変ですからね。」と紹介されている。
一方の日本は、日米貿易協定が発効された2020年1月だけで前年同月比で1・5倍に米国産が増えるほど、米国の成長ホルモン牛肉に喜んで飛びついている「嘆かわしい」事態が進行している。
米国も、米国国内やEU向けはホルモン・フリー化が進み、日本が選択的に「ホルモン」牛肉の仕向け先となりつつある。
米国乳製品の安全性も心配である。
米国は、M社開発の遺伝子組み換え(GM)牛成長ホルモン(rBGHあるいは rbSTと呼ばれる)、なんとホルスタインへの注射一本で乳量が2~3割も増えるという「夢のような」ホルモンを、絶対安全として1994年に認可した。
ところが、数年後には乳がん、前立腺がん発症率が7倍、4倍であると勇気ある研究者が学会誌に発表した。
そのため消費者が動き、今では、米国のスターバックスやウォルマートやダノンでは「うちは使っていません」と宣言せざるを得ない状況になっているのに、認可もされていない日本には素通りしてみんな食べている。
米国で締め出されつつある「ホルモン」乳製品が日本に来ていることになる。
日米貿易協定でもっと米国乳製品が増える(米国酪農界は第二弾交渉でTPP11各国に付けられてしまった米国枠の失地回復を強く求めている)。
日本の酪農・乳業界は、風評被害で自分たちの牛乳も売れなくなると心配して、そっとしておくという対応をやめて、GM牛成長ホルモンついての情報をきちんと伝えるべきである。
それが国民の命と健康にかかわる仕事をしている者の当然の使命であるし、自分たちは使用せず、ホンモノを提供しているのだから、それを明確に伝えることは消費者への国産牛乳・乳製品への信頼と消費増大に寄与するはずである。
(つづく)
■日本の食と農が危ない!―私たちの未来は守れるのか(下) 東京大学教授・鈴木宣弘(2021年1月28日)
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/19976
・米国人が食べないものを日本に送るのか~日本人は家畜ではない
米国の穀物農家は、日本に送る小麦には、発がん性に加え、腸内細菌を殺してしまうことで様々な疾患を誘発する除草剤成分グリホサートを雑草でなく麦に直接散布して枯らして収穫し、輸送時には、日本では収穫後の散布が禁止されている農薬のイマザリルなど(防カビ剤)を噴霧し、「これは〇〇(日本人への蔑称)が食べる分だからいいのだ」と言っていた、との証言が、米国へ研修に行っていた日本の農家の複数の方から得られている。
グリホサートについては、日本の農家も使っているではないか、という批判があるが、日本の農家はそれを雑草にかける。
それが問題なのではない。
農家の皆さんが雑草にかけるときも慎重にする必要はあるが、いま、問題なのは、米国からの輸入穀物に残留したグリホサートを日本人が世界で一番たくさん摂取しているという現実である。
農民連分析センターの検査によれば、日本で売られているほとんどの食パンからグリホサートが検出されているが、当然ながら、国産や十勝産と書いてある食パンからは検出されていない。【表⑪参照】
しかも、米国で使用量が増えているので、日本人の小麦からのグリホサートの摂取限界値を6倍に緩めるよう要請され、2017年12月25日、クリスマス・プレゼントとして緩めた。
残念ながら、日本人の命の基準値は米国の必要使用量から計算されるのである。
ユーチューブで公開されている動画の中で、米国穀物協会幹部エリクソン氏は、「小麦は人間が直接口にしますが、トウモロコシと大豆は家畜のエサです。米国の穀物業界としては、きちんと消費者に認知されてから、遺伝子組み換え小麦の生産を始めようと思っているのでしょう」とのべている。
トウモロコシや大豆はメキシコ人や日本人が多く消費することをどう考えているのかがわかる。
われわれは「家畜」なのだろうか。
また同じく、米国農務省タープルトラ次官補は「実際、日本人は一人あたり、世界で最も多く遺伝子組み換え作物を消費しています」とのべている。「今さら気にしても遅いでしょう」というニュアンスである。
小麦も、牛肉も、乳製品も、果物も、安全性を犠牲にすることで安くダンピングした「危ないモノ」は日本向けになっているが、命を削る安さは安くない。
日本では、まさか小麦にグリホサートはかけないし、乳牛にrBST、肥育牛にエストロゲンも投与しない。
コロナ・ショックの教訓とともに、得られるメッセージは単純明快である。
国産の安全・安心なものに早急に切り替えるしかないということである。
(中略)
・武器としての食料~胃袋から支配する米国
例えば、米国では、食料は「武器」と認識されている。
米国は多い年には穀物3品目だけで1兆円に及ぶ実質的輸出補助金を使って輸出振興しているが、食料自給率100%は当たり前、いかにそれ以上増産して、日本人を筆頭に世界の人々の「胃袋をつかんで」牛耳るか、そのための戦略的支援にお金をふんだんにかけても、軍事的武器より安上がりだ、まさに「食料を握ることが日本を支配する安上がりな手段」だという認識である。
ただでさえ、米国やオセアニアのような新大陸と我が国の間には、土地などの資源賦存条件の圧倒的な格差が、土地利用型の基礎食料生産のコストに、努力では埋められない格差をもたらしているのに、米国は、輸出補助金ゼロの日本に対して、穀物3品目だけで1兆円規模の輸出補助金を使って攻めてくるのである。
ブッシュ元大統領は、国内の食料・農業関係者には必ずお礼を言っていた。
「食料自給はナショナル・セキュリティの問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国はなんとありがたいことか。それにひきかえ、(どこの国のことかわかると思うけれども)食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にさらされている国だ。(そのようにしたのも我々だが、もっともっと徹底しよう)」と。
また1973年、バッツ農務長官は「日本を脅迫するのなら、食料輸出を止めればよい」と豪語した。
さらには、農業が盛んな米国ウィスコンシン大学の教授は、農家の子弟が多い講義で「食料は武器であって、日本が標的だ。直接食べる食料だけじゃなくて、日本の畜産のエサ穀物を米国が全部供給すれば日本を完全にコントロールできる。これがうまくいけば、これを世界に広げていくのが米国の食料戦略なのだから、みなさんはそのために頑張るのですよ」という趣旨の発言をしていたという。
戦後一貫して、この米国の国家戦略によって我々の食は米国にじわじわと握られていき、いまTPP合意を上回る日米の二国間協定などで、その最終仕上げの局面を迎えている。
故宇沢弘文教授は、友人から聞いた話として、米国の日本占領政策の二本柱は、①米国車を買わせる、②日本農業を米国農業と競争不能にして余剰農産物を買わせる、ことだったと述懐している。
占領政策はいまも同じように続いているのである。
【鈴木宣弘(すずきのぶひろ)東京大学教授】
1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業。農学博士。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より東京大学教授に就任。専門は農業経済学。日韓、日チリ、日モンゴル、日中韓、日コロンビアFTA産官学共同研究会委員などを歴任。『岩盤規制の大義』(農文協)、『悪夢の食卓 TPP批准・農協解体がもたらす未来』(KADOKAWA)、『亡国の漁業権開放 資源・地域・国境の崩壊』(筑波書房ブックレット・暮らしのなかの食と農)、『だれもが豊かに暮らせる社会を編み直す 「鍵」は無理しない農業にある』(同)など著書多数。
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日本の食と農が危ない!―私たちの未来は守れるのか(中) 東京大学教授・鈴木宣弘
長周新聞 2021年1月22日
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/19886
■安倍政権が切り捨てる日本の食と農。日本だけが輸入する危険な食品<鈴木宣弘氏>
・日本の食と農が崩壊する!
・日本にだけ輸出される危険な食品
「安倍政権には、日本の食の安全を守る気がありません」
ハーバー・ビジネス・オンライン(扶桑社) 2019.12.22
■「リスクのある小麦」の輸入を続ける日本の末路
・発がん性指摘される農薬を効率重視で直接散布
「グリホサートを、雑草ではなく麦に直接散布」
「これはジャップが食べる分だからいいのだ」
東洋経済 2021/08/27
■大豆、サーモン…米国から輸入する食品の安全性を専門家が問う
「安倍晋三首相とトランプ大統領との間で、日米の貿易交渉」
「遺伝子組み換えによって作られた大豆」
「米国では、穀物だけでなく、動物においても遺伝子組み換え操作」
女性自身(光文社)2018/10/05
■安倍政権下、発がん性ある米国産牛肉等の輸入急増…EUで輸入禁止のホルモン剤使用
「EUやロシアや中国で輸入が禁止されている成長促進ホルモン剤」
「発がん性があるとしてEU、中国、ロシアでは塩酸ラクトパミン残留の豚肉の輸入を禁止」
Business Journal 2020.01.29
https://biz-journal.jp/2020/01/post_138868.html
■【安倍政権】米余剰トウモロコシ輸入決定 日本に“危険食品”大流入危機
「米国産トウモロコシの約9割が遺伝子組み換え」
「武器も言われるがままに“爆買い”してきた安倍首相。今度は危険な食料を“爆買い”」
日刊ゲンダイ:2019/08/27
■安倍政権、ゲノム編集食品の非表示を容認へ…安全性不明なまま、消費者団体の反対を無視
「まさか国が、国民の健康を害するようなものを販売することを許可することなどないはずだ、と盲目的に思い込んでいる」
Business Journal 2019.10.21
■安倍政権、日本の農業を根絶せしめる愚行…ひっそり種子法廃止で
・外国産や遺伝子組み換えの米が蔓延する危険
「食料を支配された国は、まちがいなく主権を奪われます。66年前に主権を回復した日本は今またそれを自ら放棄しようとしています」Business Journal 2018.03.15
https://biz-journal.jp/2018/03/post_22622.html
■日本農業を売り渡す安倍政権
2016年12月31日【植草一秀(政治経済学者)】
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