「自社ビルを持たない」理由とは?
大石良/株式会社サーバーワークス創業者
私は、一つ決めていることがあります。
それは「自社ビルを持たない」こと。
自社ビルを持つというのは、「会社の限界はここまでです」と宣言しているようなものだと思うのです。
規格も同じで、取ってしまえば「規格以上の仕組み」を作ることはできないと思います。
私たちは規格という城を敢えて持たないことで、柔軟かつ拡張可能で、サービス品質の向上につながる仕組みを作り続けることができると思うのです。
大石良(サーバーワークス創業者)とは?
大石良。
1973年新潟市生まれ。
1996年東北大学経済学部卒業。
丸紅株式会社入社後、インターネット関連ビジネスの企画・営業に従事。
2000年サーバーワークス設立、代表取締役に就任。
2019年サーバーワークス、東証マザーズに上場。
世界で最もシェアの大きいクラウドサービスのひとつ「AWS(アマゾンウェブサービス)」に特化したソリューションサービスを行っている。
大石良(サーバーワークス創業者)の「コトバ」
自分の生きた証を残すなんていうと大げさですが、新卒社員にいろいろと会社の価値感やものの考え方、問題解決の方法を教え、それがその社員の考え方のベースとなり、また新たな新卒社員に引き継いで行かれれば、立派に文化を継承していると言えると思います。転職の経験がある方はおわかりかと思いますが、「最初に入った会社」というのはやはり特別なものです。真っ白なキャンパスに会社の文化の下絵を描く。それは相手が新入社員だからこそできることだと思いますし、この体験、即ち「教えることによって自分が学ぶ」ことこそが、新卒を採用する真の価値だと思います。
日本という国の人口が減り就労人口が確実に減りゆく中で、会社を、社会をよくしていこうと考えるならば真剣に生産性の問題に取り組まなければなりません。そのためには、「難しい」とか「知は人に宿るもの」といった言い訳を排除し、会社として知のレバレッジを最大化させる仕組みを作っていかなければならないと強く思っています。
『アメリカはこうなのに、日本は違うので残念』という発想自体を見直して、日本ならではの進化を肯定すべき。
もともと日本は、文字も、倫理も、死生観も中国から輸入して、独自の解釈を加えてすばらしい文化を築き上げてきた国です。ネットだって、「アメリカと同じ」や「アメリカならではのすばらしさ」をそのまま持ってくるのではなく、日本独自に加工してしまえばよい。日本人にとってのウェブは「輸入して、ローカライズして、消化する」ものであって、その結果原形をとどめていなかったとしても、それをもって「残念」とするのではなく、ローカライズによる「必然」だと私は考えます。クルマだって元々は日本で作ったものでもないし、今でもフェラーリみたいに「こりゃすごい」というクルマはやっぱり欧米のものが多い。それでも価格や性能、サポートや信頼性といった総合的な観点で世界中の人たちが日本車を買うわけです。単純な比較はできませんが、ウェブもそのモデルを目指すべきだと考えます。日本のウェブは、「単体では見劣りするが全体でみると結構いい線をいっている」というのが私の思うところで、時間はかかるけれどもちゃんと消化して少しずつ良くしていく。それが日本の得意技だと思っています。
試みとして、「リフレッシュスペースの造作は社員に任せた」というものがあります。リフレッシュスペースとは、その名の通り「リフレッシュするための場所」ですから、もうこれは社員が相談しあって「何があれば自分たちがリフレッシュできるか」を決めてもらった方が絶対に良い。そう思い、予算だけ決めてあとは任せることとしました。会社のオフィスとは、現代の知的労働者にとっておそらく最も活動時間の長い場所です。であればこそ、現実的に可能な範囲でよりよいものを、ただし「やり過ぎずに、成長とともによくしていくんだ」という精神を宿すような場所にしていきたいと考えています。
ITは若い業界ですから、どんどん新しい技術が生まれ、チャレンジすべき課題がでてくる。どの技術が自分たちの、またはお客様の問題を解決できるのかを想像して、ジグソーパズルの様に頭の中で1ピースずつ埋めていくわけです。そして、ただの絵だったものを、仲間とともに実際に動く「システム」として一つ一つ組み立てていく。もちろん、その課程では想定通りにいかなかったり、スケジュールが厳しかったりといった難関が待ち構えている。そうした困難を皆で解決し、感動的なゴールを迎えることができれば、お客様には感謝されるし、社内では盛大な打ち上げが待っている。仲間との連帯感も高まり、すばらしい思い出が共有できる。それがまた次の、新しくて高い目標を超えるための原動力になるわけです。
私たちは、長期的な成長を目指しています。社長が「これやれ!」といって「アイサー!」と盲信的に動く集団ではなく、自らが考え自発的に動ける、そのために多様な考えを受け入れ、消化し、成長の糧にすることができる組織が私たちの理想です。その理想を実現するためには、自らも「多様性」に対する正しい理解、すなわち「組織には様々な人がいて、それぞれの人に存在に意味がある」という信念を持つ必要があります。
単純な分類で思考を止めてしまうのではなく、複雑なものを複雑な姿形のまま捉え、理解し、制御する知性。私たちが目指す「バランスの取れた成長」を目指すためには、そうした知性と、複雑さに飛び込む気持ち。この2つが重要だと考えています。
「良い会社」というのは無いんです。良いと思う点にも、人間の性格と一緒で、必ず裏があるんです。肝心なことは、「共感できるか」どうかです。
私たちも、未来を予言することはできません。ですから、未来は作っていくしかない。それでも、「こうなって欲しい」という未来と、現実とがかけ離れていくことは往々にしてある。そのときに、如何に素早く理想へ向かうための軌道修正をおこなうか、その敏捷性は絶対に持っていなければいけない。過去の自分の判断・決断・投資といったサンクコストによって、ベストへの道が閉ざされることがあってはならないと思っています。
「クラウド時代にSIerは必要か?」これは、必要です。断言できます。どのくらい必要かというと「どんなに薬が進化しても、医者がいらなくなるわけではない」ことと同じ、と考えています。今まで、ITの課題を解決するためには「お医者さん」が必要でした。個別のケアができる代わりに、コストも時間もかかり、満足度という点で微妙なケースが多かった。そこに突然、AWSという「新薬」が登場したわけです。非常に安価で、すぐに手に入り、使った分だけ支払えばよい。ですが、やはり「薬」ですから、「処方箋」は必要なわけです。もちろん、自分の判断で服用することもできますが、飲み合わせや副作用などの情報があるわけではない。そこは自己責任になります。
小さな会社の特長とは「できあがっているのではなく、自分で創ること」だというもの。大きな会社は福利厚生や会社に備えられたレストランなどを自慢するが、それは「与えられたもの」であって、映画「マトリックス」の世界にあるカプセルに自分で飛び込むようなものだ。大きく、できあがった会社で「脳みそだけ動かせば、後は会社が食事から寝所まで全部面倒をみてやるぞ」という姿勢は、巨大な人間飼育工場の様な気色悪さを感じるのです。そういう「与えられたもの」で満足だ、コード以外の事は一切考えたくない、という人は迷うこと無くそこに行けば良い。でも、もう少し人間的に「何か自分が貢献することで、少しずつ自分の、会社の環境が、そして社会が良くなっていく」というレベルアップを楽しみたい人は、小さな会社が向いていると思うのです。
今までは会社が若者を選別する時代でした。ところが、若者が貴重な資源となる今後は、若者が会社を選別する時代 になるわけです。若者が減る時代の企業経営に求められることは「若手に来てもらう経営」であって、これをやらなければ企業も老人とともに年老いて滅びるしかない、ということを意味しています。つまり、変えなければいけないのは「働き方」ではなく「社員と会社の関係性」なのです。私たちはこれを「関係性改革」と呼んでいます。今まで業者だと思っていた会社が突然顧客になる。今まで生徒だと思っていた人が突然先生になる。それと同種の変化が、社員と会社の間に起こり始めていて、そしてそれは二度と逆転することのない不可逆的なものであるわけです。
「なぜ上場なのか」という問いに対する答えは、「ビジョンの実現のため」しかありません。私たちは企業向けのAWS導入に特化してきた関係上、顧客である企業の皆様に「安心してAWSという優れたサービスを使って頂きたい」という想いを持ち続けてきました。しかしAWSが成長するにつれ「AWSの信頼性は理解したが、サーバーワークスはどうか?」と聞かれる機会が増えてきてしまったのです。確かにパブリッククラウドを勧める立場の会社がプライベートなままでは、紺屋の白袴ではありませんが、言っていることとやっていることが違うと言われかねない危機感は常にもっておりました。パブリッククラウドがAPIを通じてどこからでもアクセスできるようにすることで、利用を促し、品質を高めてきたことと同様に、会社も市場(というAPI)を通じて情報をオープンにし、安心してサーバーワークスという会社のサービスを使って頂ける環境を用意し、経営の品質を高めていくことを企図して上場を選択したものです。企業の皆様のインフラをお預かりするビジネスを続ける以上、これからも情報開示を徹底し、経営のレベルも上げ、皆様に安心してお使い頂けるサービスを提供して参ります。
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